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 第204話 謂われ (1)

まあ目を覚ましたのがホリーと伊賀だけだったのには救われた。


盗み見をしているかのような状態に耐えられなくなったらしい、遠慮がちのホリーの声に、小山内は即座に真っ赤になって俺をどんと突き飛ばすと女子部屋に駆け込んで行った。


うん。

今回は俺がへたれた訳じゃないから良しとしよう。


俺は何も言わずにバツの悪そうな顔をしているホリーと伊賀の前を横切って自分の布団に戻ると、掛け布団を頭から被って、悶々としながら泣いた。


翌朝。


すっきりした顔で朝食に現れたのは薮内さんだけだった。



さて。

ほろ苦い青春のエピソードと関係なく、積み残した調査は続けなければならない。


そう。


調査の基本、聞き取り調査ってやつだ。

すでに到着早々、この家に住んでいる永井さん夫妻からの聴き取りは最初に済ませているし、その前の住人の方は連絡先がわからないとのことで話は聞けない。

なので、残るはご近所の方たちだ。


「今日は俺は小山内さんとペアになる。藪内さんは昨日の後半俺とペアになったんだからそれでいいよな?」


俺はどこまで上から目線なんだよ、という突っ込みも恐れず朝食の場で宣言した。

まあ、1人を除いて突っ込みはなく、伊賀とホリーからは「仕方ないね。」「そうだよね。」

の視線が返ってきただけだった。


一方、ぱっと顔を赤らめる小山内。

よせよ。

そういう意味は無いんだから。

というか、そういう意味でもいいんだけど、そういうこととは別の理由で俺は小山内と組まなくちゃならない。昨日の寝落ちとあの悲劇のせいで、小山内と話も出来なかったし。


「それはおかしいですわ。では私は誰と一緒に調査をしろと仰るのかしら?」

「もちろん、伊賀、ホリーと一緒にだ。」


俺の即時の返しに勢いを飲まれる藪内さん。

だが、そんなことでめげるわけがない。


「伊賀くんと堀くんがペアになるのなら、私はどちらの班に入っても良いはずですわ。」

「いや。理由はある。」


そう。俺はこの時のためにとっておきの理由を用意してあった。


「最初に、藪内さんがホリーに確認したよな?」

「何のことですの?」


思い当たる節がないというように首を捻る藪内さん。


「ほら。今回の話しが、俺と小山内に持ちかけられたものか、それとも中世史研に持ち込まれたものかって。それで、中世史研に持ち込まれたってことで藪内さんが参加することになった。」

「確かにそんな話しがあったのは憶えておりますが、それがどうかしましたの?」


ますます訳がわからない、というのが素直に表情に表れている。

美人系の藪内さんのこういう顔もこれはこれで可愛いし、普通なら俺もこんな言い負かすような真似はしないんだが、超能力を使うためにも、俺の気になっていることを確かめるためにも、あともう1つの理由のためにも、ここは心を鬼にしなければ。

ちなみに、最後の1つはそろそろみんな忘れていそうな巫女さんコスプレのことじゃないからな。


「聞き取り調査は、原因を突き止めるためのメインの調査だ。中世史研として責任をもって調査するんだったら、それぞれのグループに1人ずつは中世史研の部員がいないと。」

「そんな屁理屈、理由になっていませんわ。」


だろうな。

だがそれを認めるわけには行かない。


「十分な理由だよ。だよな、小山内部長。」


いきなり振られて目を白黒させる小山内。

だが、俺が求めていることは理解してくれたようだ。


「ええそうよ。中世史研として受けた依頼は中世史研として責任をもって果たさないと。あなたも永井さんの車の中でお話を伺うときに、中世史研の部長だから私が話しを伺えということを言ってたわよ。それに、藪内さんは、部長の指示に従うとも約束したわね。」

「そ、それはそうですわ。でも。」


汗をたらーっと流しながらたじたじとなる藪内さんに、ここぞとばかりに攻める小山内。

だが。実は、小山内は「藪内さん、部長の指示に従えないなら退部してもらいます。」とは言ったものの、部長の指示に従うとは約束していない。

だがこんな風に小山内に断言されたら、なんとなくそういう約束をしたような気になってしまうんだろう。

もちろん俺は、そういう微妙なニュアンスの違いなんて指摘するわけがない。


「そうですわ!私と俺くんがペアになってもいいはずですわ。」

「さっき、俺くんも言ったとおり、昨日は俺くんと藪内さんがペアになりました。今日は私とです。」


そのあと、「そんなずるいこと認めらるもんですか。」と、ぼそぼそ呟いた気もするが、よく聞こえなかった。


とにかく。 


小山内の勢いに飲まれたのと、俺が何か考えていることを藪内さんに向けた視線で感じ取ったのだろう、しぶしぶ藪内さんは引き下がってくれた。


「じゃあ、今から聞き取り調査に出かけよう。とりあえず11時半まで。そのあと、せっかく用意してくれた巫女さんのコスプレでお祈りと記念撮影。」


俺は、勢いに任せて大事な予定をしれっとねじ込んでやった。


「あんた何をばかなこと言ってんのよ!」


と小山内は反応したが、藪内さんは、さっきのお返しとばかりに、「小山内部長がそう仰るのなら、小山内部長は衣装を着替えなければよろしいですわ。私だけ可愛い姿を俺くんに見せて差し上げます。」と挑発したので、こっちも成功。


なかなかやるじゃないか、俺。

ホリーも嬉しそうだけど、これは、用意してもらった衣装が無駄にならなくて良かった、の嬉しさで、クラストップの美少女2人の巫女さんコスプレを見ることが出来る嬉しさじゃなさそうだ。


なんてピュアなんだろうな、ホリーは。


こんなことをやっていたので朝食は結構時間がかかり、用意を調えて永井さんの家を出たのは9時近くになってからだった。


前の道に出て、俺たちは、南と北に分かれて事情聴取に散った。

俺の考えが当たっているなら、今からあまり気持ちの良くない話しが聞けるはずだ。


っとその前に。


「小山内、さっきはありがとう。今のうちに超能力を使っておきたいんだ。」

「やっぱり。そういうことだったのね。」


小山内は、納得がいったという柔らかい表情を浮かべた。


「ああ。昨日も説明した通り、もともと井戸の蓋が少しずれていて、そのせいで井戸に吹き込む風が鳴ったり、床下に入り込んだ小動物の声が反響したりして、幽霊の声と誤解されるような音になっていたりしていたんだと思う。幸いというか、戻した井戸の蓋が壊れてて井戸の口の一部が閉じられない状態だから、超能力で、幽霊の起こしていた現象が同じように起きるようにすれば、永井さん夫婦の悩みは解決すると思うんだ。」

「そうね。依頼解決になる、いい方法だと思うわ。」

「そうだ。じゃあ使うぞ。」

「うん。」


俺は、永井さんの家を振り向き、昨日の夜、何度も繰り返して確認した言葉を口にした。


「俺の目の前に建っている永井さんの家の床下にある井戸が、客室に聞こえてくる幽霊がむせび泣くように聞こえる音を、これからは5日間で1度も鳴らさないことは絶対にない。」


これで、床下の井戸が少なくとも5日に1度は幽霊がむせび泣くような音をたてるはずだ。

間違ってないよな?


あとは、同じように水蒸気の影がたまに現れるようにと、立てた音の振動で物が動くように超能力を使った。


よし。永井さん夫婦からの依頼は完了だ。

あとの積み残しは、まあ、俺の違和感の答え合わせくらいかな?

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