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 第214話 鎮めの時 (7)

そんな大惨事を引き起こして秘密は守られたのだった。

なんでこんな目に?!



ちなみに、俺が大惨事の犠牲になっていたその頃、慎一さんには警察から連絡が入っていたそうだ。

その連絡で、警察の皆さんの到着までそんなに時間がないということがわかって、準備も程ほどに切り上げてお祈りのを始めることになった。


3畳間とその手前の部屋に俺達と永井さん夫婦が揃って正座している。

押し入れの脇には白い布で覆った小さな机が置かれ、その上に急いで用意したお供え物が並べられた。

俺達の一番先頭、押し入れの前に正座した慎一さんが緊張を湛えた声で厳かに宣言した。


「では、用意も調いましたので、蓋を開けます。」


その宣言と共に、慎一さんは押し入れの床板を外しはじめた。

さっき聞いた話だと、床板を全て外せば井戸の横ぎりぎりに人が1人立てるほどのスペースを確保できるらしい。


外した床板の穴から慎一さんは無言で床下に降りる。

かこん、という音がして、井戸の蓋が外されたのがわかった。

慎一さんはそのまま無言で戻ってくる。


覗いてみたい、という衝動を抑えて、俺は顔を引き締めた小山内と頷きあう。

俺がさっき超能力を使ったときには、蓋がすぐにもう一度外されるなんてことは想定していなかったが、俺があのとき超能力を使うために口にした言葉では、こんな風に一旦蓋が外されても、幽霊の声なんかの怪現象は続くはずだ。

だから、この儀式をやって、幽霊が怒って怪現象を止めた、ということは起こらないはず。


「ではお願いします。」


慎一さんは押し入れの前から退くと、後に控えていた小山内と藪内さんに言葉をかけた。


俺はさっきの出来事の後、小山内と藪内さんに近寄れなくなったが、永井さん夫妻と小山内たちの最後の打ち合わせを聞き耳を立てて聞いていたところによれば、どうやら宗教的に正しい本格的な祈りじゃなくて、心を込めて犠牲者の鎮魂を願うということになったようだ。


小山内と藪内さんは、押し入れの戸の前ににじり出ると、すっとまぶたを閉じ、頭を垂れて、手を合わせた。

巫女さん姿でするその作法が合ってるのか、俺にはわからない、いや、この場にいる全員がわからないだろう。

だが、小山内たちが犠牲者の人の魂が安まるように心から祈っていることはわかった。


俺達も黙祷を捧げる。


しんと静まりかえった家の中で、古い掛け時計のちくたくという音だけが時の経過を伝えた。


やがて、小山内と藪内さんの肩から力が抜け、顔を上げた。


それを感じ取った俺たちも顔を上げる。

錯覚だとは解っているが、何かこの家を包んでいた重苦しい空気が幾分薄くなったような気がする。


「ありがとうございました。」


正座していた美司子さんが、小山内達に深々と頭を下げた。


「このお家に言い伝え通り井戸があったということは、きっとこの家で悲しい出来事があったのでしょう。その方達もこうして冥福をお祈りされたらきっと嬉しいはず。これからは私らも宿の話題にするだけではなく、朝夕お水の一杯でもお供えしますね。」


あくまでも真摯に語るその姿は、巫女コスプレのことを言い出したのも単なるおふざけではなかったことを物語っていた。


小山内と薮内さんも無言で深く頭を下げた。



ちょうどその時、タイヤが土を噛む音が庭のほうから聞こえてきた。

続けてもう1台、いや、数台の車がやって来て、ばたばたというドアを開け閉めする音がする。

たぶん警察の人たちがやって来たのだろう。


玄関の戸をがらりと開ける音がして、慎一さんを呼ぶ中年の男性の声が響いてきた。


慎一さんは、俺達に「失礼します。」というと玄関に向かった。

美司子さんはというと、時計を見上げ、「ちょっと早かったわ。小山内さん、藪内さん、こちらへ。」と、声をかける。

警察の人たちの好奇の目に触れる前に、2人を着替えに連れて行こうというのだろう。


ということは、小山内と藪内さんの巫女さん姿を見るのはこれが最後か。

目に焼き付けておかないと。


「あ、藪内さん、小山内さん。」


そのタイミングをを見計らっていたかのように、ホリーが部屋を出ようとしていた2人に声をかけた。


「どうしたの?」


小山内が振り返った。


「せっかく可愛い衣装を着たんだし記念撮影しておこうよ。」

「だめよ。はずかしいわ。」

「だめかなぁ。」


ホリーがお預けを食った子犬みたいな顔になった。

なんだろ、この庇護欲をかき立てる表情は。


「い、いえ、絶対にダメというわけではないですわよ。そ、そう。記念。解決記念ですわね。」


藪内さんがホリーにやられたらしい。

つき合いが短い分、強い効果が出たようだ。


「ほ、ほら小山内さんも良いですわね。」

「ありがとう!」


小山内の答えも聞かず笑顔になるホリー。

いや、イケメンのその笑顔、反則だろ。そんな顔をされたらだれも否とは言えなくなってしまう

小山内も、あうあうとしただけで反対できなくなってやがった。

十人並みの俺だったらこうはならないな。


「ほらみんな並んで、おばさん、僕のスマホで撮ってもらえますか?藪内さんと小山内さんは真ん中、ガイくんはこっち…」


ホリーは、どんどん手はずを整える。こういうのも既成事実化、というのだろうか。

俺は、ホリーから小山内の隣に立つように指示された。


すぐ隣に立って改めて見てみると、巫女装束の小山内はとびきり可愛い。

小山内は恥ずかしさ故か頬を少し染めてるが、白の小袖がその頬の赤さを引き立て、恥じらったような表情をより一層くっきりと印象づけている。

間近で見る衣装の質感に包まれた艶やかな肌にも視線を奪われる。


やっぱり、俺は世界で一番小山内が綺麗だと思う。


俺の雑念に気づいたか、みんなの位置を調整し終わったホリーが自分の立ち位置に決めた伊賀の隣に向かうとき、そっと俺耳打ちした。


「これくらいしかお礼できないけど。これ、小山内さんとのツーショットにして、データにして渡すね。」


と。

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