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第19章 そこにあったものの意味 第198話 発見 (1)

「慎一さん、何かご存じなのですか?」


慎一さんの呟きが聞こえたのは俺だけじゃなかったらしい。

伊賀もさっきより緊張を孕んだ、しかし小声で慎一さんに問う。

まるで、あの石積みの所に何かがいて、俺たちの会話に聞き耳でも立てられているかのように。


「いえ。あの。…あれが何かは確認されましたか。」


驚愕が消えていない声で慎一さんは俺たちに尋ねる。

慎一さんは「あれ」を指さしたのではないが、視線が石積みに釘付けになっているので何のことを言っているのかはわかる。

だが、俺たちにはあれが何かわからないから慎一さんを呼んでもらったんだから、俺たちに尋ねられてもな。


「いえ。慎一さんはご存じなんですか?」

「私も初めて見ました。ただ。」


何だよ、その持って回った言い方は。

しかし、慎一さんは言葉を濁しただけだった。


「もう少し近づいてみましょう。」


慎一さんは全身に緊張をみなぎらせながら身をかがめたまま近づき始める。

慎一さんの態度に違和感を憶えながらも、俺たちもその後に続いた。


近づくにつれ、俺は、その石積みに違和感を感じた。

そう。

最初の印象とは違い、真っ直ぐ横一列に積まれてはないのだ。

どうやら、円形になるように積まれているらしい。


「やっぱり。」


慎一さんがさらに緊張を高めた声で呟いた。


「何がやっぱりなんですか?」


沈黙への恐怖と、聞くことへの恐怖が俺の脳内で天秤にかけられて、沈黙への恐怖が勝った。


「これは、おそらく井戸です。」

「井戸?」

「床下に?」


伊賀も、声を上げた。


だが大事なことはそこではない。

そう。

伊賀が指摘したとおり、ここは床下だ。

床下に、井戸。

そんな所に井戸なんて作っても水を汲めやしない。

では、床下に井戸を作る意味とは?


「何か見つかったの?」


床の穴から小山内が顔を覗かせた。

あんだけ怯えていてよくそんなことが出来るな、と思ってよく見れば、小山内の顔は引きつっている。

そういえば声も、いつもと違っていた。

これは、怖いけど、中世史研の部長としての責任感からの行動だな。


「ああ。井戸らしいものが見つかった。今からもっと近づく。」

「落ちないように気をつけてね。」


あ、そうか。井戸なら落ちる可能性もあるのか。


「わかたった。ありがとう。小山内、戻って来てくれたんなら、平面図への記入を頼む。」

「いいわよ。」

「床の穴の位置と俺たちの進んでいる方向はわかるな。」

「ええ。」

「じゃあよろしく。」

「任せて。」


俺は、伊賀たちの方を向き直り、何故か、心が冷静さを少し取り戻したことに気がついた。


「待たせた、悪い。」

「大丈夫ですよ。では行きます。」

「はい。」


まあ、近いから、本当にあっという間に石積みの所に辿り着いた。

確かに石積みは円を描いて積まれていて、その中はぽっかりと空いている。

「これは何か?」と聞かれれば、おそらく全員が「井戸だ。」

と答えるだろう。

だがその石積みの内側は全く光の射さない真の暗闇で、どれくらい下まであるのかそのままでは見えない。


「照らすぞ。」


俺は、一言断って、マグライトを石積みの上から差し出した。


「かなり下まで掘ってありそうだね。」

「だな。」


LEDの強い光ですら底まで光が届かないくらいの深さがあるようだ。


「こういうときは、小石を投げ込んでみるのが定番なんだが。」


俺は床下に転がっていた小石を手に慎一さんと伊賀に視線を走らせた。

もちろん、曰くありげな、怪しい、幽霊出現の原因らしい井戸に、小石とは言え何かを投げ込んでもいいか?

というより、大丈夫か?

という問いかけだ。


「小石なら大丈夫なのではないでしょうか。」


慎一さんが答えた。


「小石なら」のところにひっかっかったが、だからといって、そこに突っ込める何かがあるわけじゃないので、「そうですか。」と応じるしかない。


俺は覚悟を決めて手の中の小石を投げ込んだ。


かーん

かーん

かーん

からから


小石の跳ねる音の最後に聞こえてくるだろうと予想していた「ぽちゃん」という音は聞こえてこない。

水が涸れているのか?

それとも水に落ちた音が聞こえてこないくらいこの井戸は深いのか?


「もう一個投げ入れてみましょう。」


そう言いつつ、慎一さんは、俺が投げ入れたのと同じくらいの大きさの小石を投げ入れた。


かーん

かかーん

こーん

からから


さっきとはちょっと違う音を立てながらも、からから、という音で音が途絶えたのは今回も同じだった。


「これは、底には水がないということか。」

「そうみたいだね。」


俺と伊賀の会話を余所に慎一さんは黙ってしまった。

何か知ってるんだろうな。

何なんだろう。


おれは、それが何かを探ろうと、井戸の周囲をライトの光で探ってみた。

ん?あれは?


ちょうど俺たちから見て井戸の反対側にあたる所に大きな何かが落ちているようだ。

怖さよりも好奇心が勝ってしまった俺は、「どうせここまで来たんだ。」と呟きながら一言伊賀に断って井戸を回り込んでゆく。


井戸から手でも伸びてきて引きずり込まれたりしないように、それなりに井戸の縁から距離をとってゆっくり半周する。


だから言ってるだろ、俺はヘタレだって。

99%は幽霊なんていないと思ってるが、残り1%は、何故か信じる気になってしまったんだよ。

なにせ、常識じゃいるはずの無い超能力者なんて存在に心当たりがあるくらいだからな。


さすがに見つけたものに手を出す気にはならないが、それが何かは見た目でわかった。

おそらくは井戸の蓋だ。

ライトに照らされたそれは、角材を持ち手兼繋ぎ合わせの部材にして、古い木製の板を何枚かつなぎ合わせている。家族旅行で行った先で食べた釜飯の蓋の拡大版みたいな感じだ。

一部が折れて破損しているが、概ね丸い形をしている。大きさは、ちょうど井戸の石積みよりもワンサイズ大きいくらいだ。


ライトで照らしているから、色合いはもう一つよくわからないが、一面灰色のように見える。おそらくかなり古いもんだろう。

ん?

破損したところだけ、妙に気の色合いが新しく見える。ライトの加減だろうか?


おれは、少しライトを上下左右に振ってみた。

いや、確かに破損したところだけ色が違う。


「テル、何をしてるんだ?」


俺の不審な行動に気がついたのか、伊賀から声がかかった。


「いや、井戸の蓋みたいなものを見つけたんだが、気になることがあって。ちょっとこっちに来てくれるか?慎一さんも一緒にお願いします。」


俺の気付いたことを説明するなら、直接見てもらうのが手っ取り早いからな。

ごそごそずりずりと音を立てながら2人がやってきた。


「これなんですが。」


俺はそう言って破損箇所にライトを当てた。


ちょうどそのタイミングで。


「何か見つけたの?」


小山内の、いつもより甲高めで焦りを含んだ声だった。

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