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 第114話 波乱 (2)

俺の意識が小山内に向いているうちに、歴研と郷土史研メンバーの紹介が終わっていた。

次は中世史研の番だ。


まず小山内が一礼して、簡単に中世史がこの4月に出来立ての部でメンバーは2人しかいないことを説明し、「私は部長の小山内凛香です。よろしくお願いします。」と自己紹介した。

菅原先輩はその様子を優しい笑顔で見ている。


最後は俺の番だ。俺は雑念を払って中世史研に所属していることと、名前を名乗った。


「ふーん、あなたがお爺さまがお話になってらした俺君なのね。」


興味深そうにそう言ったのは、武光さんの横に立っていた俺たちより先に来ていた女子だった。歳は俺たちと同じくらいだと思うが、みんなが汚れても良さそうなラフな服で来ている中、1人だけフリルがついた薄紅色上品なワンピースを着ている。そのせいもあってなんとなくお嬢様に見える。


「これ悠紀。よさないか。」


薮内さんがそう叱ると、その女の子は「はーい。」と言って黙った。

どうやら薮内さんの孫、つまり武光さんの子供か。


「失礼した。私が薮内家当主の薮内省三だ。私の隣にいるのが、嫡男の薮内武光。その隣が、」


と言って薮内さんはさっきのお嬢様を指差した。


「武光の一人娘の薮内悠紀だ。」


指さされた悠紀さんは軽く頭を下げて、なぜか俺の方を見ながら「よろしくお願いしますわ。」と言った。

あの豪邸に住む薮内さんの跡継ぎである武光さんの一人娘だというなら、お嬢様で間違いない。


改めてよく見ると、小顔で、長いまつげに少しきつめのぱっちりとした目で、鼻筋も通っていて、それぞれに整った顔のパーツがあるべきところに収まっている華のあるタイプの美人だ。

髪は肩くらいまで。背は170センチはないか。


「今日は自慢の孫娘を連れてきたというのではなく、武光の一人娘として将来この土地を受け継ぐものという立場で来させた。」


あの俺たちが藪内さんから聞かされた、先祖代々の呪縛は藪内さんの代で終わりだろうが、この土地自体が消えて無くなるわけじゃない。だから、これからこの土地を受け継いでいく人にあの話しを教えておくということか。なら、今日のこの機会というのはたしかに絶好の機会だろう。


そのあと、作業服を着た大人たちの紹介があって、斉藤先生から作業手順と事故防止の注意があった。


そのあと。


「では、行こうか。」


藪内さんは、武光さんとお嬢様を促して、林の方へ歩き出した。

何も言われてはいないが、さっきの話を聞いていた俺たちもその後に続く。

1番左端に並んでいた俺が先頭になった。


いつもなら、俺の横にいた小山内はそのまま俺の横に並んでくれるんだろうが、今日は小山内は、やっぱりと言うべきか、菅原先輩の横で、何か明るい声で話しかけている。


「どうされたのかしら、そんな難しい顔をして。」


俺が後ろの2人の様子を気にしている間に、俺の少し前にいたはずのお嬢様がいつの間にか俺の横に並んでいた、というか俺がお嬢様に追いついてしまったのか。


「いえ、特になにも。」

「うそ。あなた後ろを気にしてらしたでしょ。」


お見通しか。まあ、後にいたはずの奴がいきなり自分の横に並んできたら、どうした?って普通思うだろうな。


「すみません。個人的なことでちょっと。」

「小山内さんのことかしら?」


んー?

初めて会った女子にいきなり図星をつかれた俺は、驚きを隠しきることが出来なかった。俺のその表情をお嬢様はころころと笑った。


「あなた、わかりやすい方ね。その素直なところは好ましくてよ。」


このお嬢様も小山内なみの変わり者なんだろうか?


「私がどうかしましたか?」


小山内が菅原先輩に向けていたのとは一変した、警戒色をにじませた声でお嬢様に尋ねてきた。


まあ、俺とお嬢様はひそひそ話をしていたわけでもないし、小山内も俺たちの真後ろにいたんだから、聞こえて当然か。


「いえ、大したことではございませんの。あなたのお友達の俺君が、あなたの様子をたいそう気にしていらしたようですから。」

「それがあなたと何か関係が?」

「お爺さまやお父様は、小山内さんと俺君がそれはもう息が合っていらして、わたくしが苦労するかも知れないと仰っていましたのに、あなたが俺君にはあまりご執心ではないご様子なので、安心しただけですわ。」


お嬢様言葉を操る、このなんて言ったっけ?そう。悠紀さんだ。その悠紀さんが言っているわけの分からないことも気になるが、それより俺が小山内を気にしてることを本人に言うとは。


「私と俺くんとの関係はあなたには何の関わりもありません。俺くんは私の大事な友人です。」


小山内は売られた喧嘩を買うような返事の仕方をしているが、そこまで敵意を示さないでもいいんじゃないか。俺なんてどうせ単なる勘違い野郎でしかないんだから。


「あんたも鼻の下伸ばしてないで、なにか言いなさいよ。」


小山内は、俺の足を蹴飛ばして耳元にささやきかけてくる。

久しぶりの俺用の中の人のご登場だ。

だが。何を言えと?


「ああ、俺と小山内は友人だ。」


「ただの」という言葉を付け足そうとして、やめた。

少なくとも俺と小山内は、裏の部活のパートナーではあるから、いくらやさぐれていてもそこまで卑下する気にはなれない。


「そうですか。それは失礼しましたわ。」


お嬢様は、またころころと笑うと、足を速めて藪内さんたちに追いついていった。


「何なのあの子。」


小山内は、お嬢様の後ろ姿と睨む。


「藪内さんのお孫さん。」

「あんたバカなの?そんなの分かってるわ。」

「俺も初対面だ。」

「そんなのわかってるわよ。」


小山内は口をとがらせながらそう言うと、フンという鼻息が聞こえそうなくらいの勢いでお嬢様から顔をそらした。


「仲がいいね。」


後から、菅原先輩の柔らかい声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん、誤解しないで。俺くんとは何でもないの。」

「さっきは大事な友人ていってなかったかい?」


小山内はもう、見ていて分かるほどすぐに顔を赤らめた。


「それは…もう、お兄ちゃんの意地悪。」


うん。これはこれで辛い。

俺が勝手に小山内を意識して、勝手に辛くなってるだけなんだから小山内にあたる理由はない。だが、俺の目の前で「お兄ちゃん」相手にかわいくなっている小山内にちょっと何か言ってやりたくなった。


「小山内さん、悠紀さんじゃないけど、俺は小山内さんと菅原先輩の関係に興味があるんだが。」


どうせ殺すならさっさと殺せ、ってやつだ。

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