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 第121話 複雑 (4)

俺たちは指示された作業を手早く済ますと、指示されたとおり、菅原先輩に声をかけた。


土の運び役をしてくれているのは他の先輩達も同じなのに菅原先輩の手伝いをすることになってしまったのは、運悪くというべきなのか、小山内にとっては運命というべきなのか。

俺たちは土の中に何かないかを確認する作業の手ほどきを菅原先輩から受ける。

土をふるいにかけるんだが、これがなかなか面白い。

菅原先輩の話だと、昨日は土の中から、鏃のほか、同じくらいの深さの層から古い時代の食器らしきものの破片なんかも出てきていたそうだ。


とりあえず俺は、しばらく経ってから「小山内さんより力仕事が向いてるから俺には重いものを運ぶ方の仕事を回してください。」と申し出て、プラスワンがカップルの邪魔をしないように気を遣った。

こういう気の遣い方をできるようになった俺は大したもんだろ?

それとも大バカ野郎か?


小山内と菅原先輩が会話を弾ませながら共同作業をするのを横目に土運びの作業をしばらく続けていたら、斉藤先生が薮内さんご一家とヘルメットを被った作業服の人を案内してきた。おそらくヘルメットの人は教育委員会の人だろう。


薮内さんと武光さんと教育委員会の人は、昨日最初に焼け跡が出た穴の横で足を停めて斉藤先生の説明を聞いている。

だがお嬢様はきょろきょろとあたりを見回して、俺を見つけると、藪内さんたちから離れてよってきた。


「あなたは何をされているのかしら?」

「掘り出した土を運ぶ作業をしています。」

「今回は、また元通りに埋めると聞いてましたが、なぜわざわざ土を運んでいらっしゃるの?」

「埋め戻す前に、この土の中に何か遺物がないかを確かめているんです。」


俺はそこで、ちょっとしたいたずらを思いついた。


「悠紀さんもせっかく来たんですから、すこし作業をして行かれますか?土運び以外にも土をふるいにかけたりする作業もありますよ。」


お嬢さんは今日はつばの広い帽子にノースリーブの空色のブラウス、涼しそうな白のスカートをはいている。

さすがにこんな場所に来てるから、靴はスニーカーだがあまりほとんど汚れていないのは、こういう所に普段来ないからだろうか?

いずれにしても、作業をすることは考えていない服装だ。


「そうね。楽しいかしら?」


え?

服が汚れるとかではなく、それが基準なのか?


「さっきやったときはけっこう楽しかったです。宝探しみたいで。」

「そうなの。では少しやってみようかしら。」

「服が汚れるかも知れませんが、大丈夫ですか?」

「服が汚れたら着替えたらいいわ。それより今しか出来ない楽しいことをしましょう。」


へえ。そういう子なのか、この子は。

昨日もその片鱗はあったが、好奇心が強い子なんだな。


「どうすればいいか教えてくださるかしら?」

「では、こっちに来てください。」


俺はお嬢様、いや悠紀さんとの会話中、一旦降ろしていた土の入ったちりとりの親玉をまた持ち上げ、小山内と菅原先輩が一緒に作業している所に案内する。


俺と悠紀さんが、昨日は藪内さんの家に泊まったのかとか、今日のお昼ご飯は楽しみにしていてくださいね、とかの軽い会話をしながら小山内たちに近寄っていると、小山内が俺たちに気付いたのがわかった。

菅原先輩と一緒にいて幸せなはずの小山内が、なぜか険しい表情で俺を見ている。


「小山内、悠紀さんもふるいにかける作業を体験したいと言うことだから、おしえてあげてくれるか?」

「あら、俺くんが教えてくれるんじゃないの?」

「いえ、ここは小山内と菅原先輩の担当なので、小山内か菅原先輩から教わってください。」

「そうなの。んー残念。小山内さん、よろしくお願いしますわね。」 


俺なんかに残念とか、さすが悠紀さんはお嬢様だけあって言葉がうまいな、とは思ったが、それ以上に気になったのは小山内が悠紀さんを見る目だ。なぜか、いつも誰にでも親切な小山内が悠紀さんには冷たい目をしている。


「どうした小山内?」

「何でもない。あなたにはわからないことだわ。」


そう言って俺を見る目も冷たい。

何だこれ?

あ、菅原先輩との時間を邪魔しちゃったからか。

悪い。

ほんと悪気はなかったんだ。

でもどうせすぐに昼飯なんだから、それまで我慢してくれ。


「じゃ俺は、また土運びに戻りますんで。菅原先輩、悠紀さんをよろしくお願いします。」


そう言って、俺はそそくさとその場を立ち去った。

悠紀さんは俺に軽く手を振り、「やり方を教えてくださる?」と小山内の方に向き直った。

なのに、なぜか俺の背中に小山内の視線が突き刺さっている気がする。

一体どういうわけだ?

小山内は、お嬢様タイプは苦手なんだろうか?


そのあと、俺が3往復くらいするうちに、悠紀さんは作業に慣れたみたいで「これは石かしら。」とか言いながら笑顔でふりふりを楽しんでいる。小山内の表情も若干険しさが取れたようだ。

ひとまず良かった。



さて、ようやく昼飯だ。今日は藪内さんご一家も残っていて、一緒に食べることになっていた。

実は昨日、今日の昼飯は藪内さんから差し入れがあるという予告があったんだ。

さっきの悠紀さんの「今日のお昼ご飯は楽しみにしていてくださいね。」というセリフからしても、相当期待できるものだろう。


みんな顔には出さないが楽しみにしてるのは、そわそわした態度から丸わかりだ。


「はーい、ではお昼にしましょう、タンクの水で手を洗って、お弁当を受け取りに来てください。」


鳥羽先輩の声が林に響き渡る。

昨日はみんなが各自持ってきた弁当を林の入り口あたりの日陰で広げて食べたんだが、今日もそのあたりに行けばいいのだろう。


悠紀さんも誘おうと思って小山内たちの元に行く。

だがそこには悠紀さんの姿は無かった。


「あれ?悠紀さんは?」

「なにあんた、あの子が気になるの?」

「せっかくだから弁当を一緒に食べようかと思って。」


途端に小山内の機嫌がさらに悪化する。眉間の皺がくっきりしたからわかりやすい。

うへっ。


「ふーん。わたしは誘わないんだ。」

「いや、小山内は菅原先輩と一緒に食べたいんだろ?」

「私が誰と一緒に食べたいか、あんたにわかるんだ。へえ。」


俺は正解を言ったはずなのに、何故か小山内の眉間の皺が2本になった。

言葉遣いも荒々しい。


「いいわ。あんたなんか好きなだけあの子と一緒にいればいいわ。」

「ちょっと待て小山内。」

「何よ。」

「こんなこと言いたくないけどな、俺はお前が菅原先輩と少しでも2人だけになりたいだろうと思ってそう言ってるんだぞ。」

「そんな言い訳聞きたくないわ。それに私に気持ちを勝手に決めないでくれる?」


ダメだ。

あと一言か二言で小山内が爆発する。

だが小山内が何に起こってるのかすら見当がつかない。

2人で穴を掘ってた時はもっと穏やかだったのに、そのあと悠紀さんが来てからか?おかしくなったのは。だが、なぜだ?

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