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 第28話 始めましょうか (5)

その後、3人で教室に戻って、榎本さんは、先に帰った。


残ったのは俺と小山内。あと何人かの昨日の受験者。たしかに結果が知りたいだろう。


そこで、合格者なしの結果発表。

誰からもうめき声すら出なかった。

もうその段階はすぎて、榎本さんが合格するかどうかを野次馬根性で確認したかっただけのようだ。

多少のガヤガヤの後、俺に歴史マニアの称号をつけて帰っていった。


さて。


「あんたの話ってなに?面倒ごとは嫌だからね。」


いや、まあたしかに小山内に相談しなきゃならない話をしようとしたんだがな。ややこしい話だから俺のタイミングで始めたかったぜ。

とにかく、小山内が面倒ごとに何を想定してるのかわからんが、面倒ごとには違いない。


「スマホの件だが。」

「うまくいかなかったの?」

「いや、うまくいかなかったわけじゃないんだが。」

「なによ。さっさと言いなさいよ。」


イラっとするのはわかるけど、どう切り出したもんかね。うまく説明できるか?

話す順番を考えながら話し始める。


「両親を説得したらなんとか認めてくれることになりそうだ。」

「なんだ、よかったじゃない。」


小山内が表情を緩めた。


「最後まで聞いてくれ。認めてくれそうにはなったが条件がついた。」

「条件?」

「そうだ。」

「どんな条件なの?」

「小山内を連れて来いって。」


小山内がぽかんと口を開けた。ああ「?」マークがいっぱい浮かんでるのまで目にみえるようだ。

俺は首をすくめて次に来るものに備えた。


「はあ?なんであんたがスマホを買ってもらうのに私を連れて来いってことになるのよ。」


「?」マークは一斉に怒りのマークに変換しつつある。あ、これいつものも来るぞ。


「あんたバカなの?どんな説得したらそんなことになるのよ!」


眉を逆立てて本気で怒ってらっしゃる。

まあそうだろうな。俺が小山内の立場だったとしても同じ反応になるだろ。

だから丁寧に説明するぞ。何故だが胸が苦しくなってきたがな。


「長くなるけどちゃんと話すから聞いてくれ。」

「わかったから早く話しなさい。」


俺は、超能力のせいで中学の時に嘘つき君と言われてたこと、それから逃げるためにこの学校を選んだこと、それを不審に思った両親に嘘をついて誤魔化したこと、両親が担任に話を聞きにいって、俺が嘘つき君と呼ばれている事を知ったこと、そのせいで、俺がいじめられていると両親がひどく心配したこと、それ以来、両親が俺がまた孤立したり虐められるんじゃないかと敏感になってること、だからSNSを使えるスマホを許してくれなかったことを、長くなったが順番に話した。

そして、部長になる奴が俺の中学時代の苦しみもわかった上で一緒に活動しようって言ってくれたことを話したら、連れて来いってなったことを最後に話した。


これ、特に中学時代のことなんか、同級生の女の子に話しするような内容じゃないのはよくわかってる。

けど、俺の苦しみをわかってくれ、その上で、これから一緒に活動していく小山内にはいずれ話さなきゃならなかった俺の過去だ。

だから年頃の男子なら決して女子に話せない内容だと思っていても、小山内には話した。それが誠意とかケジメとかいうもんだろと思うからな。

黙って胸にしまって小山内に何も背負わせないのも、もしかしたら誠意かもしれないが、俺はそこまでかっこよくねえんだよ。


とにかく。話してるうちに俺も落ち着いたし、小山内もいたわるような表情になった。


「わかったわよ。でも私が行ったら逆効果かもしれないわよ。」

「どうしてだ?」

「あなた、私をみてどう思う?」

「? どう思うって、小山内は小山内だが?」

「かわいいとか綺麗だとか思わないの?」


最後はごにょごにょってなった。

あ、自分で言って真っ赤になてるぞ。たしかにかわいい。


「思うぞ。」

「だったらわかるでしょ。」


逆切れ気味に小山内は強く言った。けど俺にはさっぱり。

それが顔に出たんだろう。

小山内は、はーーーっと言いながら肩の力を抜いた。


「あんたって…もういいわ。私があんたの家に部長です、って行ったらどうなると思う?」

「来てくれてありがとうって。」

「それから?」

「?」

「それからあんたのご両親はきっとこう思うわよ。

お前があんなに熱心だったのは、まさかこの美人部長に接近したいからじゃないのか、あの口説き文句は全部出まかせじゃないのか?」


小山内は自分で美人部長って言ったあたりでますます赤くなったが、俺はようやく理解した。

あーあー!


「たしかに。学年で1番綺麗な子を好きになって接近するためなら、必死になったって不思議じゃない。」


小山内、耳たぶ赤いぞ。

多分俺のも。


「でもたぶん大丈夫だ。」

「なんでよ。」

「もしうちに来て両親と会ったら小山内はきちんと説明してくれるだろ?中世史研究会について。」

「そうよ。」

「その時、俺が中学でなんて呼ばれてたか知ってるのに、なんで俺と一緒に部活するのかも説明してくれるんだろ。」

「もちろんよ。超能力のことは話さないけど、それ以外はね。さっきのあんたの話だとそれ話さないとご両親は納得してくれないんでしょ。」

「そうだ。でもそれだけで俺が必死になるのに十分なんだよ。小山内が綺麗だとかかわいいとかは関係なくな。」


小山内はちょっと首を傾げて、本当にそれで大丈夫なのかな、というような表情を見せたが、とりあえず俺を信じるしかないと考えたみたいだ。


「ふーん。そうなの。でも、まあよくわからないけどわかったわ。行ってあげる。いつ行ったらいいの?」


俺は、小山内に、両親が働いてることを説明して、今夜、両親と相談すると伝えた。


「その後、小山内に電話して決めてもいいか?」

「ダメ。」


即座に返された強い拒絶。

あ、っという顔になった小山内は慌てて言った。


「だって、夜、家にいる女の子に男子が電話して来て、男子の家に行く話なんて、していいと思ってるの?」


あー、そうか。

小山内がオーケーしてくれて気が軽くなったから簡単に言ってしまったが、言われた通りダメだ。バレたら親が許さないだろう。


「ごめん。じゃ明日。」

「ええ。」


少し小山内は申し訳なさそうな?複雑な表情を浮かべたがすぐにその色を消して、いつも通りに戻った。

あんなすぐに反応するってことは厳しめの家なんだな。憶えとこう。


俺たちは明日の放課後も教室で相談することに決めてその日は教室を出た。


その後、昇降口で、小山内は森先生に結果を伝えに行くから先に帰れと俺に言い、俺が一緒に行くよと言っても1人で十分とさっさと行ってしまった。

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