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 第203話 発見 (6)

その後、俺達はさらに調査を続けた。


「井戸の怪しさは間違いないですわ。でも、だからといって井戸が原因だと確定したわけではないですわ。」


との意見もあり、


「次の調査は私が俺くんとペアになります。これだけは絶対に譲れませんわ。」


との誰かの強硬な調査続行の意見もあったからだ。


意見を言ったのは1人に聞こえるって?

まあ、そこは突っ込むな。


結局、こちらに来る前に立てていた計画の調査はだいたい全てやった。

つまり、録音してきたいろいろな音を各部屋で再生してみて、それが客室では「咽び泣くような声」に聞こえているのじゃないか、とか、天井裏に何かあるんじゃないか、とか。


この2つの調査は藪内さんの主張通り俺と藪内さんがペアになった。

といっても、特に何かがあったわけじゃ無い。

話をしたとしても、あれからお祖父さんとはどうなった、お父さんとお祖父さんの仲はどうとかの、軽い話しをしたくらいだ。藪内さんから、うちの家族のことも聞かれたけどな。


藪内さんが俺に向ける視線も、あんなふうに強硬に俺とペアになることを主張したにしては、普通といって良いものだったと思う。

藪内さんは笑顔を浮かべながらも至極真面目に調査に当たったし、俺は俺で、調査に勤しんだ。


他にやった調査としては、客室で線香を焚いてみて、昇ってくる煙の行く先を確認して隠し部屋を探ってみよう、ってのは古い日本家屋をなめてたせいで失敗した。

つまり、線香の煙が流れていく先が目視できるほどの隙間なんて無かったって事な。


それと、物が動いたのは動物か虫の悪戯だった説については、動いた物をよく観察しても、何もわからなかった。


事前に慎一さんから聞いた話だと、動いた物は流石に恐くて手を触れていない、ということだったので、それなら動いた物やその周囲に鼠や虫なんかが這った痕跡がついてるはずってことで思いついた調査方法だった。

だが、その動いたという物以外はきちんと周囲も掃除されていたために、足跡とかが残るような埃も汚れも綺麗になくなっていた。

まあ、宿をやってるんだから当たり前だったな。


というわけで、いろいろやってみたものの、どれ一つとして井戸の発見を超えるような芳しい成果を上げたものはなかったのだった。


調査は残すところ1つだけになった。

ただ、それはもともと翌日に予定していたものだったから、日暮れの時間になった今の時点で今日の調査は全部終わった。


「お疲れ様でした!」


のかけ声で今日の調査を締めくくる。

さすがにみんなの顔には疲労の色が出ていた。

いくら高校生だって言っても、それなりの小旅行の後すぐに調査を始めて、今までずっと動いていた上に、初めてやることばかりだったし、藪内さんの言うとおり部屋を汚さないように気を使うしでかなりの疲労度だ。


小山内は顔に出さないようにしているものの、さすがに付き合いが長くなってる俺には小山内の疲れが読み取れる。


「お疲れ様、小山内。大丈夫か?」

「ありがとう。私は大丈夫。あなたはどう?」


疲れをにじませながらも小山内は微笑みかけてくれた。


「ありがとう。俺も大丈夫だ。」


俺も微笑み返す。

なんかいい雰囲気だな。


「あら俺くん、私には言ってくださらないの?」


疲れをにじませながらも藪内さんもからんでくる。

もちろん、俺は「お疲れ様、藪内さん。大丈夫か?」、と尋ねて、小山内とのいい雰囲気は終焉を迎えた。


みんなでお風呂で汗と疲れを流した後にいただいた夕食は、美司子さんが腕によりをかけた豪華なものだった。

囲炉裏端でいただく山村ならではの山の幸、ジビエっていうらしいが、鹿のお肉が出た。鹿肉のステーキ。

初めて食べたが、予想外に柔らかくて香りもいい。

食べ盛りとしては、もう少し量がほしかったが、他の地元産の野菜をふんだんに使った色とりどりのご馳走でお腹いっぱい。

デザートまで残さずいただいた。


ちなみにスイーツはこの地方特産という果物を使ったジェラートで、小山内も藪内さんもにこにこしながら「美味しいわ。」「美味しいですわね。」とこのときは仲良く食べていた。


甘いもので仲良くなれるなら、近いうちに2人をスイーツの美味しい店に誘ってみようか。

などという大それた考えが浮かぶくらいの和やかさな。


夕食が済むと、畳を戻した例の部屋でやり放題のパーティーゲームだ。

俺たちの持ち込みじゃなくて、美司子さんがお客さん用に取り揃えたそうだ。

幽霊の出る宿が、幽霊の出ない宿になってからいろいろと迷走したんだろうな。


派手に騒いでいただいても今日はお客が俺達しかいないので大丈夫です、と慎一さんに言われたからなわけじゃないが、とりあえず各種パーティーゲームは盛り上がった。

慎一さんの期待通りに。

…しばらくは。


そりゃ全員寝落ちするって。


え?

この宿ご自慢の山村の夕暮れ?

さっき言っただろ、いい雰囲気は終焉を迎えた、って。



ふと目が覚めると、月明かりが部屋に差し込んでいる。

誰かがかけてくれた布団を少し浮かせ、寝返りを打とうとして、月の光に浮かぶ美しいものが見えた。


かすむ目を何度か瞬く。

月光に浮かび上がったその姿は、女神のようだった。


素直にそう感じたんだから、言い古された表現とか言わないでくれ。

本当に、女神のようだったんだからな、小山内は。


俺は、魅入られたように立ち上がり、縁側に置かれた背の高い藤の椅子に腰掛けて月の世界を楽しむ小山内にふらふらと近寄る。


小山内は振り向きもせず、静かに呟いた。


「見て。綺麗。」


小山内の視線の先には輝く月が織りなす美しい世界。

月光を浴びる小山内もその世界と一体なり微光を放ち輝いている。

俺はその美しさに言葉を失ったまま、小山内の座る椅子の背に手をかけた。


「綺麗だ。」


俺の視線は小山内に。


「美司子さん夕景が綺麗だって言っていたけど、この月世界も綺麗よね。」

「ああ。とても綺麗だ。」


小山内は俺を振り向き、蠱惑的な光を宿した瞳で俺を見つめ小さく尋ねた。


「何が綺麗?」

「小山内が。この世界で一番輝いている小山内が。」


俺は小山内の瞳に魅入られたまま、浮かされたように口にする。


「そう。」


そういうと、小山内は何も言わずに視線を外の世界に戻した。

俺はまるで夢の世界での出来事のように、心のままに小山内の正面に回り込んだ。

絡み合う視線。

小山内が瞳を閉じた。

俺は、それが自然なことのように、小山内の小さな肩に手を置き引き寄せながら小山内の息遣いを唇に感じる。


そして。


「ぼ、僕たちのことはお気になさらず…」


そりゃ皆んながいるところでこんなことやってれば目が覚めるやつがいるよな。


ああ。わかっていたよ。

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