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 第158話 谷を遡って (2)

目の前を、さっきよりも幅が細くなった川が流れ、その流れをせき止めるように砂防ダムが造られている。

砂防ダムの幅は、見えている範囲で5メートルというところか。

言葉の印象から考えていたよりもかなり小さめだ。

真ん中の、少しくぼんで水が流れ下っているところも含めてコンクリートの地肌は黒ずみ、緑色のコケか藻のようなものが生えている。作られてからかなりの年数が経ってそうだ。


「これが砂防ダムです。ここの川にはこれひとつだけと思います。」


大木さんが俺たちを振り返って教えてくれた。

俺たちがたどってきた道は川の手前で既に森を抜けていて、この辺りは広場になっているようだった。

だが、草が茂りすぎていて本当に広場なのかよくわからない。

大木さんによると、自分はここから先には行ったことはないものの、近所の人の話では砂防ダムはここ一箇所ということらしい。


俺たちは、リュックから持ってきた地形図のコピーを取り出した。

城跡の巡検の時に鳥羽先輩たちがやってるのをまねて、来た道やダムの位置を描き入れていく。

メジャーを当ててダムや川の幅、深さを撮影したり、少し回り込んで砂防ダムの上に乗って向こう側を確認したりもした。

まあ、だからといって俺たちにこの川が危険かどうかなんてわかるわけがないが。


一通り作業が終わったので、大木さんに声をかけて、草むらから顔を出していた石に腰掛けてしばし休憩する。

汗をかいた体にまだすこし凍ってるスポーツドリンクが心地いい。


「今まで辿ってきた道はここまでしか通じてないのですか?」


ペットボトルをあおりながら小山内が来た道の方を見ながら大木さんに聞いた。


「いえ、この先にも伸びているはずですが。ただ、この季節、草が伸びていてわからなくなっているのだと思います。」

「地形図だと、この先の方にも道が延びているように書いてありますね。」


俺は手に持った地形図をこの辺りの起伏に照らし合わせながら、こっちの方角だと思った方向に少し歩いてみた。


うん、よく解らない。

道だと言われれば道のようにも思えるし。


「あんた、勝手に先に行って遭難しないでよ。」

「そうなんなんてそうそうないよ。」

「・・・・・・・。」

「いやなんでもない。」


榎本さんに約束した、頑張る方向が間違っていたようだ。素直に反省。


「遭難はないかも知れませんが、山道だし、ここは山崩れのあった山のはずなので、落石なんかには注意しないといけないかも知れません。」


大木さんは、空気を読んでくれたのか読んでくれなかったのか、微妙な感じのことを言ってくれた。


「でも、とりあえずこの先がどうなってるか、少し見てみよう。」

「そうね。大木さん、もしよろしければもう少しお付き合いをお願いできますか?」

「いいですよ、そのつもりで鎌も持ってきましたから。」


大木さんは鎌を持ち上げてみせた。

俺たちが事前に考えていた、用意していかなきゃなならないものの中には、鎌は入っていなかった。

さすが地元の古老の知恵と経験は侮りがたい。


…古老なんて言ってごめんなさい。


「行きましょうか。」


俺の内心の声が届いたのかも、という絶妙のタイミングで大木さんは声をかけた。

俺たちも腰を上げ、広場になっているらしい場所の、俺たちが入ってきたのと反対の方を探ってみた。地形図に描かれた道は、どうやらそちらの方に延びている。


何か道らしいものはないかと辺りを見回している俺の視界に、その場にそぐわない色をした奇妙なものがはいった。

なんだあれ?


近寄ると、わりと新しそうなピンクのテープが枝に巻き付けられている。

これはなんだ?

解らないことは地元の人に聞いてみるのがいいか。


「すみません、大木さん。ここにピンクのテープが巻かれてるのですが何か解りますか?」

「ちょっと待ってください、そっちに行きます。」


ごそごそと音がして、大木さんだけでなく小山内たちもやって来た。


「あ、これ、たまに登山道なんかで見るものですね。道の場所を示してたりするんですが。うーん。」


そういって、大木さんは辺りを見回し、一箇所で目をとめると、近寄っていった。


「やっぱり。ここ、踏み跡のようになってます。おそらくここが道の続きですよ。」


指を指されたあたりを見ると、たしかに、生えている植物が違う気がする。

というか、木がない。


「いわれてみればたしかに、道っぽいですね。」


ということはあのピンクのテープは道の続きががここにあることを示したものなんだろうか。


「地形図をだしてくれる?」


小山内の注文にいそいそと地形図を差し出す。そこにコンパスを当てて、川や砂防ダムの位置と見比べる小山内。


「そうね、地形図の道の方向とだいたいあってる気がするわ。」

「それなら、ここが道の続きでしょう。かなり歩きにくそうですが、行きますか?」


大木さんが尋ねてきた。

この先、危険じゃないだろうか。

小山内と榎本さんは俺が守るつもりだ。けど、俺にはこういった場所で安全を確保する知識が決定的に欠けている。


「少し入ってみて、危険そうなら諦めよう。」


俺は慎重を期してそう提案した。

だが。


「新しそうなテープがあるってことは、おそらく最近ここを入っていった人たちがいるってことですよね。」

「そうですね。近所の人が見た作業服の人たちがつけたテープなのかも知れません。」

「そうね、全然色あせや傷みが無いように見えるわ。だったら危険は少ないんじゃないかしら。」


小山内たちは積極的だな。


「わかった。それじゃ、先頭は俺が行くよ。後ろをついてきてくれ。大木さん、薮が酷くて進めなくなったら鎌をお願いします。」

「わかりました。」


小山内は無言で俺の顔をじっと見たあと、「じゃあお願いするわ。」とだけ言った。

何か言いたそうだったが、何だったんだろう。


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