表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/216

 第105話 お誘い (2)

いや、俺が期待していた夏休みのテンプレ展開はそういうんじゃないって。


「小山内、おまえ、俺のことをどう話してるんだ?」

「そんなの知らなくていいでしょ。」


さらに真っ赤になりながら、小山内は答弁拒否。

いや、それはダメでしょ。


俺の当惑した表情と小山内の真っ赤な顔を見て、何故か榎本さんが小山内に味方した。


「俺くん、それは聞いちゃいけないことですよ。」

「いや、小山内はいつも俺のことをさんざんバカバカ言ってるし、もしかすると、俺、パパさんになんか誤解されて怒られるんじゃないのか?」

「えっ?」


榎本さんはわかりやすく疑問でいっぱいの表情になった。


「ほら、俺がセクハラおやじにされたあのこととか。」


榎本さんが、「あーっ、あの!」みたいな表情になった。


榎本さんの前では口には出せないが、他にも俺には思い当たることがいくつもある。

小山内のプライベートなことを聞き出したこととか、春田さんのことで小山内を危険に晒したこととか。

他にも女の子の父親だったら、俺の家に小山内を連れてったことにも何か思うところがあったりするかもしれない。


パーティだと思ってのほほんと小山内家を訪れた俺が、目が全然笑ってない笑顔のパパさんに「よく来てくれた。」なんて言いながら握手に差し出した俺の手を握り潰さんばかりにがっちり握られて、有無を言わせず肩を抱きながら「ちょっとパパたちは話さなきゃならないことがあるんだ。」なんて言って、連れ去られる。

そんな映像が浮かんだ。


「あんた、パパにすごく失礼な想像をしてるでしょ。」


俺の青くなった顔色にめざとく気付いた小山内がジト目で責める。


「そうです。今のは俺くんが悪いです。」


何故か榎本さんまで俺の思考を読んで責める。


「いや、でもな、俺、今更ながら小山内にいろいろやらかしちゃってるな、って思ってさ。」

「あんたバカなの?あんた今まで平気だったじゃない。」

「いや、平気だったわけじゃなくて、結構凹んでたりしたんだが。」

「ええと、あれは、私もやりすぎたって思ってるわ。」


小山内はそう言って視線を逸らした。

ん?あれってどれだ?

ああ、俺が例に出したあのセクハラの件か。


「とにかく、あんたが想像してるような展開にはならないわ。」

「ですよね。」

「ユリちゃん。」

「はいはいです。」

「もう。」


なんか小山内と榎本さんが謎の会話をしてるぞ。

まあ、でも小山内がそういうのなら。


「それで、俺と榎本さんにその小山内の家でするパーティに来てくれってことなんだな?」


俺は脱線させまくってしまった会話を元に戻した。


「そうなの。どう?」


話が戻った途端にいつになく弱気そうな口調になった小山内が尋ねてきた。


「私、今まで友達に家に来てもらったことがほとんどないの。その、ええと、男の子は一度も。だからどう誘ったらいいかわからなくて。」


最後のあたりは消え入りそうだった。

不安そうな顔で小山内は俺と榎本さんの顔を見る。

いつも俺の都合なんかあんまり考えずにぐいぐい引っ張って行ってしまう小山内にしては、恐ろしく弱気な気もする。

だが、友達との付き合い方に一線を引いてきたらしい小山内は、本当にこいいう時どうすればいいのかわからないんだろう。

だったら俺の答えは決まってる。


「いいぜ。喜んで行かせてもらう。」

「私もです。」


小山内は、あっさり答えた俺と榎本さんに、拍子抜けしたような表情をした。


「いいの?」

「もちろんです。」

「俺が想像したような展開にならないなら断る理由なんてどこにもない。」

「ありがとう!」


小山内はとても嬉しそうだ。

小山内のこの表情を見れただけでも俺は十分に満足だぜ。


小山内は、時間と場所はまた教えると言ってその日の相談は終わった。


ちなみに、俺は、駅で小山内と別れた後に暑さのせいだけじゃない汗をかいていたことに気がついた。


女の子からパーティに招かれる!?

ヒャッホー!



んでその夜、小山内からまたショートメールが来た。

「ごめん明日もう一度藤棚に来て。」

だった。


やっぱり俺はパパさんから固すぎる握手をされる運命にあるのだろうか?



次の日、かなりどきどきしながら藤棚に来ると、榎本さんと小山内が先に来ていた。

ほぼ同時に教室を出たんだが、さすがに小山内たちと一緒にここに来るわけにもいかず、俺の方がちょっと寄り道してたせいだ。


「遅い。」


小山内がじろっと睨んでくる。


俺は、それには答えず、寄り道して買ってきたものを鞄から出して見せた。


「好きなものを選んでくれ。」


といっても3種類しかないが。

紙パックのカフェオレと、ヨーグルト飲料と、緑茶だ。


小山内は、ばつが悪そうな顔になって、榎本さんがヨーグルト飲料をとった後、カフェオレを選んだ。


「俺君、ありがとう。」

「…ありがとう。」

「いや、俺が飲みたかったからな。」


昨日、藤棚ならそれなりに日陰で涼しいかと思ったら、意外に暑かったから、熱中症対策だ。


とりあえず、みんなが数口飲んだあたりで、今日もなかなか話し出さない小山内に話を促すことにした。


「それで?」

「あ、あのね。」


今日も小山内は口籠った。


気が変わったとかか?

招待するのは女の子限定だったとか?

俺は、パパさんの固い握手が待ち受けてる以外に小山内が話しにくそうにしている理由をいろいろ推測してみた。


「実は、バーティーっていうのが私が思っていたのと少し違っていたの。」


別に、ちょっとくらいの違いなら、大丈夫だが。

小山内は、主に榎本さんに申し訳なさそうな顔をして続けた。


「じつは、パパが思ってたパーティーって、結構本格的なものだったの。」


もしかして、会費制とか?

それでセレブパーティーなので会費1万円とか?

それ以上だと厳しいけど、小山内とパーティーに行けるなら、頑張るぞ。


小山内はついに目をつぶって、思い切って言うぞ、みたいな顔になった。


「私も、昨日パパと話して初めて気がついたんだけど、パパは、海辺の貸別荘を予約して、そこでパパ達の友だちも招いたバーベキューをするっていうの。」


はいきました、セレブパーティー。

俺の頭の脳裏に、「hahahaha」と笑ってる金髪の美男美女が、分厚いステーキやら塊肉を紙皿に載せて原色の際どい水着でくねくね踊ってるシーンがありありと映し出された。


肉祭りかっこセレブバージョンの映像に思わずつばを飲み込んでしまった俺に気付いた小山内は、俺の足を蹴飛ばす。


「最近、輪をかけてバカになってる誰かさんには悪いけど、あんたの思うようなことは絶対ないから。」


あ、小山内が調子をとりもどした。


「パパ達もいるのよ。あんたの期待してるようなことが起こるはずないじゃないの。」

「海辺だと分厚いステーキや塊肉は無理か。でもバーベキューなんだから肉を期待しても仕方ないだろ。」


やっぱり海辺だと海鮮メインか。それはそれで嬉しいけどな。

と思って、小山内を見たら、なぜか真っ赤になってやがった。


「小山内、気にするな、俺、海鮮も大好きだから。」


といったらまた蹴られた。

一体何がどうなってるんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ