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 第173話 未来への戦い (5)

「以上で予定していた、お伺いしたいことは全て終わりました。俺くん、薮内さん、今の省三さんのお話の内容で、何か追加してお伺いしたいことはありますか?」


小山内がえらく他人行儀な聞き方をしている。というか、俺以外の人向けの中の人がさっきから絶賛お仕事中なわけだが。


「僕の方は特にありません。」


まあ、俺だって、「僕」なんて言ってるしな。


「私も。」


薮内さんはかすれ気味の声で答えた。

明らかに緊張しているのが正面に座った俺からは見て取れるんだが、隣に座ってる省三さんは気付いていないようだ。あるいは気付かないふりなのかも知れない。


「そうかね。では。」


切り出すなら今か?

俺の隣に座っている小山内の身体が強張った。


「…し」

「わしからも聞きたいことがあるんだがいいかね?」


俺が作った一瞬の躊躇の隙に省三さんから想定外の声がかかった。

まさか、薮内さんが省三さんに何か言っておいたのだろうか?


「ええどうぞ。」


声にも若干の強張りを残し、警戒感を秘めた笑顔で小山内が省三さんを促した。


「どうかね、悠紀は学校で上手くやれておるか?」

「うまく、とは?」


省三さんの視線が俺に向いていたので、俺が聞き返した。


「もう本人からも聞いておると思うが」


省三さんが口にした言葉に、薮内さんを含め全員の緊張が一気に高まった。


「悠紀は本来は、いま高校2年生にあたる年齢だ。だがカナダに留学してきた関係で1つ下の学年に編入された。」


直接ではないが、薮内さんが編入してきたその日に話していたのは聞いていた。だが省三さんが何を話したいのか読めないので、俺は軽く頷くに止めた。

一方。


「お祖父様!」


薮内さんは話を止めようとした。だが省三さんは片手を挙げてそれを制し、話を続けた。


「あれは、君たちが初めて来たすぐ後のことだった。あの話をした後、武光にも、もう薮内家に伝わる秘密と役目を継いで行くことはない、と話さなければならぬことに気付いてな。直ぐに連絡してここに呼んだのだ。まあこれまでの経緯もあってすぐには信じてもらえなんだがな。」


俺は、その武光さんに話したというのが、時期から見て、俺たちが斉藤先生に報告して、その後小山内と一緒に斉藤先生の小さな車に押し込まれて、その、青春ぽいことになりながらここに2度目の訪問をした時のことだと気付いた。


「その時にちょうど悠紀が留学から帰ってくるという話を武光から聞いた。日本に戻った時にどこの学校に行くかを2つの学校にまで絞っていることもだな。」


薮内さんの顔色は冴えない。が、驚いている様子のないのでこの話は既に聞いていたのだろう。


「その学校の名前を聞いてわしは驚いた。君たちの学校が入っていたのだ。それを聞いてな、わしはこれこそ縁としか思えなんだ。それで強く武光に薦めたのだ。」


俺が薮内さんに視線を送ると、薮内さんは暗い顔で視線を外した。

「薦めた」というのは事実上決めた、ということなんだろう。


「武光からなぜ薦めるのかと聞かれて、わしは君たちとの間にあったことを全て話した。もともと武光も地元で事業をやっておる関係で、地元の学校の学校の方が良いと思っておったようでな。その直後にやってきた君たちと会って話をして君たちの人となりを見てとって納得した。君たちと同学年になるのなら大丈夫だとな。」


あの時、裏でそんなことが同時進行していたのか。

たしかにあの時の武光さんの俺たちを見る態度には、何か「薮内家の秘密を見抜いた者への視線」以上のものがあるとは感じていたが。


「もちろん通うのは悠紀だからな、最終的には悠紀が選んだ方に任せようと思っておったのだが、武光と話しておるうちにある考えが浮かんでな。まあ、その2つに絞られた中に君たちの学校が入っていなければ、その後のことも思いつくことはなかったかも知れんが。」


それは俺と結婚させようとかって話なんだろうな。この前の薮内さんの話だと、その話は省三さんだけでなく武光さんの方も同意してるようだったし。


「それで悠紀には君たちの英堂館高校を強く薦めたのだ。君たちとあの城跡の発掘で会った時には既に悠紀が君たちの学校に編入することはほぼ決まっておった。」


あの時は、誰もそんなことを言わなかったがな。教えてくれたって良かったのに。まあ、藪内さんは、俺と仲良くしろ、という指示を受けてただけだったみたいだし、うちの学校に編入がほぼ決まってたのなら、藪内家のことを知っている俺と人脈作りしておくのは藪内さん的にもおかしなことでもなかったんだろう。


「そういうわけで、わしが君たちの高校を薦めた以上、悠紀が上手く馴染んでおるのか気になっておったのだ。」


ある意味、悪意なんて全然ないどころか、孫をいい学校に通わせてやりたい、事前に知り合いを作っておいてやろう、というお祖父ちゃんならではの気持ちが読み取れる。そこに跡取りの話とか俺との結婚とかのとんでもない話さえ無ければな。


「僕は、女子とはあまり絡みがないのでよく解りませんが、馴染んではいるようですよ。」


嘘はついていない。

藪内さんが敵意をむき出しにしているのは、俺と小山内に対してだけだ。


「小山内君はどうかね?」

「はい。私とは違うグループですが、薮内さんはもう学校に馴染んでいると思います。」

「君たちとは仲良くやっていないのかね?同じクラブに入ったと聞いておるが。」

「ええと、それは。」


陰謀を話したものの、俺が拒否ったうえに小山内と険悪、なんて言えるわけがない。


「お祖父様。そういうことを私の前で聞くのはおよしください。」

「ははは。そうか、そうだな。」


省三さんは顔の皺を人の良い老人のように緩ませて笑った。

なんか上手く誤解してくれたみたいだ。まあ、今の言葉を口にした藪内さんの顔が引きつり気味なのに気付かないあたり、やっぱり気持ちが一方通行気味なんだろうな。


省三さんが、いったん湯飲みに手を伸ばしたのを見て、この話題が終わったことを悟った。

いよいよ始める時だ。

省三さんが美味そうにお茶を飲むのを待って、ゆっくりと息を吐いてから、ここに来るまでに何度も頭の中で繰り返した言葉で切り出した。


「あの藪内さん、少し聞いて頂きたいお話しがあります。学校のクラブ活動とは全然関わりのないお話しなのですが。」


省三さんを見る小山内と藪内さんの目が一気に鋭くなった。

さあ、勝負だぞ。

負けるな俺。

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