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 第172話 未来への戦い (4)

ついにきてしまった土曜日。


「しっかりしなさいよ。」


駅前で待ち合わせた笑顔の小山内が俺に気合いを入れてくれてるが、お察しの通り、俺の顔色は多分冴えない。

そりゃ、藪内さん、悠紀さんの方な、薮内さん相手に啖呵は切った。

だが、真の相手は省三さんだ。

可愛い孫であるはずの藪内さんの、おそらくは懇願ですらはねつけてしまったくらいだからな。

一筋縄ではいかないどころか、取りつくところを探すことすら出来ないかもしれない。

まあいろいろ考えてはきたが。


「あんたの考えは間違っていないと思うわ。でも、あの省三さんがなぜあの子を跡継ぎから外してしまったのか、よく見極めてね。」

「わかってる。」

「ほんとかしら。」


言葉とは裏腹に、小山内の瞳には俺への期待の色が…きっとあるはず。

とにかく、今日は絶対に失敗できない。

そう。絶対に。


「やっぱり、超能力を使っちゃだめだよな。」

「だめよ。おそらく省三さんには何か考えがあってあの子を跡継ぎから外してあんたと結婚させようとしてるわ。だから、その思いを歪めるような超能力の使い方はだめ。」


良かれと思って省三さんと武光さんの関係が良くなるように超能力を使った結果が、薮内さんの気持ちを踏みにじることに繋がってしまったんだから、どれだけいいことしか起こらないと思ったとしても、人の思いを変えてしまう超能力の使い方はやはり禁忌なんだ。


「わかった。」

「大丈夫よ、あんたなら。超能力がなくても今度も救える。」

「ありがとう。」

「そうよ。私の時のようにね。」


最後に僅かに寂しさも混じったように小山内はそう呟いて、俺の背中を平手でばん!と叩いた。



藪内さんの豪邸の門は今日は閉まっていた。

まるで、俺たちを拒絶するかのように。


インターホンを押してしばらく待つ。


「はい。」


と応えて門の所まで出迎えてくれたのは、藪内さん、のお孫さんのほう、つまり悠紀さんだった。

ややこしいから、やっぱり藪内さんと呼ぶからな。省三さんは「省三さん」だ。


「こんにちは。今日はよろしく。」


引きつった表情の藪内さんに、小山内が代表で挨拶する。


「はい。」

「大丈夫?」


いつもの余裕が全く見て取れない薮内さんに、根は優しい小山内が気遣うが、「大丈夫ですわ。」という強がりとも聞こえる返事だけが返ってきた。だがそのトーンはやっぱり硬い気がする。

なんか悪いことしたな。


「こちらへ。」


藪内さんに導かれて、見覚えのあるお座敷へ。

あのいかにもお金持ち、な巨木の輪切りで作った座敷机のある部屋だ。


「こちらで少しお待ち頂けますかしら。」


俺たちは薮内さんから指された、前に来た時よりも微妙に間隔をあけて敷かれていた座布団に座った。小山内は、早速リュックから質問事項をまとめてプリントアウトしてきた紙を人数分取り出す。

そこにはメールでやり取りした俺と薮内さんの質問事項も入っている。


それに前回の省三さんからの聞き取り内容をまとめたものとセットにして、前回省三さんが座っていた所に置く。今も座布団がそこに置いてるから間違いないだろう。薮内さんは、後のことを考えればできれば座敷机の俺たち側に座ってほしいんだが。


「待たせたね。」


省三さんが入ってきた。俺たちは一旦立ち上がって、礼をする。


「今日はお時間をとってくださりありがとうございます。」

「気にせんでよろしい。孫も世話になっておることだしな。まあ座りなさい。足も崩して構わん。」


そう言いながら省三さんは俺の方を見た。

俺はなんと答えていいかわからなかったので黙礼を返した。


「君たち、飲み物は前と同じで構わないな?」

「はい、ありがとうございます。」


俺と小山内は声を揃えて答えた。

それとほぼ同時に薮内さんが木のお盆にサイダーの入ったグラスを3つと湯飲み1つを載せて入ってくる。

そのまま無言でそれぞれの前に置いていった。

俺の前にグラスを置く時に見せた唇をきっと結んだその横顔には、緊張がありありと浮かんでいる。


「悠紀も座りなさい。」

「はい。」

「今日は、追加の聞き取りをしたいということだな。」


この言葉は小山内に向けられていた。


「はい。以前発掘の時に斉藤先生から説明をさせていただいたかと思うのですが、今年の文化祭でその成果を発表したいと思っています。そのために補充でお伺いしたいことがあります。」

「そのことだが、君たちにはもう代々の当主が伝えられてきたことは全て話しておる。」

「はい。ですからおわかりになる範囲で結構です。」

「よろしい。わかった。」


あ、今が名前問題を切り出すチャンスだ。


「あの、薮内さん。」


大丈夫。自分で言うのもなんだが、俺は落ち着いた声を出せている。


俺の声に薮内さん、悠紀さんの方、がビクッとしたが、俺の視線が省三さんの方に向いているのに気付いて安堵の表情を浮かべた。


驚かせて悪い。だがいくら俺が薮内さんとのプレゼン合戦の激論を部活の話の前に始めるほどバカじゃないから。

小山内も肘でつつくな。それなりに長い付き合いなんだから、少しは俺を信用しろ。


「あの、これから薮内さんのことは省三さんとお呼びしてお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?学校で、お孫さんの悠紀さんを薮内さんと呼んでいますので、混乱してはいけませんので。」


省三さんは面白いことを聞いたように目尻に皺を寄せた。


「それでもいいが、悠紀のことを悠紀と呼んでも構わんぞ。」

「それは僕が構いますので。」

「ははは。まあ若いからの。好きにせい。」

「はい、ありがとうございます。」


今の感じだと、省三さんは、薮内さんから学校での俺と薮内さんの様子を聞いていないのだろうか?


省三さんの横に座った横に座った薮内さんの表情を盗み見たが、そこからは僅かの安堵の色を交えた緊張しか伝わってこなかった。


「では早速お願いします。お手元に置かせていただいたプリントをご覧ください…」


早速、小山内が聞き取りを始めた。

俺も雑念を払って、集中する。

この聞き取りは鳥羽先輩たちの俺たちへの信頼の証なんだ。


だから今日やることは全て成功させないと。

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