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 第26話 始めましょうか (3)

入学前にスマホが欲しいと言ったときに、ガラケーを買ってもらったうことになったのも、この、「ケータイじゃできないの?」からの流れだった。

俺自身、前は、スマホには漠然としたイメージしか持って無くて、それに、皆が持ってるから、とか、入学祝いに買ってくれるんじゃないか、とか、そんな、悪い言い方をすればいい加減な気持ちで言っていた。

両親は、多分、そのことを見抜いてたんだと思う。

そのいい加減な気持ちと、中3の俺に起こったことを天秤に掛けられて、両親の結論は、ガラケーに落ち着いたんだ。

だから、今回は、自分の言葉でしっかり説明を、する。


「うん、俺もそれは考えたんだけど、SNSや会議アプリで部員や交流先の人たちとやりとりできないと、やっぱり難しいと思う。教室で顔をあわせてやりとりするだけじゃ無くて、スマホがあれば、話し合ったり、話しながらすぐに調べたり、ファイルの共有が出来たりするんだ。」


駅近の本屋で帰りに仕入れた知識を思い出しながら、自分のすること、したいことに直して話す。


「もちろん、父さんのパソコンでもその機能は使えるけど、スマホと違って、どこでも、というわけにいかない。よその部との交流の時なんか、学校での部活なのに、家に帰らなくちゃならないって事になる。それでは、責任持って活動できない。」


両親はまた沈黙した。


「どうかな。」


父さんと母さんは顔を見合わした。そして、何か視線での会話があったんだろう厳しい顔をした父さんが話し出した。


「お前の言いたいことはわかった。

だが、スマホはお前が言うような機能ももちろんあるが、お前が想像もしていない悪意との接点にもなるんだ。」

「あんたが中学の時、私たちは独りで抱え込んでたのに気づけなかったの。だから心配なの。今はスマートフォンを使う子ども達が多いのも知ってる。それに高校生になったらもう持っててもおかしくない年だとも。でも心配なのよ。」


やっぱり、ここが、両親の一番の焦点だったんだ。


「あのときは抱え込んでごめん。でも、今回は大丈夫だ。部活の仲間がいるから。」

「でも、あなたを嘘つき君と呼んでたのは、あなたのクラスの仲間だったのよ。担任の先生もあなたの味方じゃなかった。」


そう言って、母さんはしまった、という顔をした。

その様子を見て父さんは、立ち上がって母さんの所に行って母さんの方に手を置いた。

ごめん、父さん、母さん、辛い思いをさせて。でも、どうしても俺を信じて貰わないといけない。


「ごめん、でも俺を信じて欲しい。今度は大丈夫だから。俺の、中学の時のこともわかって、それでも一緒にやろうと言ってくれる仲間がいる。」


父さんと母さんは、黙り込んでしまった。

俺が「嘘つき君」と呼ばれていることが両親にばれ、問い詰められたときのように、また壁の時計のコチコチという音がのしかかってきた。


しばらくして、父さんが、ようやく口を開いた。


「わかった。そこまで言うのなら、考えよう。」

「ありがとう。父さん、母さん。」


そういう俺を父さんは、手で制しながら続けた。


「ただ、母さんの心配も私にはわかる。だから、一度、お前の言うその仲間をうちに連れて来なさい。」


…な、何だって?


「おまえのことをそんな風にわかってくれた友だちなんだろう。私たちからもお礼が言いたいし、その人の人となりも知っておきたい。」


もしかして、俺の説明疑われてます?

…疑われて当然だよな。

嘘つき君だし、俺。


「わたしからもお願い。あんたを疑ってるわけじゃないのよ。でもね、納得が欲しいの。」


父さんもゆっくり頷いた。

母さんも、それが絶対譲らない、という強い視線で俺を見てる。


俺の信用だとここが限界か。ちょっと悲しくなったけど、あのことからまだ半年だもんな。

すまん、小山内。やっぱり最後は、小山内次第か。


「わかった。そいつに聞いてみる。」


両親は、俺の答えを聞いて、少し安堵した表情になった。

おれは不安だけどな。



次の日、登校したらすぐに、昨日の採点のことで、と、榎本さんと一緒に小山内に声をかけられた。朝のざわめきの中を小山内の机に行く。


「朝からごめんなさい。」


小山内は済まなそうな顔をした。こっちは一瞥もせずに榎本さんの方を向いてだけどな。


「朝から採点してもらうって言ってたけど、よく考えたら朝は先生も忙しいでしょ。だから、放課後でいいかな?」

「いいですよ。たしかにそうですね。部活も放課後にならないと出来ないからそれでいいですよ。」


あれ?

榎本さんは小山内の仕込みじゃなかったのか?まさかガチ勢?それとも周りにいる昨日不合格になった奴らへの息のあったパフォーマンス?

んんん?


「というわけだから、あんたも放課後残んなさいよ。」

「わかった。俺もちょっと話というか頼みがあるし。」


俺の言葉に小山内は「なんだ?」って感じに眉を動かしたけど、やって来た竹内さんに声をかけられて、俺は放置された。

いいんだけどね。


元肉壁軍、笑うな。少なくともお前らと違って俺は部活は小山内と一緒だ。

部活だけだがな。


自席に戻ると背中をツンツンされた。

ホリーがもの問いたげに俺を見てる。


「昨日どうなったの?」

「どうって?」

「なんか朝から超ムズだったとか、テルは変態だとかみんな言ってたんで何があったのかって思って。」


そう言いながらホリーは見慣れない紫色の厚手のハンカチみたいなのを器用に折り畳んだり解いたりしてる。

俺にはそっちの方が気になるんだが。


「小山内が趣味丸出しの激辛問題作って皆んながほぼ全滅した。俺以外に残ったのは榎本さんだけ。あと歴史研究部の先輩たちが乱入してきてて、あれやこれやで大団円みたいな。」


「趣味丸出しの激辛」のところで小山内がこっちを睨んだ気がしたけど、さすがに自意識過剰だろな。

竹内さんと楽しそうに話してるし。


「ふーん、それで委員長が呼ばれてたんだね。お疲れ様でした。」

「それでホリーのそれ何だ?」

「これ?帛紗っていってお茶の道具だよ。新入生は練習してきなさいって貸してくれたんだ。」


ホリーは嬉しそうに畳み方を見せてくれた。

こいつほんとに和ませてくれるな。

弁当食ってる時に芸人のモノマネして吹かせるのがなきゃ、お前は本物のイケメンになれたのに。



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