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 第175話 未来への戦い (7)

「わしはあの山をソーラー発電所に提供するにあたっても、武光に詳細な地質調査をするように命じておる。君がその結果を知らないのも無理はないが。」

「いいえ、お祖父様。俺くんは知っています。私が調査結果が安全だと出た事を伝えていますわ。」


予定どおり、藪内さんが参戦してきた。

たしかに話題的には今がベストの参戦タイミングなんだが、おれは省三さんの思わぬ奇襲から立ち直ってないんだよ。ちょっと待って欲しかった。

とにかく、頭を働かせながら切り抜けるしかない。


「はい。たしかにそう聞きました。」

「だったら、安全が確認された土地に、安全な工法で建設する、しかもこういったソーラー発電所を建設するノウハウを持った企業と共同で行うのです。それ以上に何が必要だというのかしら。」


出来レースをやるつもりはないが、ここで省三さんが藪内さんに「黙れ。お前には関係がない。」とかやられるかも知れない、というのが一番のリスクだと思っていたが、どうやら省三さんはそういうつもりはなさそうだ。

むしろ目の周りの皺の感じからすると、興味を持った?!


「たしかに安全という面では藪内さんの言うとおりかも知れない。だが、安全であることと、安心することは別問題だと思うんだ。たしかに、詳細な調査をやって安全との結果が出たなら、あの土地で土石流が起こることはないと思う。」


なにより俺も現地に行って超能力を使ったしな。多分、土石流という点では安全だろう。

あとは、多少の何かが起こるかも知れないが、「欠け谷」ということも織り込んで造られたあの砂防ダムもあるし、安全面で問題が無い、というのは間違いないのだと思う。

だが、俺が解って欲しいのは別のことだ。だから、ここからが本番だ。力を込めて言葉にする。


「だがな。そう聞かされたとしても、その下流に住んでいる方たちが、これからも安心して住んでいることが出来るかどうかは別問題だろ。」

「例えばここの安全面にこういう問題がある、というような声ならば安全であると説明して差し上げることも出来ますし、指摘が正しいのなら、追加の調査や対策工事なども出来ますわ。けれども、理由もなく不安だ不安だという声に付き合っていては何も出来ませんわ。」


藪内さんは、そんなことは解っているという表情を浮かべて強い口調で切り返してくる。しかし、そんなことを俺は言ってるんじゃない。だからそこははっきりさせておく。


「俺は、理由もない声に付き合えといってるんじゃない。昔、といっても地名にして伝わるくらい近い昔に山崩れがあって、土石流まであったと思われるんだ。そんな不安定な土地に大規模な開発をすると聞いたら不安に思う方が当然だろ!」

「だ、か、ら、科学的に調査してるのですわ。その結果が安全だと出たんですから、不安だという声が理由のないものなのは間違いないでしょう!」


あ、やばい。だんだん俺も藪内さんも興奮してきた。

だが、省三さんは、面白いものを見るかのように、俺たちを見たまま、口をはさまない。手応えありか?

もしそうなら、あとは、大木さんたちの気持ちを伝えて、不安を解消してもらえるように説得するんだ。


「同じ話をしたって、信頼している人が言うことと、始めて会う人が言うこととでは信用度が全然違うだろ。ギリギリになって話をしてくるか、事前に十分に話をしてるかでだって違う。」

「そんなことはわかっていますわ。けれど、いい加減な話なんて出来ませんわ。あなたはこうおっしゃるのかしら。『昔ここでは山崩れがありました。安全かどうか今調べていますから、結果をお待ちください。』それで結果が出たらこう言うの。『調べてみたら安全でした。ご安心ください。』こんなの、わざわざ不安の種をばらまくようなものですわ。これで信用してもらえるわけありませんわ。」

「だが、そういったことをきちんと説明しておかないと、いきなりこういう計画があって調査したら安全だとわかりました、なんて説明したって、結論ありきの話しだろって思われて信用なんてしてもらえないし、不安を取り除くことだって出来ないだろ。山崩れの話しをあらかじめ説明しておかなけりゃ、尚更、その話しをかくしてるだろって言われるだけだ。」

「もうよろしい。」


省三さんが突然威厳のある声で割って入ってきた。

ここで入ってくるとは思ってなかったから、かなり驚いた。

まあ、これ以上話を続けても水掛け論になったのかも知れないから、ここで止められたのは、ある意味よかったのかも知れないが。


俺と藪内さん、そして、俺たちに任せてくれていた小山内も省三さんが何を言い出すのかと思って、省三さんの口をじっと見つめる。


「双方の言いたいことはわかった。まず悠紀。」


そう言いながら、省三さんは隣に座る藪内さんに視線を注いだ。厳しい視線のようなんだが、何を言い出すのか。


「お前には、もうこの件を含めて、藪内家の事業には関わらなくてよい、と言ったはずだが。」

「ですがお祖父様!」

「お前は、藪内家当主であるわしの言うことが聞けんのか。」

「待ってくださいお祖父様!」

「もう一度言う。お前は、もう藪内家の事業には関わらなくてよい。かわりに、お前は俺君と結婚し跡を継いでもらうのだ。彼は、跡継ぎとなる力を持っておる。」

「お祖父様!」

「藪内さん!」


藪内さんは表情を歪めて、小山内はもう黙っていられないという決死の表情で抗議の声を上げる。

だが、いつものざらっとした違和感というやつが俺が声を上げるのを押しとどめた。

なんだ?

今の省三さんの言葉になにか違和感がある。

省三さんは、何て言った?


「お前には、もうこの件を含めて、藪内家の事業には関わらなくてよい」

「お前は、もう藪内家の事業には関わらなくてよい。」


うん?


「藪内さん、ちょっと聞きたいんだが。」

「もう、こんな時になんですの?」

「藪内さんは省三さんから、もう藪内家の事業には関わらなくてよい、といわれたのか?」

「そうですわよ。そのとおりですわよ。」


藪内さんは、敵を射殺すような鋭い視線を俺に突き立てる。

だが、そんなことに構っている余裕はない。


だが、次の質問をする前に省三さんが俺に話しかけてきた。


「それから、俺君。君は既に悠紀から聞いていると思うが、君には何か不思議な力を感じるのだ。是非、悠紀の婿となり、藪内家の跡取りとなって欲しい。藪内家の秘密を知った者でもある君が、それには相応しい。」


最後の部分を除いて、俺はそういう話しを藪内さんから既に聞かされている。

だが。


「省三さん。その話は、お断りすると悠紀さんにはお伝えしたのですが、お聞きになっていませんか?」


これは、確認のためというより探りのための一手だ。

なんの探りかって?

ちょっと待ってくれ。

俺も今、ぼんやりとしたイメージしかつかめていないんだ。

だから、もう少し、確認が必要だ。

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