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 第22話 入部テスト (4)

「はい、仰る通りです。ただ、この学校では、多少既存の部と重なる部活があっても新しい部活の設立は自由だと聞いていますが。」


小山内も思わぬ伏兵に一瞬固まりかけたようだが、硬い微笑みをすぐに取り戻してそう指摘した。とりあえず立て直しの時間稼ぎか?

まあ、小山内の言う通り、なんだと思うんだが、どうもそういう話じゃない気がする。


おそらく鳥羽先輩もこの答えは予想してたんだろう、聴き惚れるような感じのビロードのバリトンで自分の目的を説明した。


「うん。そうなんだ。歴史系の部活はうち以外にも甲冑研究会や郷土史研究会もあるからね。

だから、小山内君のやってることがおかしいとかそういう話ではないんだ。

そうではなくて、新しい部活を作ってまで歴史を探究しようって人が新入生に2人もいると聞いてね。ワクワクしたんだ。そうワクワクしたんだよ。今の歴史研究部は、私とそこにいる2年生の篠田君」


そう言いながら、先輩はさっき俺が気づいた2年生を指した。

なるほど、2年生がいたのはそういうことか。


「篠田君のほかに何人か部員がいることになってるんだが、知っての通り、幽霊部の一つになってる。なので、事実上活動は古代史の好きな篠田君と戦国期の好きな私だけがしてるんだ。」


はい、謎解きありがとうございます。なぜか歴史研究部が戦国と古代に特化してたのは、部の方針じゃなくて、2人しかいない部員の興味がそこだっただけのことか。ということは。


「だから、私たちの顧問の斎藤先生から、君が中世史研究会を作って、入部テストの監修を頼まれたって聞いて、君たちと一緒に歴史を探究したいと思って矢も盾もたまらず押し掛けさせてもらったんだ。森先生にも聞いたら、君はどうやら、うちが中世史をやらないって誤解したみたいだけど、そんなことは全然ない。君が入ってくれたら自由に中世史を探究して欲しいんだ。そして私や篠田君と共に歴史を知る喜びを共有しよう!」


鳥羽先輩、語るなあ。

話しながらどんどん声にウキウキ感が混じって、笑顔が深くなって子供みたいな無邪気な笑顔になった。仲間を見つけて嬉しくてたまんない、嬉しい!ってのが初めて会った俺にすら伝わるよ。


どうしたらいいんだ、これ?

これを断ったらどう考えたって不自然だぞ。

鳥羽先輩泣くぞ。文字通り。

それにイケメンのあんな無邪気な笑顔を見て、目をキラキラさせてる女子が何人かいる。もともと中学校で嘘つき君ていわれて女子全般から距離を取られてた俺には女子の人間関係がさっぱりわかんないが、鳥羽先輩をがっかりさせたら、後が変にややこしくならないか?


教室内にいた当事者以外の人間は全員小山内がどう答えるのか興味津々で見守ってる。

基本的に不合格が決まった人間は小山内が作った部活には入れないことが確定なので、気楽に野次馬出来るし、野次馬し甲斐のある展開だ、これ。


俺も、多分当事者だけど、現状、俺の立場からは動けない。だからみんなと同じようにはらはらしながら見守るしかない。


小山内のほうは、鳥羽先輩の演説が終わってから瞳の虹彩を消して、鳥羽先輩を眺めてたけど、あれば脳がフル回転してるんだろう。握った手をグニグニしてるのも見える。

汗が、1滴、2滴流れ落ちそうになったあたりで、小山内は再起動した。


「ありがとうございます。そういうことでしたら、喜んで入部させていただきます。」


ええええええ?!

降伏?

降伏なのか??


鳥羽先輩の無邪気な攻撃が防御不能のクリティカルヒットになって小山内を追い詰めているのはわかっていたけど、小山内ならなんとかする、と信じてた。


とにかく、小山内が新しい部活を作ったのは。

俺は記憶を蘇らせる。


「私が考えたのは、超能力とは全然関係のない部活を作って、そこを活動の拠点にするの。そこであなたと私は活動する。

それで、その部活とは全然別に、私は助けを求めている人を探す。俺との関係を秘密にするために」


そう、これだ。

でも、小山内が歴史研究部に入ってしまったら、この目的を果たせないんじゃないのか?


小山内は俺の懸念に気付いたのかチラッと俺をみて、決意のまなざしでかすかに頷いた。わかってるって?それとも、なんとかする?


「ただ、すでに、中世史研究会は学校への届出も受理されて、正式に立ち上がっています。私は、立ち上げた責任もありますし、俺君を巻き込んでしまった責任もあります。だから、私は、歴史研究部に入りますが、このまま中世史研究会も続けさせてください。お願いします。」


そう言って、小山内は深く頭を下げた。

そうか、文化系ならいくつでも部活に入れるというこの英堂館高校のユニークな部活制度!

この手があったか。しかし、これではまだ半分だ。


それでも、とにかく俺は、急いで立ち上がって、小山内の隣に並んで、同じように深く頭を下げた。


「ありがとう。」

「ありがとな。」


小さく呟かれた小山内と俺の言葉は、どっちが先だったか。


何にありがとうかって?

そんなの、俺にだってわからなねえよ。とにかく俺の方は口をついて出たんだ。


「そんな、私は、私たちの部活に入って欲しいとしか考えてなかった。だから小山内君の部活を潰そうとか、困らせようとか、そんなことは全く考えてなかった。

でも、そうか、たしかに、えーと、うーん。」


頭を下げる俺たちを前に、鳥羽先輩はいい人感満載の困惑の声を出した。

矢も楯もたまらず、とさっき嬉しそうに語っていた鳥羽先輩は、言葉どおりに、純粋に、一緒に探求したい、と思って、その後のことなんか後回しにしてここに来たんだろう。

だから、俺たちの部を潰そうとも、小山内を困らせようとも思っていないという、その言葉はきっと嘘じゃない。


その時、とっさに閃いたことがあった。小山内の頭の中にあるイメージとは違うかも知れないけど、な。

俺は、下げていた頭を上げて、閃きを口にした。

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