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 第99話 雨のあと (1)

俺が小山内との勉強会イベントを全く無自覚にやってしまっていたことに気がついて、「俺、何やってんだよ!」と身悶えしたのも束の間、期末テスト終了日翌日の採点休みを利用したミッションが降ってきた。


まあこの言い方からわかる通り、今度の調査関係の話だ。


連絡が来たのはテスト期間中なので、部活禁止じゃないのかとも思ったんだが、連絡くらいはいいのかもしれない。


とにかく、鳥羽先輩によると、俺たちが城跡に行った時には、現地が藪になってたんだが、俺たちの話を聞いてあそこが城跡だと確信した薮内さんが、俺たちの調査に先駆けて藪の刈り込みをしてくれたそうだ。だから、雰囲気がだいぶ変わってるそうなので、現地確認をしてきてほしいとのことだった。


あそこに入りやすくなるのは大歓迎だし、藪蚊に刺されなくなるなら尚更助かる。暑いときなんで風が通りやすくなるのもありがたい。

さすが薮内さんだ。俺たちがお家に伺った時もわざわざサイダーを用意してくれてたし、いろいろ気を遣ってくれてる。


というわけで、俺たちは、テスト休みか、その休みに続いてる土日のどこか雨の降らない日に現地に行くことにした。


最初は俺だけで行ってこようと思ったし、おそらく鳥羽先輩もそのつもりで頼んできたと思う。だが、期末テスト最終日の夜に、2回の質問会の成果が気になったらしい小山内から電話がかかってきた時に、俺がぽろっとそのことを口にして、俺が1人で行ってくると言ったら小山内の機嫌が悪くなった。そんで、小山内と一緒に行くことになった。


「俺が1人で行ったら堀に落ちても助けを呼べないしな。」


と言ったら、小山内が


「あんたわざと言ってるの?」


って声に凄みが出たのは、俺が小山内と一緒に行くって決めたあとだから、俺が考えを変えたこととは関係がない。


だがテスト明け初の部活なんだから、一緒に行こうと言わなかった俺が悪いな。


2人で梅雨明け間近の天気予報と睨めっこしながら、テスト休みの日はかなり雨が降りそうってことでその翌日の土曜日に行くことになった。


「日程はそれでいいとして、どんな様子かわからないから服装は前と同じように長袖の方がいいわね。」

「雨の次の日だから長靴も持って行った方がいいな。」

「それに熱中症対策の飲み物と虫除けも必要ね。」

「あとはあの地形図と、そうそう軍手だ。日差しが強いから帽子もいるな。」


最近、小山内と2人で出かけることがごく自然な感じになってきてるから、このあたりの打ち合わせも早い。


もし小山内に彼氏ができても、きっと俺の方がこういう打ち合わせは上手いぞって対抗意識を燃やすことになるかもだ。


…そんなことは起こってほしくないが。

お前ら、何が起こってほしくないのかは突っ込むなよ。


「この前と同じ場所に集合でいいわよね?」

「駅前な。時間は前と同じで。」


なんだか楽しみになってきたぞ。1人で行こうと思ってた時は、現地に行って撮影して帰ってくるだけの事務的な作業をしてくるだけだと思ってたんだが、小山内と一緒に行くことになったら、なにか楽しいイベントじみてきた。不思議なもんだ。


翌日は天気予報通り強い雨が降った。

期末テストの疲れもあって、俺は一日中家でゴロゴロだ。

もちろん父さんのパソコン借りて地形図のプリントアウトとかの準備くらいはした。


そんで、土曜日。

電話で話した通り、小山内と駅で待ち合わせだ。

時間よりかなり早く着いた俺は、駅前のコンビニで時間を潰すことにした。

俺がかなり早く着いてしまったのは、土曜日で列車の本数が平日より少なかったせいだからな。


コンビニのクーラーで快適に時間を潰す俺の前を、制服姿の俺の学校の生徒が学校に向けて何人も歩いていく。

部活解禁でみんなだいたい明るい顔をしている。テストが終わったことの方が嬉しいのかもしれないが。


そうこうしてる間にもうすぐ待ち合わせ時間ってころになった。

コンビニを出て蒸し暑い世界に踏み出す。自転車をレンタルして走り出したら少しはましになるだろうか。


俺が改札口に着いたちょうどその時くらいに小山内が駅の階段を降ってきた。


小山内は白を基調にしたワンポイントの入った少ししっかり目の生地の長袖のシャツに、ぴっちり目のGパン、青のキャップ、スニーカーという出立ち。長い髪はポニテにしてるみたいだ。


「待った?」

「いや俺も今来たとこだ。」


嘘じゃない。コンビニで涼んでてここには今来たところだ。

そんな些細なことより、久しぶりに見た私服の小山内はやっぱりかわいい。キャップにポニテって、いつもと違って新鮮だ。


「あれ?前被ってたキャップは白だったよな?」


すごく似合ってたので記憶に残っていたんだ。


「うん。今日もあっちにしようかと思ったんだけど、こっちの方がいいかなって思って。」


小山内は嬉しそうに答えた。


「前のもかわいかったけど今日のもかわいいぞ。」


と、つい思ったことをそのまま言ってから俺はしまったと思った。

彼氏でもなんでもない俺が言うことじゃないぞ、小山内もひいてるんじゃないか?


「そう、ありがと。」


小山内の目は深くかぶったキャップのつばに遮られて見えないが、見えている口元はひいてるようじゃないから、大丈夫だったんだろう。

よかった。せっかく一緒に行くのにあっていきなりひかれたんじゃ、やるせない。


駅前で自転車をレンタルして出発。

昨日の雨が残らないか心配だったが、大丈夫そうだ。


「あんた、道を憶えてる?」

「多分大丈夫だと思う。街の中を抜けていくときにどこかで左に曲がったよな?」

「そういうの、憶えていると言わないの。」


小山内から鋭い突っ込みが来る。

まあ、声の調子から、半分以上からかいが混じってるとは思う。


「じゃ、小山内は憶えてるのか?」

「憶えてないかも知れないわね。」


いやに余裕のある答えだが、俺にああ突っ込んだ以上、小山内は憶えてなきゃいけないだろ。というか、俺たち迷子になってるんじゃないだろうな。


「あと100メートル先、左折です。」


今の、いかにもな合成音声は何だ?


「あと100メートル先で左折だそうよ。間違えないで。」

「それ、ナビか?」

「ええ。あなたよりよっぽど頼りになるナビよ。」


字面だと棘があるんだが、小山内がクスクス笑いながらだったせいで、まあそんなもんか、いう感想に落ち着いた。

楽しんでくれて何よりだ。


雨が降った後のアスファルトの、あのむっとする熱気を感じながら俺たちは、自転車を飛ばしていく。

こんなどうでもいい話をしながらな。

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