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 第155話 安全と安心 (5)

俺たちが招き入れられたリビングの椅子に座ると、クーラーを強めにかけてくれた大木さんが早速口を開いた。


「ここにソーラー発電所が出来るという話しでしたね。」


俺たち3人は揃って「はい。」と言って頷いた。


「さっき君たちが川に降りていたということは、あの川の上流に出来るということも知っているんですね。」


俺たちはもう一度3人で「はい。」という。

おじいさんは少し考えたあと、顎に手を当てて話し始めた。


「あのソーラー発電所を計画していると言われているのは、ここの地元の建設会社で、」


「ここの」と言いながら、おじいさんは頭の上で右手を大きく輪を描くように振って見せた。


「その会社と、東京のそういったソーラー発電所のノウハウを持っている会社とが共同で事業をしようということになっているらしいのです。その地元の会社は、もともとは、この辺りの土地を多くもっていた地主の人が作った会社で、いくつか山の中に持っている土地の有効利用ということらしいのです。」

「知らなかった。」


そう声を漏らした榎本さんにも初めて聞く話が混じっているみたいで、驚いた顔をしている。

大木のおじいさんは、外から調べただけではつかめないような、かなり詳しい情報を持っているようだ。


この出会い、ラッキーにも程がある!!


俺の内心の絶叫に気付くことなく、おじいさんはさらに話を続けてくれた。


この話自体は、もともと同じ会社が持っていた別の山で計画されていたそうだ。ただ、そこが住宅地として開発されることになって、かわりにこっちが候補地になった。

それから、こちらの土地は、どうやら俺たちも聞いた、崩れたことがありそうなことから住宅地にするには不安がある土地なのでソーラー発電所を作ることにした、という噂。


「よくご存じですね。」


小山内が、驚いたという表情で感想を漏らした。


「いや、実は、まだ幼稚園の頃の神久に、この川は柿谷川なのに柿の木がないのはどうして、と質問されましてね。長年住んでいるのに、そんなことも知らなかったのか、と愕然として、地元のことを調べ始めたのです。」


おじいちゃんに素直な疑問をぶつけるお孫さんと、お孫さんの質問に一生懸命答えようとするおじいちゃんのほっこりしたシーンが脳内で再現された。脳内の神久くんの姿は、この前の川での印象のせいか、幼稚園児よりちょっと大人びているが。


「それで、いろいろ地元のことを調べていくうちに、ソーラー発電所の計画があるのを知ったのです。その時には、柿谷というのが、実は、昔に山崩れがあったことを示す地名ではないか、ということも知りましたので、なおのことしっかり調べなきゃいかんと思いまして。それで、伝手を辿ったりしまして。」


榎本さんも、長い時間をかけて調べてくれたんだと思うけど、さすがに地元の方が危機感を持って調べると、情報の質も量も違うってことか。


「それで、今どんなところまで計画が進んでいるのですか?」


小山内が俺の聞きたかったところの質問をしてくれる。こういうの、パートナーっていいなと思うぞ。


「はい。計画しているのが地元の企業ということで、自治体への根回しなどが相当進んでいるようだと知り合いの議員さんが教えてくれました。」


これ、既に本格的に計画が始まっているのでは?


「私の調べたところですと、環境への影響を調べる調査が始まっているそうです。」


榎本さんが自分の調査の成果をおじいさんに伝えた。


「そうですか。やはり。先日、柿谷川を遡っていく道を作業服の一団が登っていったのを近所の方が見たとおっしゃっていたのですが、それかも知れません。」


とすると、やはり既に、単なる机上のプランというだけじゃなくて、実際にお金が動いているのかも知れない。

俺は中学の時、社会の授業か何かで、住民運動の話しを聞いたことがあった。開発に関しては、利権というのが絡んでくるので、住民が反対しても一度動き出した計画はほとんど止められない、ということも聞いた気がする。


もっとしっかり聞いておけば良かったんだが、まさか高校で小山内と再会して、人助けの活動でこんな話に出くわすなんて予想できるわけないので、その辺はまあテストに出ないしいいか、で済ましてしまっていた。


もし本当に危険だとわかったとしても、計画が動き始めてしまっているならもう止めることができないかもしれない、その思いが俺たちにのしかかってきた。


「その大木さんがお調べになった柿谷川のことですが、やっぱり、山崩れはあったんですか。」


沈黙を破り小山内が核心のところを聞いた。


「あったようです。」


おじいさんは端的に答えた。


「この住宅地を造るときにも問題があるのではないか、ということで調査がされたそうです。その時の調査をもとに、少し川を遡ったところに砂防ダムが建設されています。」


「あっ、あれか。」


俺は思わず声を上げた。全員の頭の上に「?」マークが浮かんでいる。


「いえ。この辺りの地図を見た時、柿谷川の途中に川を堰き止めるようなマークがあったので気になっていたのですが、謎が解けました。」


小山内が目で「気付いてたなら早く言いなさいよ。」と言ってきたが、そこはスルーだ。話が進まなくなる。


「そうですか。その砂防ダムの効果があったのか、これまでは大雨が降っても柿谷川が溢れるようなことも、土石流に襲われることも無かったですが、最近は温暖化ですか、あれのせいで雨の降り方が昔より猛烈になっている気がします。」


気候変動ってやつかのせいか、「すぐに命を守る行動を」、という避難の呼びかけをテレビで聞いたのも1度や2度じゃない。


テレビでそこまでの警告が出てない雨でも、大木さんのように柿谷川の名前の由来を知っていれば、「もしかすると。」という不安に襲われていたかも知れない。


気のせいでもなく、小山内の顔色が良くない。

きっと、ここに住む方達の不安を自分のことのように受けてめたんだろう。

小山内の優しさと共感性のなせる技だろうが、どうやったらいいんだろうな、これ。

とりあえず、俺の超能力を使って危険な事故が起こらないとすることで、事故そのものの危険性は無くなるんだろうが、問題はそれだけじゃない。


「あの、例えば、絶対に安全な方法で工事をするので災害が起こることはありません、というようにソーラー発電所の会社から説明があったとしたら、どうですか?」


俺はおじいさんに尋ねた。

ちなみに「どうですか。」なんて曖昧な聞き方をしたのは、わざとだ。頭と心の両方からの答えが聞きたかったからな。


「そうですね。」


おじいさんは顎に手を当てて考え込んだ。

俺たちは固唾を飲んでその答えを待つ。


「まあまあ。ちょっとお茶でもいかが。」


ちょうどそのタイミングで奥さんが麦茶を持って登場した。

美味しそうなアイスも涼しげな器に盛られて登場だ。


もちろん、それに目を奪われた俺の足は小山内にきっちり蹴られた。

なんで俺の動きをそんなに読めてしまうんだよ。

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