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 第35話 インターミッション (1)

こんな感じで、初めての依頼はみんなが幸せな形で解決した。その後もハイネは毎日少しずつだが良くなっていってるそうだ。

良かった。

人から期待されて、信じられて、超能力を使ったのははじめてだったんでな。

余韻に浸るくらいは許してくれ。


とは言っても、次々に依頼が来るほど世の中はうまく出来ていない、というか、世の中そんな酷くないという方が良いのか?


小山内も、この前の榎本さんの一件で俺に超能力があることをますます確信したみたいだが、かえって次の依頼の選定に慎重になったみたいだ。

それとなく状況を聞いたら、考え込むような顔をして、


「どうしよう、もっと慎重にした方がいいかしら。」


と相談された。

いや、もっと慎重も何も、俺は、未だにどうして小山内が榎本さんの依頼を受けることになったのか聞かされてないんだが。


まあそんなふうに小山内が慎重になってて次の依頼がいつくるかわからない。

その代わり、歴研の鳥羽先輩から誘いが来た。


今度歴研で、というより鳥羽先輩と篠田先輩が一緒に学校近くの城の遺構を確認しにいくのに一緒に行かないかというものだ。


城の遺構と言ってもそんな大それた名城というわけでなく、歴史に埋もれた城が地元にもあると言われてるのでその現状調査が目的らしい。


小山内に相談したら、行ってもいい、ということだったから、俺たち2人も参加することになった。


誘いのあった次の週末。

俺たちは、藪の中に入って行ける服装で、という鳥羽先輩たちの指示通りの格好で、集合場所に指定されたいつもの駅の前に集まった。


小山内は緑を基調にしたチェックで厚手のシャツにぴっちり目のGパン、白のキャップ、スニーカーという出立ち。

「これでいいのかな。」と聞かれたけど、よくわからん。

ちなみに俺の方も、まあ厚手の長袖にGパンだから、小山内が不合格ならおれもアウトだろう。



しばらく待ってると、鳥羽先輩達が学校の方から一緒にやってきた。

なんと、鳥羽先輩達は作業着風の上下に長靴着用というまさかの探検スタイル?!


「安心していいよ。僕たちはいろいろ入り込んだり潜り込んだりするかもしれないからこういう格好をしてるんだ。君達はとりあえず行けるところまででいいから。」


と鳥羽先輩は言ってくれたけど、入り込んだり潜り込んだりって何やるつもりなんだ?


とりあえず駅前で自転車をレンタルして最初の目的地に向かう。なんだか小山内も「この道どこに出る道なんだろう」、とか「あそこのお店、有名なお店なの。帰りに寄れないかな。」なんてことをニコニコしながら話しかけてきたりして、とても楽しそうだ。今日の中の人は変なもんでも食ったのか?というくらいの上機嫌。

鳥羽先輩や篠田先輩にも声を掛けて和やかに進んでいく。


鳥羽先輩からは、歴研ではこの現地行を「巡検」と呼んでて、本来は歴史分野と言うより地理分野の用語だけど、自分たちはずっと前の先輩からそう呼び習わしているという蘊蓄系の話しも教えて貰った。



古そうな町並みを抜けていく道を、春の柔らかい日差しのもと山の方に向けて気持ちいいサイクリングをしながら10分くらい漕いだら俺たちは目的地に着いた。

とっくに市街地は抜け、田んぼが広がる中、所々に、山からせり出してきた尾根の裾が入り込んでいるような場所だ。

鳥羽先輩が自転車を止めたのは、その尾根の裾が川に近づいて、うっそうとした木々が生えている場所のそばだった。


道の脇が少し開けて草が生えているところがあって、そこにみんなで自転車を停める。


「ここが最初の目的地で、あの木々が生えているあたりが遺構になっている。」


そう言いながら、鳥羽先輩は、目の前の林の中心部分を指した。


「篠田君、地形図を。」


そう言いながら鳥羽先輩はスマホで方位がわかるソフトを起動して、篠田先輩が首から提げていたジッパーつきのビニールの袋から取り出した、等高線が引かれた地図にあてた。


「集まってください。」


キョロキョロあたりを眺めていた俺と小山内を呼んだ鳥羽先輩は丁寧に説明してくれた。


「このあたりは、戦国時代には、三辺氏が支配していたことは知っているかな?」


俺たちが揃って「知りません。」と首を横に振ると、


「駅の近くに、三辺公園というのがあるんだけど、そこがこのあたりを支配していた三辺氏の城跡なんだ。ただ、三辺氏がこの地区に進出してきたのは戦国期になってからで、その前は遠西氏という一族が支配していたといわれている。」


そう言いながら、鳥羽先輩は地形図を指でなぞって、その支配範囲の変化を教えてくれた。


「ところで、私たちが通ってきた道なんだが、この道は、おそらく平安期以降には街道として使われていただろうと言われている。さっき小山内君が、この道はどこに出る道だろう、って言っていたが、この先、この道はこの山を越えていく。近代以降の付け替えなどで、道の位置は変わっているけれど、同じように、昔からの街道も山越えをしていく。」


地形図にもそれが描かれていて、鳥羽先輩は俺たちが地形図でそれを確認したことを見て取ると、新緑に染まりつつあることがわかる、道の先にある山を指さした。


「さて、ここには、もう一つの道がある。どこにあるかわかるかい?」


鳥羽先輩は俺たちに地形図を見せながらクイズを出した。


地形図には古い街道から分岐する細い道がたくさん描かれているが、それを聞いているのではなさそうだ。

だが、それなりの太さで遠くまで通じている道というと、見当たらない。

小山内はと見ると、目をきらきらさせながら熱心に地形図を見入っている。

歴女の目だ。

なんだかんだ言って、小山内は歴史が好きなのか。


「わかった、かもしれません。」

「ほう。」

「これがその道ですね。」


小山内が地形図に指を滑らせて示したのは、水色で塗られた、道?

それは俺たちの前を通っているはずなのに、道なんてないぞ?

そうか、川か!


「お見事!」


鳥羽先輩嬉しそうだ。

小山内も笑顔をこぼしながら頷いた。


「目の前の川だが、時代によってすこし流れは変わっているものの、昔からこのあたりを流れていた。見てわかるとおり、それなりの太さのある川で、流れも緩やかだらか、昔は、水運が盛んだった。つまり、水の道だね。」

「そうか、ここで、陸の街道と、水の道が交わったんですね!」


小山内が小難しいことを言い出したが、言いたいことは何となくわかる。


「そうだ。ただ、川の流れが変わったか、堆積などのために水運に適さなくなったかでこのあたりが栄えたのは、江戸時代前期までといわれている。その後に栄えたのが、さっき通ってきた三辺氏の時代の宿場町というわけだ。


へえ、面白いな。


「さて、遠西氏の時代には、このあたりが栄えていて、その富を狙った三辺氏がこのあたりを奪った、という流れになるんだが、その遠西氏の居館、または居城跡といわれているのが、まさにここだ。」


なるほどー。

小山内も話を聞きながら目をきらきらさせてるぞ。

これは内緒だが、なんとなく面白くない。


「というわけで、いまから、それを確認します。」


何を?

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