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 第34話 最初の依頼 (4)

その夜、小山内からメールが来て、ハイネは本当に良くなっていたと榎本さんから連絡があったって、教えてくれた。よろよろしてるけどきちんと右側の足も使って立つ、白いひげを蓄えたわんこの動画も添付されていた。ただ、詳しくは明日榎本さんから直接教えてくれるらしい。


そんで翌朝。

かなり早く登校するようにとも昨日の小山内のメールにあったので、俺はいつもより30分ほど早く家を出た。

眠い。

当たり前だろ。

おかげで、電車で座れたけど、寝過ごしそうになった。

小山内に怒られる夢を見て飛び起きたんで無事だったけどな。

俺、小山内に脳を支配されつつあるのか?なんてバカなことを考えながら昇降口へ。


そこで、教室から降りてきた小山内と榎本さんと会った。


「おはよう。」

「おはようございます。」

「遅い。」


おまえは、朝の挨拶くらいちゃんと出来ないのか。


「早くなかったから、おはようじゃなくて、遅いって言ったのよ。」


あいもかわらず、小山内は、俺の表情で俺の言いたいことを察しやがる。

まあいい。


「2人でどうした?」

「あんたが遅いから、先に藤棚に行こうって事になったの。」

「はい。ごめんなさい。凜ちゃんが、早く聞きたいから俺君を迎えに行こうって。」


あ、そうか。小山内は、先にハイネの様子を聞かずに待っててくれたのか。

だったらあんなつっけどんな言い方せずに、そう言えば良いのに。


「すまん。でもこれでもいつもより30分は早いんだからな。」

「もっと早く来ないと、教室で話せないでしょ。もう何人も来てるんだから。」


あ、そういうことだったのか。だったらそう書いてくれればもっと早く…もうちょっと早く来たたんだがな。とはいえ、教室に行っても話が出来ないからいつもの藤棚へ。

図書館前のテラスの方も人がまばらだから、そっちでも良いんじゃないかとも思ったけど、小山内は俺と榎本さんを引き連れて、どんどん藤棚のほうへ歩いてく。

へいへい仰せのままに。


まだひんやりとしてる藤棚のベンチに腰掛けた俺たちは、早速榎本さんから話を聞いた。


「はい。ええと、俺君もいますので、昨日メールしたところももう一度話しますね。」


榎本さんは気が利くな、と思ってニヤニヤしながら小山内を見たら、睨まれた。怖っ。でも自覚あるなら俺にもいい方の中の人を差し向けてくれ。

そんな頭上で繰り広げられる小山内と俺とのルーチンに気付かない榎本さんは、スマホを操作して動画を再生して見せた。


「凜ちゃんには見せたことがあるんですが、この子がハイネです。」


昨日のメールの動画に映ってたひげの白い犬が、元気に公園を跳ね回る様子が映っている。


「これが、具合が悪くなる前の最後のものです。それで、ここに映ってるのが。」


榎本さんはそう説明しながら、別の動画を再生した。


「具合が悪くなった後のハイネです。」


ハイネは家のなかで、毛布がひかれた一画でうずくまり、悲しそうにこっちをいている。

立ち上がろうとモゾモゾするけど、動くのは左側の前足と後ろ足だけ。

動きを止めて、悲しそうに一鳴きした。


次に見せてくれた動画は、榎本さんのママらしい人がハイネの右側の足を「痛くない痛くない。動ける動ける。」といいながらマッサージしている。

でも、ハイネはされるがままで、足を自分で動かしている様子は無い。


「これが3日前のハイネです。昨日の朝も、動けずに、この場所から、家を出る私を見送ってくれました。いつも、玄関まで出てきて、行ってらっしゃいって、してくれてたのに。」


その時のハイネの辛そうな様子を思い出したのか、榎本さんは泣きそうな顔になった。小山内も眉をしかめながら覗き込んでいる。


「それで、昨日家に帰って、しばらくしたら、ハイネが帰ってきて。ママがお医者さんの所に連れて行っていたんですが、帰ってきたときには、もう、立って歩けるようになってました。まだまだよろけながらなんですが、お医者さんは、ずっと右足を使ってなかったので筋肉が衰えてるんだろうって仰ってたって。」


そう言いながら、榎本さんは、別の動画を再生した。

榎本さんが「ハイネ、ハイネ」と呼びかけながら、近寄ると、ハイネが、立ち上がって、よろよろとしながらだが近づいてくる様子だ。途中からは昨日のメールに添付されてた動画と同じだから、これを編集したんだろう。途中で撮影者が変わって、榎本さんとハイネが一緒に映りだした。ハイネは榎本さんの手を一生懸命嘗めてる。立ち上がって、顔を嘗めようとしたけど、よろよろしたので、榎本さんが支える。榎本さんの母親の声だろうか、「まあ、立ち上がれるの?」という声も入って、そこで動画が終わった。


「お医者さんは、リハビリを続ければ、もっと良くなるんじゃないかって。リハビリを続けていったら良くなる子がいっぱいいるし、こうやって、劇的に良くなる子もいるってお話しだったそうです。」


俺と小山内は、顔を見合わせた。

つまり、ハイネの回復は俺の超能力とは無関係に起こっても、全然不思議じゃ無いってことだよな。

でもタイミング的に、俺があの言葉を言った直後みたいだし。

どうなんだろ?

俺の経験からは、多分俺の超能力っぽいんだが。


「俺君、凜ちゃん。ありがとうございました。ハイネを救ってくれて本当にありがとうございました。」


榎本は深く、おさげが地面につくくらいまで俺と小山内に深く頭を下げた。


「あ、ああ。」

「ユリちゃん、でも。」


榎本さんは、頭を上げて真剣な目で俺を、それから小山内をみた。


「お医者さんの説明でも、なぜ、あのときにハイネが良くなったのか、わからないのです。私にとっては、ハイネを救ってくれたのは、凜ちゃんと俺君です。

凜ちゃんの言っていた言葉が、今の私の気持ちにそのものなんです。」


小山内の言葉?どれだろう?

その時、昨日の、榎本に語りかけた小山内の言葉が蘇ってきた。


「偶然とか奇跡とかそういうことを含めたら説明できるけど、このタイミングで奇跡が起こった、って言われるより、超能力で救われた、っていう方がよほど信用出来る」


うん。俺も。こういう説明が一番すっきりする。

じゃ、まあいっか、俺の超能力ってことで。


「わかった。ハイネを救えて良かった。ほんとに良かったよ。俺を信じてくれてありがとう。」

「うん。私も嬉しい。ユリちゃん、俺君と私を信じてくれてありがとう。」

「いえ、お礼を言うのは私の方です。」


そう言って、もう一度、榎本はぴょこんと頭を下げた。


そして、


俺たちは、ようやく登校してきた皆の声が響いてくるようになった藤棚で、ハイネがもっと良くなったら、3人で一緒に公園に遊びに行こうってな話しをした。

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