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 第210話 鎮めの時 (3)

「巫女さんにお願いしましょう。」


美司子さんが笑顔になり胸の前で掌を合わせたのは、拝むという仕草だったのか、それともいい考えが浮かんだということか。

表情を見る限り、どうやらその両方らしいが、なんだって巫女さん?

どこからそんな発想が?

というか、警察が来る前に呼べるのか?


はっ!?

もしかしてこの村に常駐の巫女さんがいて、こういうときには巫女さんの出番という風習があるとかか?


俺たちが混乱しているのに、美司子さんの方はというと、確信に満ちた笑顔で見つめていた。


小山内と藪内さんを。


「えええーっ!」

「そんなの、無理ですわっ!」


視線の意味を悟った小山内と藪内さんは、仲良く両手を突き出し大きく振って無理無理といった。


「大丈夫です。幽霊復活ができたお2人だもの。もし幽霊の人たちが私たちになにか悪い気持ちを持っていらっしゃるなら、お2人で鎮めることがきっと出来ます。」


確信に満ちて、美司子さんは身を乗り出しながら2人に迫る。


「一体どういう?」


さすがに長年連れ添った慎一さんにも理解が追いつかなかったらしい。

困惑の声を上げる。

美司子さんは、慎一さんを振り返って嬉しそうに続けた。


「だって、隣の奥山のおばさんが言うように、もし本当に悪霊さんがいて、その悪霊さんがうちの民宿経営がうまくいかないように幽霊の声を止めたりしたのなら、こうして幽霊の声が復活したというのは、きっと、この方たちが悪霊さんに気に入ってもらえたからよ。」

「悪霊に?気に入られ?はうっ…」


何てことを言いやがる!

小山内が一気に真っ青になっちまったじゃないか。


「美司子さん、小山内が…みんなが恐がるので、その言い方はやめてください。」


だが、俺のその言葉にも美司子さんは動じない。


「ごめんなさい。悪気はないの。でも気に入ってもらえたという言い方は確かに変ね。えーと、そう。皆さんの言うことなら聞き入れてもらえるかも、ということなのよ。」


いや、悪気がなくても、言って良いことと悪いことがある…

ん?


美司子さんの言葉の背後にある考え方を考えてみる。

つまり、美都子さんはこう考えたんだろう。


もし本当に幽霊が存在し、あの声がするなんて怪現象も幽霊のせいだったとして、しかも怨念をもってて、永井さん夫婦に害をなそうとして、まあそこまで行かなくても永井さんたちを追い出そうとして、怪現象を止めたんだとする。


ところが、俺たちが来て、井戸の蓋を戻した。

この井戸の蓋が落ちてしまったのも仮に幽霊の仕業だったとしたら、俺達が井戸の蓋を戻すことは、幽霊にとっては不本意なはずだ。


もしそれで幽霊が怒ったのなら、永井さん夫婦が望んでいる、元通りの幽霊の声が聞こえるとか物が動くとかいう怪現象が復活するはずがない。

もし何らかの現象を起こすとしてももっと恐ろしいことを起こすはずだ。


だから、元通りの現象が起こったと言うのなら、むしろ幽霊は、俺達のやったことを受け入れるどころか、怪現象を復活させてもいいと思うくらいポジティブに受け取った、ということになる。


いや、俺は幽霊なんていないと思っているぞ。

だから、あくまでも仮に、だ。


仮にそういうことなら。


そう信じられるなら。


将来なにか永井さん夫婦に何か悪いことが起こっても、それがこの家の怨霊のせいだとは考えななくて済むかも知れない。


そうか。

俺の思いついたアイデアと方向性は同じだ、というか、美司子さんのアイデアと俺のアイデアが2つ揃えば、相乗効果が期待できるかも知れない。


美司子さんの言葉になんの反応もせず、黙って考え込んでしまった俺を、不思議そうに見る永井さん夫婦と藪内さんたち。


小山内は、まあ、もう慣れてくれたんだろう。

小山内の視線は、「何を思いついたの?」という問いかけだった。


そう。

もともとの俺のアイデアというのはこんなのだった。


俺の超能力で確かに怪現象は復活した。多分。

それに、この家の謂われと符合する怪しさ満点の井戸も見つかった。

だから、おそらくこの家で陰惨な出来事はあったんだろう。

だが、まだ、最後のピースははまっていない。


それは、犠牲者そのものが見つかっていない、ということだ。


俺の超能力も、犠牲者の遺骨が見つかるかどうかについては使っていない。

もし、井戸の中から、昔の何かの事件の痕跡が見つかったとしても、犠牲者そのものが見つからなければ、謂われは、まだかろうじて謂われのままで、確定した過去にはならない。

この家から犠牲者の遺骸が見つからなければ、この家に怨霊がいるという話しは、よくある心霊スポットと同じで誰か想像力が作りだしたもの、と考えることだってできる。


だから俺が、この井戸の中を捜索しても犠牲者の遺骸そのものが見つからないように超能力を使えば、将来なにか永井さん夫婦に何か悪いことが起こっても「でも、犠牲者が見つかっていないのだから、怨霊の仕業だなんて、そんなの単なる空想の産物だ。」というところで心の折り合いをつけられるんじゃないか。


謂れと合致する井戸が見つかったのに、ここに住み続けるということが選択肢に入るという永井さん夫婦ならば。


俺のアイデアというのはこういうのだった。


だとしても、もし降りかかってきた不幸が大きかったり、繰り返されたりしたら、「そんなの単なる空想の産物だ。」の次に「でも、もしかすると。」という言葉がつながってしまうかも知れない。そうなれば、いくら心霊スポットや廃墟に耐性のある永井さん夫婦でも。


なので、完璧からはほど遠いアイデアだといえる。


だが、ここに美司子さんのアイデアが加わると。


「井戸からは犠牲者が見つかっていないのだから、怨霊の仕業だなんて、そんなの単なる空想の産物だ。それに、もし怨霊がいたとしても、私達がここで宿を続けることには反対していなかった。なにより幽霊が受け入れた俺くんたちが、きちんと怨霊を鎮めてくれたんだから。」


こうなる。


どうだろうか。

俺のアイデアとあわせると、何とかなるレベルに行きそうなんだが。


できれば小山内とこのアイデアを話し合ってみたいんだが。

いま、俺と小山内が2人だけになるチャンスは。


無理だよな。


なら、始めるしかない。

あとで暴走と言われるかも知れないけどな。

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