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第18章 驚愕の依頼 第186話 ホリーの依頼と下心 (1)

いつものざわめく朝の空気の中、「おはよう。」のさわやかな声と共に伊賀が寄ってきた。


「上手くいったようだね。」


伊賀は、視線を薮内さんに向けながら納得顔で続ける。

俺も釣られて薮内さんを見た。

気のせいか、金曜日に見た時よりも、話しかけてくる女子に向ける表情が明るくなった…ような気もする。


というか、俺が教室入ってきた時に向けられた表情は、以前のようなじっとりとしたところのない、単なる美人系美少女の笑顔だった。

伊賀はそのことに気づいたのかもしれない。


「ああ。おかげで、ほとんど片付いた。」


視線を俺に戻した伊賀に、俺はしっかりと頭を下げた。

超能力以外は普通の高校生の俺が、ラノベやマンガみたいに超絶主人公が解決に向かって一直線にずばっと切り込む、なんて芸当をできるわけがない。

一昨日も、あっちこっちに迷走しながらなんとか決着に辿り着いたが、伊賀が省三さんの前でのプレゼン合戦のアイデアをくれたおかげで、省三さんに薮内さんの積み上げてきたものを示すことができた。


「僕のアイデアは役に立ったかい?」

「ああ。とても。」


礼儀としてはかいつまんで結果を話すべきなんだろうが、やっぱり薮内さんに無断で、薮内さんのことだと気づいてる伊賀にあの話しを話すのはまずいよな、なんて思っていると、後ろからのんびりした声をかけられた。


「テルくん、何かあったの?」


声をかけてきたのはホリー。

そういえば伊賀は、相談した話が薮内さんのことだと気づいていたが、ホリーは俺が「友人のこと」と誤魔化したのを信じてくれてたんだった。

それでも上手くいったことだけは伝えておかないとな。


「いや、この前相談した話だけど、あれ上手くいったんだ。」

「そうなの。よかったね。」


にこっと微笑むホリー。


廊下で、「きゃー」というような声が聞こえたような気がしたが、当の本人は気にしていないようなので、俺もスルー。

相変わらずの人気で、というより、どんどん人気が出てるよな?


教室内では、1学期から引き続き佐々木さんと渡部さんが文字通りの睨みをきかせているので、敢えてそれをかいくぐって三つ巴に持ち込もうなんて大それた女子は現れていない。だが、その事情を知ってか知らずか、廊下からちょくちょくホリーを覗きに来る女子は増えている。


「ホリー、夏休みに彼女は出来たか?」


2学期が始まってちょっと経ってしまったから、質問のタイミングとしては微妙なんだが、俺の視線を追って廊下を見たホリーは別に不自然とは思わなかったようだ。


「ううん、出来てない。なんか、女子から見られてる気はするんだけど、声をかけられたりしないし、呼び出しもされないんだ。きっと僕の自意識過剰なんだね。」


そう言ってまたにこっと微笑むホリー。

きゃーっとなる廊下。

もういいって。


伊賀にも同じことを聞いてみたい気がするんだが、なんか、誰かのことを持ち出して反撃されそうなのでやめた。

相変わらず俺はヘタレだし。


しばらく、伊賀が夏休みに見つけた美味いラーメン屋の話しで盛り上がった後、ホリーが、少し困ったような表情を浮かべて尋ねてきた。


「あの、僕からも相談いいかな?」

「もちろん。」

「いいよ。」


伊賀も一緒に考えてくれるようだ。


「実は、ちょっと信じてもらえないことなのかも知れないんだけど。」

「なんだ?心配しなくていいぞ。」


なにせ、超能力なんて、信じられないものを持ってる俺だ。

心配無用。


「幽霊が出なくて困ってる人がいるんだけど。」


ホリーは何を言ってるんだろう。

自分の耳が信じられない。


あ、信じてもらえないことなのかもしれないってのは、聞いた自分の耳が信じられなくなるってことだったのか。納得。


「そうなるよね。でも、本当に幽霊が出なくて困ってる人がいるんだけど。」

「どういうことだ?」

「実はね…」


ホリーの話しによると、親戚の人が田舎の古い民家を買って民宿を始めたそうだ。

その民家は少しいわく付きで、夜になると幽霊の声が聞こえる、という物件だったらしい。

その親戚の人が買う前に、別の都会の人が買って移住したらしいが、そのいわくを知らずに買ってしまったもんだから、あっという間に怯えて逃げ出したらしい。

それにホリーの親戚の人が目をつけて、オカルト民宿に改造して営業していたと。


「その民宿に泊まった人は、たしかに夜になると、幽霊がむせび泣く声がどこからともなく聞こえる、誰も触っていないのに置いてある物が動く、と言って、すごく好評だったらしいんだ。」


世の中にオカルト好きとか、そういうのが出る場所に行きたい人がいっぱいいるのは知ってる。

だが、俺は、そういう得体の知れないものは苦手だ。


お前だって超能力者で、幽霊みたいなもんだろう、という突っ込みが聞こえてくるようだが、超能力と幽霊は違う。絶対違う。


「それでどうしたんだんだい?」


伊賀が、俺の微妙な表情を面白いものでも見るような顔をして眺めながら、ホリーに続きを促した。

ふと思ったんだが、伊賀は俺の超能力に気づいて・・・ないよな?


「その幽霊のおかげで、民宿の予約が何か月も先までいっぱいになってて、永井おじさん、ええと、その親戚の人のことなんだけど、永井おじさんも、読みが当たったーといって喜んでたんだ。」


ま、まあ、幽霊が出て喜ぶ人の気持ちはわからないが、お金儲けできるならそういう人もいるのか?


「でも…」


ホリーは表情を暗くしながら説明を続けてくれた。


その永井おじさんから最近ホリーの両親に電話があって、お金を貸して欲しい、と申し込まれたそうだ。

両親が驚いて話を聞くと、幽霊の声が聞こえなくなり、物も動かなくなったという。

もちろん、幽霊の声が聞こえてきていたときでも、毎夜そういうことが起こっていたわけじゃないので、そういう現象に遭遇しなかったお客さんも、最初のうちは「運が悪かった。」といって苦笑して帰っていったらしい。

ところが、そういうことが続いて、ネットの口コミサイトに、「詐欺」という書き込みがいくつかされて、夏休みの予約が一気にキャンセルされた。

こういう幽霊が売りの民宿は、逆に言うと、幽霊が出なくなると普通の民宿でしかない。だから、幽霊の売りが「詐欺」だという噂が広まると、ほかの売りがない分、新しい予約のお客さんが来てくれることもなく、一気に経営を続けるための金が足りなくなったそうだ。

永井さんは、幽霊が出なくなった理由に心当たりはないという。


「そうか、困ったな。」

「うん。」

「でも、さすがに俺にそれを相談されても、幽霊はなぁ。」


腕を組みながら、そううめいた俺にホリーは不思議そうな顔で尋ねてきた。


「でも、テル君は城跡を見つけたり掘ったりしてるんだよね。」


微妙に違うが、まあ、そういう理解でも構わないのか?


「? そうだが?」

「だったら、落ち武者とか、怨霊とかそういうのも守備範囲かなって。」


謝れ!

その勘違い、歴史関係の部活を頑張ってる全国津々浦々のみんなに謝れ!

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