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 第209話 鎮めの時 (2)

慎一さんは考え込み、ふと顔を上げて、藪内さんを見た。


「すみません、さっきの話しを美司子にもしてもらえませんでしょうか、振動数が、という話しを。私では、きちんと説明できるか不安ですので。」


慎一さんは、今自分がどんな考えになっているかは口にはしなかった。

だが、その口調から夫婦で同じ話しを聞いて、同じ立場で決めないと、という意思が感じ取れた。

「任せておけ」とは口にするものの、大事なことはきちんと2人で話し合う、というのが永井さん夫婦の流儀なんだろう。


「ええ。もちろんいたしますわ。」


俺と同じことを感じ取ったのが、藪内さんは笑顔で承諾して、チラッと俺を見た。

なにか、含みのあるような視線だったが、気付かないふりをしておく。


今の俺は、さっき思いついたアイデアのことを考えるので精一杯なんだ。

だから、そんな、つまらなそうにするのはやめてくれ。藪内さん。


藪内さんは、俺に向けた表情とは打って変わり、真剣な表情で、美司子さんに説明をした。


「ええと、ということは、幽霊が復活したととっていいということかしら?」


説明の最後に、「どこかもう少し詳しい説明が必要なところがありますかしら。」と付け加えた藪内さんへの、ある意味究極で根本的な質問に、藪内さんは窮した。


なので、俺が答える。


「ええ、そういう風にも言えると思います。」

「そうなの。よかったわ!」


美司子さんは素直に喜んだ。


そこで、藪内さんの説明の間は黙していた慎一さんが口を開いた。


「実は美司子。大事な話がある。」

「なにかしら?」


美司子さんは慎一さんに笑顔を向けた。


「この家にまつわる、あの話しだが。」

「あの話し?」

「そうだ。この家で昔旅人をあやめて持ち物を奪っていた、と言う話しだ。」


慎一さんは固い声で話し始めた。

俺たちは息を呑む。

きっと今から、慎一さんは俺たちと見つけたものの話しをするつもりなんだ。


「あれは、おそらく事実だ。話に出てくる井戸があった。」

「えっ!?どこに?」


美司子さんは目と口をまん丸に開いた。


「物置部屋の下だ。」


慎一さんが視線を板壁の方に向けた。


「物置部屋…」


美司子さんは、そう言いながら、視線を板壁に向けた。きっとその視線は板壁の向こうの3畳間を見ている。


「お話に出てきたから。」


美司子さんはそのままの視線で言葉を発したが、何か実を伴っていない言葉に聞こえた。


「美司子。昨日、皆さんが床下に潜ってくださっただろ。あのときのことだ。」

「はい。」


はいとは答えたものの、美司子さんは要領を得ない調子で返事をしている。

おそらく、美司子さんは頭が真っ白になっている。

こんなことを聞かされれば当然のことだと思うが。


「大丈夫か、美司子。」

「ええ。」

「美司子さん、本当に大丈夫ですか?お水でも持ってきましょうか?」


小山内の言葉で、美司子さんの瞳に生気が戻ってきた。


「いえいえ、お客様にそんなことさせられません。」


お客様もなにも、昨日は畳運びや床下潜りなんて、普通の客じゃあり得ない作業をしたんだが。

とはいえ、美司子の責任感が再起動のきっかけになったのなら、それはそれで良かった。


「それで、その井戸からご遺体は見つかったの?」

「いやまだだ。」


昔の話しだから、おそらく、被害者の亡骸が井戸の中にあったとしても、とっくに白骨化しているはずだ。だから、ご遺体、という言葉に違和感を持ったが、謂われにある井戸に投げ込まれた痛々しい被害者の姿を思い浮かべたんだろう。


「それなら、早く、助けてあげないと。」

「そうだな。」


慎一さんは、美司子さんに優しい視線で大きく頷いた。


「では、警察に連絡する、ということでいいですか?ご近所の噂になると思いますが。」


永井さん夫婦もわかっていると思うが、俺は一応念を押す。


「ええ。そうしてください。」

「あの、私達、ここにいられる時間がもうあまりないので、すぐに警察に連絡したいのですが、いいですか?」


小山内も大事なことを思い出させてくれた。


「そうですね。では、私が。」


慎一さんはそういうと、胸ポケットからスマホを取り出した。

110番ではなく、登録されている番号を調べて電話をしている。


「こういう商売をしていますと、警察の電話番号を知っていますので。」


俺の怪訝そうな視線を察したのか、慎一さんはそう簡単に説明して、繋がった相手と話し始めた。

どうやらもとから知っている人のようだ。


電話の内容を隠す風でもないので、俺たちにも何となく会話の流れがわかった。

井戸を見つけたという最初のあたりの話しでは相手も戸惑っていたようだが、さすがに、未確認だか被害者の遺体が出てくるかも知れない、というあたりで本気になったようだ。とにかく一度見に来てくれることになったらしい。

慎一さんは最後に、発見者の俺たちがもうすぐここを出発しなければならないので急いで欲しいと言うことも付け加えて電話を切った。


「お聞きいただいたように、すぐ来てくれるそうです。」


そういって、慎一さんは美司子さんに向き直った。


「どうする?立ち会うか?」

「そうですね。やっぱりこれからの私達のことに繋がることだから、私も立ち会っておきたいわ。でもその前に、やっぱり、霊を鎮めるようなことをしておいた方がいいと思うの。」


そこで、言葉を切って、美司子さんは少し考えた。

俺は、美司子さんのいう、「霊を鎮めるようなこと」というのが何のことだかわからず戸惑う。


だが、次の美司子の言葉で俺たちは度肝を抜かれた。

それは、俺が考えていたアイデアの何倍もぶっ飛んだアイデアだった。

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