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 第213話 鎮めの時 (6)

「薮内さん、あなた…」


全く予想していなかった藪内さんの登場に、小山内も言葉を見つけられない。


「美司子さんが畑からお供え物の野菜を持って戻られたので呼びにきましたのよ。」


薮内さんは俺に厳しい視線を注ぎながら続けた。


「ところで俺くん。そんなに驚いて、一体何をしていらっしゃったのかしら?」


ん?

この問いかけは、超能力の話をしたところは聞いていなかったということか?


「超能力だかなんだか知りませんが、幽霊に怯えている小山内さんに、そんな恐ろしいことを言うなんて、あなたは何を考えていらっしゃるのかしら。」


だめだ、やっぱり聞かれてた。

まずい、どうしよう。

心臓のバクバクが止まらない。

小山内も真っ青になっている。


「ご覧なさい。小山内さんが真っ青になっていますわ。俺くん、まさかそんな卑劣な方法で小山内さんを怯えさせて、抱きついてもらおうとでも思ってらっしゃったのかしら?」


あれ?

なんか話がおかしな方向に行ってるぞ。

超能力の話を聞かれたはずなのに、なぜか俺が小山内を怯えさせてボディータッチに持ち込もうとしたことになってる?


「小山内さんの仰る通りでしたわ。あなたやはり要注意な方でしたのね。信頼できる男性かと思っておりましたのに幻滅致しましたわ。」


なんだそれ?

誤解にしても、さすがに酷いだろ。

小山内も誤解を解いてくれよ。


ってあれ?

なんだよ小山内、その瞳に湛えた邪悪さは。

巫女さんの装束とミスマッチもいいとこだぞ。


ちらっと俺を見た目線は「何も言うな。」の意味か?

小山内は、とととっと薮内さんに近寄ると、薮内さんに影に隠れて怯えたような声を出した。


「そうなの。俺くんは普段はいい人なのに突然豹変してエッチな悪戯をする人なのよ。」


な、な、な、何を言い出しやがる!


「やはりそうでしたか。」


やはりって何だよ。

薮内さんの視線温度が氷くらいで止まらず、液体窒素レベルまで下がる。


「言われてみれば、昨日も私たちの着替えを覗こうとして襖を揺すってらっしゃいましたわね。」

「ね、そうでしょ!」


いや小山内。

薮内さんの陰で舌を出して可愛くごめんなさいして見せたって許せることと許せないことがある。


「俺くん。物事には許せることと許せないことがありますわよ。」

「……」

「黙ってないで何か仰いなさい。」


美人が本気で怒ってるのも綺麗なんだな。


いや思考停止してる場合じゃない。


「あ、あのな。」

「だから薮内さんも俺くんに近づいちゃだめ。私は一度中世史研の部員として認めてしまったから仕方なく付き合ってるけど、薮内さんまで犠牲になることはないわ。」


小山内が俺の言い訳を遮ってダメ押ししてくる。

小山内に何か考えがあるのはわかってるが、日頃俺に勝手に暴走するなときっびしく躾けてやがるくせに、いくら何でもそれは無いんじゃないか?


小山内が何を企んだのかさっぱり見当もつかないこともあって、流石に頭に来た。


「小山内、何なんだよそれは!」


だがそれに応えたのは小山内ではなく薮内さんだった。


「だから、小山内さんは仕方なくあなたと一緒にいるのですわ。私も危うくあなたの本性を知らずに告白するところでした。行きましょう、小山内さん。」


告白?

何の?

まさか、恋愛的な意味なのか?


だが薮内さんフラグはこれで見事に木っ端微塵になったな。

俺の大混乱脳ではそんなくだらない事を考えるのが精一杯だった。


そうか、薮内さんは俺のことをそんな風に。だから家の後継の問題が解決したのにあんな風に俺に絡んで来てたのか。


ん?という事は、今後は薮内さんはもう?


ようやく頭の再起動が終わって、小山内のやろうとしたことが分かってきた。


そうか。

小山内は、薮内さんが自分の問題が解決した後も俺達に絡んできた理由が俺に対する恋愛感情にあると見抜き、このままの状態が続けば中世史研の裏の活動が出来なくなると考えて、こんなことを言い出したのか。

 

さすがは諸葛凛。


いや、ちょっと待てーっ!!


その策だと俺はきっちり最低のエロガキにされてしまうだろうが。

これじゃ、藪内さんの恋愛感情もろとも俺の高校生活で彼女ができる可能性まで消されたも同然だ。


ま、まあ、俺は小山内が気になってるから、当分は困らないかもしれないけどな。


けどな。

やはり健康な男子高生としては断じて受け入れ難い。

何よりいきり立つであろう肉壁軍が。


「俺くん。そんな情けない顔をして見せてもダメですわよ。そんなのでは小山内さんも誤魔化されませんわ。ですわね、小山内さん?」

「え、ええ。もちろんよ。あんな危険物、藪内さんは近寄っちゃダメよ。」

「何故あなたのような綺麗な方が、冴えだけ一流で後は十人並みの俺くんにべったりなのか疑問に思っていましたが、こういうことでしたの。」


「べったり?」


俺は思わず口を挟んでしまった。

いや、「十人並み」というのも酷い言い方だが、事実だからな。

だが、べったり、というのは、解せぬ。


「べったり、なんてそんなことないわ。」


ほら、小山内だって抗議してるぞ。


「べったりですわ。私が俺くんとご一緒したときのあなたの醜態をお忘れなのかしら?」


醜態。

まあ、心当たりがないかと言えば、ある。


「そんなの。」


さすが藪内さん。諸葛凜を絶句させやがった。


「とにかく、今までのあなたのそのおかしな振る舞いの原因が何だったのか、はっきりとわかりましたわ。」


いや、全然わかってないぞ。

まんまと、隠れる孔明、怒れる仲達を暴走させる、状態になってるし。


だがな、小山内。

そういう、うまく行ったでしょ、と視線で呼びかけてきても、俺は決して同意しない。

俺の払う犠牲と較べたら、とても成功なんてものじゃないから。


「行きましょう。小山内さん。こんな人の言うことなんか相手もしなくともよいですわ。」


俺、何か言ったっけ?


あ、井戸から遺骸が、の話し…いや、超能力の話しだった。

小山内の仕掛けたとんでもない展開に、完全に大事なことを忘れていた。


ということは、おそらく藪内さんは、俺の口にした「超能力」という言葉を、俺が小山内を怯えさせるために口走った与太話と片付けてくれた、ということか。


うん、それは良かった。


と言うとでも思うか?


後で小山内ときっちり話ししないとな。

藪内さんの背後で俺を拝んで見せたって、ダメなものはダメだ。

どんになに可愛くてもな。

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