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 第201話 発見 (4)

「伊賀、この場所はどこに当たるかわかるか?」

「ああ。ちょっと待ってくれ。おーいホリー!」


伊賀が声を大きくして呼びかけた。


「なにー?」


ホリーがひょこっと床下に顔を出す。


「僕たちのいる場所を確認してくれるかい?」

「わかったー!」


ホリーがいったん頭を引っ込めた。

その間に伊賀はさっき取りに戻ったメジャーの数字を確認してホリーに伝える。

さっきは床下の穴から井戸までもう少し距離があるかと思っていたが、実際は思っていたよりも近かった。

暗さと床下という非現実的な空間のせいで俺の目測が狂ってしまったようだ。


ホリーと薮内さんのぼそぼそという話し声が聞こえてきたあと、またホリーが床下に顔を出した。


「ええとね、その距離と方角だったら、見取り図からすると、たぶん『3畳間の押入れ』っていうところの下だと思うよ。僕たちのいる部屋の隣にある部屋だけど、この部屋からは直接行けない、板壁の向こう側になる部屋だね。だいたいだけど家の真ん中あたりになるみたい。」

「ありがとう。」


俺はそうお礼を言うと、慎一さんに向き直った。


「その3畳間の押入れというのはどういう部屋ですか?」

「畳が3枚敷いてある部屋の押し入れです。」


いや、そんな文字通りの解説をして欲しいんじゃない。

どうやらそれが顔に出てしまったようで、慎一さんは慌てて追加情報をくれた。


「その部屋はもともと何に使われていたのかよくわからない部屋なんですよ。さっきご案内した通り、この家の他の部屋は一間が最低でも4畳半はあるのにその部屋だけ小さくて。なのに押し入れまでついてるので、物置用の部屋かと思って今は不用品なんかを置いています。普段は誰も立ち入らない部屋です。」


俺は思案を重ねながら質問する。


「じゃあその部屋で何か音が鳴っていても、その部屋から聞こえてきているとは気付きにくいという事ですね。」


みんながはっとしたような表情を浮かべた。


「確かにね。その3畳間と客室が板壁で仕切られていて直接行けないのなら、お客さんが、自分たち部屋で幽霊の声が聞こえていると思い込んでも不思議じゃないわ。」

「だとすると。」

「そう、もしかすると音の原因はこの井戸だったんじゃないかと思うんだ。」


俺は考えをまとめながらそう思う理由を説明した。


井戸の蓋が破損したのは、井戸の上から蓋が落ちた時なんだろう。

そして、さっき皆んなで確認したように、何かの原因で蓋が破損したのは最近らしい。

幽霊が出なくなったのも最近。


幽霊が出ると言われてるのは、夜、咽び泣くような声がすることと、物が動くこと、それにひんやりとする冷気と共に何かの影のようなものが動くことが理由だった。


咽び泣くような声というのは、正確なメカニズムなんて俺にはわからないが、風か何かのせいで蓋か、それとも井戸自体なのかわからないが、そのどっちかが鳴っていたんじゃなかろうか。

もともと地震や何かのせいで蓋がずれていて、井戸に風が吹き込むような状態になっていたか、井戸からはみ出た部分が楽器のリードみたいになっていたなら、そういうこともありそうな気がする。

例えば、ペットボトルの飲み口に強く息を吹くと、ぼーっという音が鳴るのと同じようなイメージで。


あるいはさっき慎一さんが言っていたように、床下に小動物でが入り込んで、かわいそうなことだけど、ずれていた蓋の隙間から落ちたり、出られなくなって悲鳴を上げたというのもあるかもしれない。

その音が床下で反響したりして聞こえてきていたのでないか。


それとひんやりとする冷気というのも、井戸の中で冷やされた空気が何かの理由で昇ってきたものかもしれない。もし、そうした冷たくて、場所の空気と家の中の暖かい空気が出会えば、影のように見える霧が局所的に発生したかも知れない。


ものが動くというのは、これもよくわからないが、音が振動として伝わって、ものを動かしたということも考えられる。


つまり、井戸が原因だと考えれば、全部の説明はつきそうだ。

そんなのこじつけだ、と言われてしまうるかもしれないが。


実は、俺はにとっては、これがこじつけなのか、それとも真相を言い当てたものなのか、それはあまり重要なことじゃない。


そうなんだ。


この蓋を井戸の上にいい感じに戻し、俺の推理通りに井戸が原因で音が鳴るように超能力を使えばいい。


俺の超能力は、物理的に絶対に起こりえないことを起こす能力じゃない。だから、「幽霊は絶対に復活しない。」なんてふうに超能力を使ったとしてもおそらく幽霊は復活せず、幽霊の仕業と思われてる現象も起こらない。

ただ、現実に起こりうるなら、どれほど可能性が小さくても超能力を使うことで起こしてしまうことが出来る。


もし、俺の推理が間違っていて、響いてくる音がもともとの幽霊の声と違う音になったとしても、音が鳴って、冷気が昇ってきて、井戸からの振動でものが動くように俺が超能力を使えば、おそらく永井さん夫婦の切望する幽霊復活は達成できる。


それに俺の推理が間違っていて、リピーターのお客さんから「以前に聞いた幽霊の声じゃない。」なんてクレームが来たとしても、慎一さんならそのあたりうまくやるだろう。

「幽霊が変声期を迎えたようです。」とかなんとか言って。


というわけで、俺的には、今回の目的はほぼ成功が見えたと言ってもいい状態なんだ。


ただ、俺の超能力のことを知らない伊賀たちが納得してくれるかというと…


「とりあえず、この蓋を元あった位置に戻してみませんか。」


小山内が俺の考えを察してくれたのか、慎一さんに呼びかけた。


「もし俺くんの推理が合っていれば、幽霊の声が復活するかも知れません。それに、床下から正体不明の井戸が発見され、その上にはこれも正体不明の部屋が、なんてりっぱな怪談ですし。」


小山内は、恐怖の色を残した冗談じみた口調で続けた。


そう、そのとおり。

小山内の言うとおり、こんな床下に隠されたともいえる井戸や不思議な部屋があることは、それだけで怪談じみている。


だが。


俺にはまだ違和感を感じているところが残っている。


これが、果たして前の住人が逃げ出した理由だろうか?

田舎暮らしを夢見てせっかく手に入れた家を諦めて逃げだす理由になるか、といわれると、弱い。

逃げ出す前に、変な音が鳴っているなら、何が原因かぐらい調査するだろうし、3畳間や床下の井戸なんかにも気がつくだろう。

いきなり幽霊と結びつけたりもするまい。

それで、井戸の音だと推測できたなら、前の住人が幽霊を恐れて逃げ出したはずがない。

そこには何かもう一つ、前の住人に幽霊だと確信させるような何かがあったんじゃなかろうか?


俺が小山内と話したいのは、そこなんだ。

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