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 第141話 再会は突然に (5)

途中、小山内とお嬢様との間で俺の理解できない攻防があったような気もするが、ともかく職員室についた。


「失礼しまーす。」


小山内を先頭に以前と同じように職員室の奥を目指して突き進む。見覚えのある机をいくつか過ぎて森先生のもとへ。小山内とお嬢様という目立つ美少女が2人も一緒だからだろうか、目で俺たちを追ってる先生もいる。


「森先生。」


前と同じようにモニターを覗き込んでいる森先生の背後に立って小山内が声をかけた。


「うわっ。なんだ?」


森先生は体をびくっとさせて本気で驚いている。

3人も近づいてきたんだから気配を感じても良さそうなもんだが。


「お忙しいところすみません。遅くなりましたが、夏休み中の発掘調査について報告に来ました。お時間いただけますか?」


森先生は驚いた拍子にずれてしまった眼鏡を直して、声をかけた俺たちを見た。

だが、何も返事しない。

返事がないので俺たちも無言。


「…あの。」

「聞いているから報告してください。」


相変わらず、森先生は会話が成り立ってるのかどうかがわかりにくい。

だが、小山内は構わずに要領よく報告を始めた。

そういえば、夏休みに歴研と合同で発掘するって報告すらしてなかったが、それで良かったんだろうか。

まあ、斉藤先生の方から伝えてくれてはいたようなんだが。


だが小山内は、そんなことは気にしてないのか、気がついていないのか、経緯を全部すっ飛ばしていきなり夏休みの発掘の日の話から始めた。

森先生は、表情を変えずに聞いている。

これで本当に話が通じてるんだよな?


発掘の成果に続いて、今後も歴研や郷土史研と共同で発掘のレポートをまとめて文化祭で発表するというところまで一気に説明して、小山内は言葉を切った。


「何かご質問はありますか?」


小山内はあったことをほぼ網羅して説明したので、説明漏れはないと思うんだが。


「君は、誰かな?」


森先生はお嬢様を見ながら質問した。

そう言えば、小山内はお嬢様のことは一言も説明していなかった。


「はい。私は薮内悠紀と申します。今日、先生に授業していただきましたわ。」

「そうでしたか。失礼しました。」

「……。」

「……。」


いやそれだけなのか?なぜ俺たちと一緒に来たのか、とか誰?以外にも質問があるだろ、普通。


こういう時、小山内はよく気が利くから、森先生から質問がなくても紹介しそうなもんだが、さっきの攻防のせいか、何も言わない。

お嬢様の方も育ちのせいなのか、森先生独特のペースがわからないせいか、質問されてもいないことをぺらぺら喋る気はないらしい。

必然的に俺が言うしかなくなる。


「あの、森先生。」


森先生は返事せずに視線だけ俺に向けてきた。


「薮内さんは、発掘調査の現場になった土地の持ち主の薮内省三さんのお孫さんです。省三さんには、発掘調査の時に重機を出していただいたり、2日目のお昼をご馳走になったり、大変お世話になりました。」

「そうですか。」


そうなんです。そうなんですから、お嬢様にお礼を言うとかもうちょっと愛想よくお願いできませんかね?


「用件はそれだけですか。」


森先生が話を終わらせようとしている。

いや、先生、俺にだってこういうのは大人の態度としてダメだってわかるぞ。


「森先生、ちょっといいかしら。」


ほら、さすがのお嬢様もカチンときたぞ。

だがやはり森先生は何の返事もなく、ただお嬢様を見てるだけだ。


「……。」

「……。」


同じことを繰り返さなくていい。ほらお嬢様も言いたいことがあったら言っていい。これが森先生流の「言ってみなさい。」の態度なんだ。

だがお嬢様は躾が良いんだな、森先生の言葉を待ってる。仕方ない。


「薮内さん、森先生は薮内さんの話を待ってるみたいだぞ。」

「ちょ、あん、俺くん。」


この「あん」は口調からして、「あんた」と言いかけたのであって、決して可愛い声を上げたってことじゃない。念のため。

だが、小山内、お前は、先生の前で「あんた」って口にしないようにしないとな。俺の前だけにしとけ。俺用の中の人は、俺専用の中の人がいい。


「はい。では失礼して、お願いがありますの。」

「…。」

「続けていいと思うぞ。」

「では、私も中世史研に入れていただきたいのですわ。」

「…えっ!?」

「どうして?!」


完全に不意を打たれて一瞬反応が遅れた俺。小山内はさすがに反射神経がいい。

だが、まさかこれが目的でお嬢様は職員室にくっついてきたのか?!


「私もこの学校に入った以上は文化系の部活動に入らなくてはならないと教えていただきましたの。それでしたら、この学校の同学年で唯一顔見知りの小山内さんや俺さんのいる中世史研がいいかと思いましたの。幸い私の祖父があの城跡の土地を持っておりますので、私が入部すると、中世史研のほうとしても活動にも便利かと思いますし。」


お嬢様は先生に説明しているようでいて、俺たちに説明しているのかもしれない。森先生がお嬢様の志望動機に関心を持つと思えないのは、もう既にわかってるはずだからな。


だが、ちょっと待て。待ってくれ。

中世史研は最近建前の方の部活も一生懸命やってるが、本当は俺と小山内が人助けをしようってのが裏の目的なんだ。部外者を入れるわけには。


俺はそういう思いを込めて小山内を見た。

小山内は俺の視線を受け止め、固い決意の光を宿して口を開いた。


「先生。薮内さんの言うこともわかりますが、遺跡調査でメインに活動しているのは歴研です。ですから薮内省三さんとの関係を考えてと言うのなら歴研の方が相応しいと思います。それに先生もご存知の通り中世史研は最初に入部希望者が殺到した時に入部テストをしました。その人たちとの公平を考えても、どうかと思います。」


うまい。公平を持ち出したら森先生も許可しにくいだろうし、お嬢様があの難しいテストをクリアできるとも思えない。


森先生は目をしぱしぱさせながら小山内とお嬢様を交互に見た。

そのあと視線を小山内に固定しておもむろに口を開いた。

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