第138話 再会は突然に (2)
始業式が終わって教室に戻ってくると、自分の席についたお嬢様は早速女子たちに囲まれていた。というか、廊下から囲まれながら戻ってきたようだ。
小山内はその様子を、なんといえばいいのか、あまり好意的じゃない表情で見ている。
小山内がお嬢様相手にがるがるする理由が俺にはよく分からないんだが、このままだと俺にとばっちりが来ることは確実だ。
どうしたもんだか。
「テル、薮内さんとどういう知り合いなんだ?」
伊賀がお嬢様を見ながら尋ねてきた。
「ああ、前に俺が夏休み中に遺跡の穴掘りに行くって話をしたことあるの、覚えてるか?」
「ああ、たしか昔の城跡じゃないかって言ってた。」
「そうそうそれ。」
「それとあの子がどういう関係なんだい?」
伊賀は俺の答えを待たずに小山内に視線をやった。
「小山内さんとも関係あるのかい?」
「そうだ。小山内も穴掘りに行ったんだが、その城跡の土地の持ち主の人がな、薮内さんていうんだ。」
「あ、同じ苗字だね。」
ホリーも話に入ってきた。
「そうなんだ。土地の持ち主のお孫さんがあの薮内さんで、穴掘りの時も、いずれその土地を受け継ぐからって顔を見せてたんだよ。」
その時の、俺にはよくわからない小山内のお嬢様への態度は説明から省いた。余計なことを言って巡り巡って小山内の耳に入ったら何か恐ろしいことが起こりそうだからな。
「それだったらなぜ小山内さんはあんな微妙な態度なんだい?」
言ってるそばから伊賀は何言い出すんだよ、って口に出してはなかったか。
俺は思わず小山内を見てしまい、小山内の口元が明らかに不機嫌そうにひん曲がるのに気づいてしまった。
聞こえちゃってるぞ、おい。
「さ、さあな。女子と付き合ったことのない俺には女心はさっぱり。」
たしか小山内にも同じ様な言い訳をして全然効かなかったが、それ以外には言いようがない。
「でもテルくんは小山内さんともう半年近い付き合いなんだから、わかるんじゃ?」
ホリーは無邪気な顔で聞いてきくる。
うーん、ホリー。その付き合いとあの付き合いはちょっと違うんだよ。
だがなぜか小山内の口元が緩んだ。
やっぱりこっちの話と小山内の機嫌は無関係なのか?
「ホリー、なんだかテルが困ってるから、その辺にしておいてあげなよ。」
「よくわからないけど、そうだね。わかった。」
わからないのかわかるのかどっちなんだ、て気もするが、そう突っ込む前にお嬢様を囲んでた女子から声が上がった。
「そうなんですか!」
ん?
敬語?
「でもそんなの酷いですよね。」
やっぱり敬語だ。しかもおもねったかのような口調で怒ってるのもいる。
どうした?
「大丈夫ですわ。日本でもまた3年間も高校生活を楽しめるのですから。」
「すっごーい!前向きなんですね。」
「そうよね〜。私なら中学の時の同級生が留学から帰ってきたら上級生になってたら複雑。」
誰が言ったかわからないが解説サンクス。
どうやらお嬢様は一つ年上らしい。だが留学してたので俺たちと同じ学年に入ることになったようだ。
それならこんな変な時期に転校?編入?してきたのもわかる。
その時、俺はふと、俺と同じクラスになるためにお嬢様は高1からやり直すことを受け入れたのかも、などという、俺は何様なんだよ的なことを思いついてしまった。
こんなことを考えたのが小山内に察知されたら大変だ。
ちらっと小山内を横目で見ると、小山内は、お嬢様周辺から聞こえてくる声の方に集中しているようだ。
一安心。
「なぜうちの学校を選んだのですか?」
「そうそうそれ。気になる。」
そうそうそれ、俺も気になる。いい質問だ!ナイス!
「私のお爺さまもお父様もこちらが地元ですので。それに先日お爺さまがそちらの俺くんとご縁があったことで、お爺さまが俺くん大変気に入られて、私に強く勧められまして。」
いきなり俺の名前が飛び出してきた。
なんだ?
俺が薮内さんとご縁があったのは事実だが、小山内もそうだろ。
まあそれはいいとしても、お嬢様をうちに学校に編入させるくらいのご縁だったっけ?
まあ確かに言ってみればただの歴研の試掘調査のために、わざわざ刈り込みして重機まで用意してくれたんだから、普通のご好意じゃないのかもしれない。
大金持ちだからと思っていたが、それ以上の何か意図みたいなのがあったのかもな。
そういえばお嬢様はお嬢様だった。
俺がおかしくなってしまったのじゃなくて、悠紀さんはお金持ちの子だったって意味な。
そんなお嬢様ならお嬢様高校にだって行けただろうし、留学歴をちゃんとプラスに評価されて2年に編入できる高校だって選べただろうに。
電車に乗って通える範囲でも俺も名前を知っているお嬢様学校がある。
しかも薮内さんが気に入ったとは言え、この前聞いた話だと、お嬢様の父親である武光さんとは長い間会っていなかったという。
お嬢様とは会っていたのかもしれないが、それでも薮内さんの勧めが決定打になって高校を決めただなんて違和感がどうしても残る。
気をつけたほうがいいかもな。
俺は何かに巻き込まれる予感に震えた。
マジで。
小山内恐いし。
「テルくん、そんなに気に入られたんだね。すごいね。」
「いや、テルが気に入られたんじゃなくて、うちの学校が気に入られたのかもしれない。な、テル。」
伊賀が助け舟を出してくれた。
何にかって?
もちろん、ホリーの不用意な一言が聞こえたらしい小山内のきっつい視線からの逃亡だよ。
だが、言われてみればさっきのお嬢様の言葉はどっちにも取れるな。
小山内ともっと親密になりたい俺としては、伊賀が正解なのを祈るばかりだ。
ここまでラノベみたいな展開だからといって、この先ハーレム展開なんて難易度高すぎて俺には絶対無理だ。
いいか、俺はそんなこと望んじゃいない。
よく憶えておいてくれよ。