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 第106話 お誘い (3)

なんてことは言ったが、なんで俺が小山内に蹴られたかは、なんとなくわかってるさ。

ラノベの鈍感主人公じゃないんだから。


わからないのは、小山内が俺を蹴ったのは、俺が、きわきわ水着のお姉さんを想像したと思ったからなのか、小山内たちの水着を想像したと思ったからなのか、だ。

これは、俺の高校生活が変わるレベルの差じゃないか?


そういう問いかけを込めて俺は小山内をじーっと見たんだが、小山内は、耳たぶをちょっと赤くしたまま、もう俺を見ようとはしなかった。


小山内、わざわざ呼びつけといてそれはないだろ?


「凜ちゃん、ええと、私は大丈夫ですよ。バーベキューなんだから、水着でっていうことではないんですよね?」

「そうなの。でも、目の前がビーチになってるところを予約しちゃったらしくて。」

「俺君はきっと紳士ですから、大丈夫ですよ。ですよね、俺君?」


いきなり話しが俺にふられた。

いや、俺も健全な男子高校生だし、美少女の水着姿を見るな想像するな反応するな、は無理でしょ。なお、触るな、ってのは大丈夫だ。俺ヘタレだから。


だが、せっかく家族で楽しむ小山内を邪魔するのは俺の望むところじゃない。

だから、心残りありありだけど、俺の答えはこれだ。


「俺が紳士かどうかは小山内がよく知ってると思う。それよりも、俺は久しぶりに帰ってきた家族と一緒に楽しむ小山内に、余計な心配とか緊張をさせて邪魔したくない。だから、せっかく誘って貰ったけど、俺は行かないことにするよ。竹内さんを誘ってあげてくれ。」

「「えっ?!」」


「えっ」とは言われても、これ以外に何か選択肢はあるか?


「小山内がどれだけ両親との時間を楽しみにしてたか、俺にはわかってる。だから、全力で純粋に楽しんで欲しい。俺がいたらどうしても俺の目が気になるだろ?それに、小山内が今回俺が行かなくったって、いつか俺と海に行くこともあるかもしれないし。」

「それはないわ。」


おい。いくら何でも即答はないだろ。


「今のところはね。」


おい。


一度言葉を切った小山内は、真剣な顔で俺を正面から見つめた。


「でもありがとう。今回は、あなたに甘えさせて貰うわ。」

「いいのですか?」


榎本さんが、なぜか、俺ではなく小山内に向かって尋ねる。


「ええ。何か天変地異が起こって、人類最後の日にでもなったら、俺君と一緒に海に行くことにするわ。だから今回は俺君に甘えさせて貰う。」


おいおい。いくらなんでも、その言い方はないだろ。


あれ?

まてよ?

それって、地球最後の日には俺と一緒にいてくれる、ということになるんじゃないか?


なんて、ラノベ脳で考えたが、まあ、小山内は、そういうことを言ったんじゃないだろうさ。


…おしい。ほんとに惜しい。

俺は心の中で血の涙を流して、諦めた。


ああ俺の海鮮!


もういいって?


こんな感じで俺の夏闇脱出の淡い期待は粉々になって消えた。

現実なんてこんなもんさ。


夏休み中、少なくとも穴掘りの時は小山内に会えるんだからそれで我慢しよう。

裏の活動もあるかもしれないし。



全員補習最終日。

鳥羽先輩から最後の打ち合わせで招集がかかった。


歴研の部室に小山内と連れ立って行く。

しばらく無言で歩いた後、おさないはぽつりと言った。


「パーティーには、あなたに代わりにうっちを誘ったわ。」

「そうか。よかった。」

「ええ。」


しばらく俺たちは無言になる。


小山内は前を向いたまままた口を開いた。


「ありがとう。」

「いいって。」


なんとなく、いつもより居心地の悪い空気を感じた俺は、小山内がいつものように突っ込みやすい軽口はないかと考え、口に出した。


「まあ、人類最後の日を楽しみに待ってるよ。」

「ばか!」


小山内の口調はちょっとだけ普通に戻ったかな?


「あんた、そんなに私たちと海に行きたいの?」

「もちろん。」


即答。

これは軽口じゃないぞ。本心だ。


「そう。」


いや、そこはなんというか、もうちょっと反応してくれてもいいんじゃないだろうか?


「わかったわ。」


もうちょっと反応してくれたはいいが、なんとも言葉のキャッチボールに困る反応だ。

だから、おれはちょっと空気が軽くなったことでよしとすることにした。



小山内とはなんとなく微妙な空気にはなっていたが、もちろんそんなことを鳥羽先輩は考慮してくれることもなく、てきぱきと話を進めてくれた。


穴掘り本番に参加する予定だった人たちのうち、赤点トラップに引っかかったのは歴研の2年生が1人だけ。

小山内のノートがなければ2人になっていたかも知れない。


斉藤先生からは、俺たちが何をやるかの説明があった。

この「城跡」と俺たちが呼んでいる場所が、いままで遺跡の可能性があるとすら考えられていなかった場所なので、まず、ここが遺跡かどうかを確認する調査をするという段階にあるそうだ。

予備調査と呼ばれるものの最初の段階にあたるんだそうだ。


そんで、歴研の先輩達がこれまで現地を見に来たり、地図で確認したり、その地図にいろいろ書き込んだりしてきたのが予備調査のなかの分布調査にあたるもので、俺と小山内が藪内さんから見せて貰ったあの書き付けや、藪内さんの家に伝わってきた話などもあわせて、どうやらあそこが本当に城跡らしい、とわかった段階にある。


次に、俺たちは本当に遺跡があるのかを試しに掘ってみようとしてるんだが、これが予備調査のなかの試掘調査というものになるそうだ。


へえ。

なんとなく穴を掘ってみようっていうんじゃないんだな。


そんで、その時に焼けた痕跡とか、矢尻とかが出てきたら、合戦があったことになるんじゃないか、という話しにつながるらしい。


ちなみに、この土地を開発しようという話しだったら、もっと早い段階で教育委員会とかと話ししなくちゃならないそうだ。


当日は、藪内さんが手配してくれた重機もつかって表土をがっと掘り起こして、っていう結構大変なこともやるらしい。

あんだけ綺麗に藪を刈ってあったのも、この重機が入れるようにってことだそうだ。


俺が、そんなのに関わっていいんだろうか?

横に座ってる小山内は「へえ。」とか「すごいわ。」とか声に出しながら期待に満ちた表情で斉藤先生の説明を聞いている。だが、俺はあの藪内さんとの話がそんな大事になってしまっていることへの当惑の方が大きかった。


とはいえ、明日からようやく本物の夏休み。

当惑よりも夏休みへの期待の方がずっと大きい分、気持ちは軽い。




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