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 第139話 再会は突然に (3)

俺の警戒警報は最大限の危機を告げたが、とりあえず初日は、体育館へ連れて行かされた以外にお嬢様は何もしてこなかった。

それにお嬢様は、この前の発掘の日みたいに小山内に絡んでいくこともなく、放課後に榎本さんが校舎を案内すると誘うと、笑顔でついて行った。


お陰で小山内の呼び出しが実行されることもなかった。


考えてみれば発掘の時に会ったときも、近くに俺がいたりしたから声をかけられただけで、あえて俺に絡んではいなかったかもしれない。

あのときは、小山内と菅原先輩の関係のことで頭がいっぱいで、実際のところ、お嬢様とどう絡んだか、あんまりよく憶えていない。

だから、小山内のがるがるもお嬢様の馴れ馴れしさに向けられてたのかも知れないし、それなら、お嬢様が興味の対象から俺たちをはずしていてくれている限り、俺は安泰だ。


そう現実逃避ができていた時代が俺にもあった。



俺が安泰じゃなくなったのは3日目のことだった。


お嬢様は昨日、誰かから部活に何に入るのかと聞かれて、何か運動部を選ぶというようなことを言っていた気がする。

気がするってのは、運動部の話になったのが聞こえたから、そこから先はチェックしていなかったってことな。

運動部なら俺たち、つまり俺と小山内には関係が無いからだ。


と、安心して油断していた俺に突然災厄が降りかかってきた。

その災厄は放課後、俺が帰り支度をしていた時に一通のショートメールの形でやってきた。


「藪内悠紀さんが入部希望で歴研に来たんですが、俺くんがいないのはなぜかと聞かれています。君のいる部活に入りたいそうです。」


言わずと知れた鳥羽先輩だ。


たしか、発掘の時、俺は小山内と一緒に中世史研の所属だと自己紹介したはずだが、なぜか歴研の方に行ってしまったようだ。

歴研メインの発掘だし、俺たちが行くまで毎年藪内さんちに調査の許可を貰いに行っていたのは歴研のメンバーだったから、勘違いしたのかも知れない。武光さんに名刺を渡した斉藤先生も歴研の顧問だしな。


それはいいんだが、この鳥羽先輩のメールは何を意味してるのだろうか。

まさか。


「どうしたの?」


同じく帰り支度をしていた小山内が俺の表情の変化に気づいたらしく、そばに寄ってきた。


ちなみに、俺たちが発掘で一山、いや、一城あてたことがお嬢様の口から伝わったおかげで、俺と小山内が教室に残っていてもあまり何かの感情を込めた視線で見る奴はいない。

今のところは。

敵視してくる河合さんを除いて。

はあ、2学期もか。


今日俺たちが残ってたのは、発掘のことを一応顧問である森先生に報告しておかないと、ということをようやく今日のお昼に思いついて、放課後に一緒に職員室に行こう、ってことになったからだ。


小山内と一緒に職員室に行って、一緒に下校か、なんてのんびりしたことを考えてたわけだが、その前にとんだ波乱があった。


「いや、薮内さんが歴研に行ったらしい。」

「発掘品の確認かしら?」

「どうやら俺を探しに行ったらしい。」

「どうして?まだ何か用件あったかしら?」

「発掘がらみじゃなくて、入りたいってことみたいだ。」

「どこに?」

「歴研に。」


小山内は訳がわからない、というような顔になった。


「歴研に着けたならもうあんたを探す必要なんてないでしょう。」


俺も小山内が何を言ってるのか訳がわからない。

小山内は俺の困惑に気付いたのか、言葉をつづけた。


「だって歴研の部室を探し当てられたのなら薮内さんは、あんたに案内を頼む理由ないでしょ。」


俺はようやく小山内の誤解に気づいた。


「入りたいっていうのは、部室に入りたいっていうことじゃなくて入部のことだよ。」

「えっ!?いくらお世話になったからって、この学校、部外者を部活に参加させられるの?」

「小山内、部外者っていう言い方はどうかと思うぞ。」

「だって。」

「それにあの時顔合わせしてるから、歴研や中世史研となんの関係もないとも言えない。」

「ま、まあそうかもしれないけど。名誉部員みたいなものなのかしら?」


小山内はそんなこと聞いたこともない、とでもいう表情を浮かべて、訳のわからないことを言い出した。


「名誉も何も、普通に部員てことだろ。」

「だって。」


俺は小山内が何を言ってるのかようやくわかってきた気がした。


「そうか。だが小山内、運動部メインで行くからって、文化部にも所属しなきゃいけない以上、名誉部員じゃなくて普通の部員になる。だろ?」


小山内は俺の言葉に不意をつかれたような表情を浮かべた。


「え?どういうことなの?あっ!」


小山内は動揺した。


「それってあの子のことなの?!」

「当たり前だろ。あ、もしかしてあの薮内さんのおじいちゃん、ええと。」

「薮内省三さん。」

「そうだ、その省三さんのことと勘違いしてたのか?」


小山内はぱっと顔を赤らめて顔を伏せた。

そんで手をもじもじさせながら少し怒っているかの様な口調で言い訳した。


「だってあんたが薮内さんなんて呼ぶからよ。」

「そうは言っても、薮内さんは薮内さんだろ?」

「そう呼ぶから間違えるのよ。」


これ逆ギレじゃないのか?さすがに俺を責めるのはおかしいだろ、これ。


「だったらなんて呼べばいいんだよ。」

「それは…あの子とか?」

「いやそれじゃ誰のことかわからないだろ。」

「じゃ薮内って。」

「呼び捨てまずいって。ほかの女子にはさん付けしてるのに。」

「だったらどうすんのよバカ。」


逆ギレ激化。

だがたしかに区別しないとややこしくなるのは間違いなさそうだ。

それなら。


「それなら名前で呼ぶよ。悠紀さんて。」


小山内ははっと顔を上げて目を大きく見開いた。


「名前で呼ぶの?」

「それがいいだろ?」

「あんた私は苗字で呼んでるのに、あの子は名前で呼ぶっていうの?」

「小山内は苗字で呼んでも間違えないからな。」

「そんなのだめ。絶対だめ。ばか!」


これなんて逆ギレだ?


「だったらどうすれいいだよ。」

「だったら。」


小山内は絶句した。


「だったら?」


小山内には悪いが、ここはちゃんとしとかないと、それこそあとでひどいことになりそうな気がする。

小山内は口をぱくぱくさせて、息を飲み込んだ。

それから赤く頬を染めつつ視線を最大限逸らしながら言った。


「だったら私も名前で呼んで。」

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