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File.02 絶望



北センチネル島はインド洋のベンガル湾内にある島だ。

実質インド政府が管理をしている島だが、この島への上陸は疎か、接近する事さえインドの法律により禁止されている。

未だに石器時代のような生活をし、外部の文明社会との交流を一切拒絶しているセンチネル族。上陸を試みた者には容赦ない攻撃を加えるので、付近で漁業を営む漁師などからも、彼らは恐れられていた。


実際、2006年には密漁をしていた2人の漁師が船で北センチネル島に流れ着き、殺害されている。2018年にも布教目的で上陸を試みたアメリカ人宣教師が殺害されたそうだ。

こういった殺人事件が起こっているが、警察は捜査していない。現代社会から隔離された島での出来事なので、不介入らしい。


秋元は絶望した。

運良く陸地へと辿り着けたが、ここから救助を要請する事は出来そうにない。仮に要請出来たとしても、その前に、センチネル族に見つかってしまえば、きっと殺されてしまうであろう。


「どうする・・・」


秋元は遠くに見えるセンチネル族に見つからないよう、体をじっと動かさず、やり過ごそうとしていた。もしこちらに近づいて来られたら、一貫の終わりだ。


「向こうに行ってくれ・・・」


息を潜め、祈るようにセンチネル族の動向を見つめる。

秋元は自分のこの息遣いさえ、彼らには聞こえているのではないかと感じてしまう。

都会の喧騒はここにはなく、純粋な自然があるだけだ。頬を撫でるように吹き抜ける風と、それに呼応して揺れる木々の葉音。そして打ち寄せる波の音。

生命(いのち)の危機さえなければ、素晴らしいロケーションだ。


どれ位の時間が経っただろう。

秋元が様子を(うかが)っていると、センチネル族はようやく森の中へと入っていった。

時間にすればほんの10分程であったが、秋元には何時間にも感じられた。


「ふぅ・・・」


秋元は大きく息を吐いた。


とりあえず目先の危機は去った。しかし、これからどうするか。ここから一番近い他の島までは、確か30kmはあったはずだ。いくら救命胴衣を着用しているとはいえ、打ち寄せる波に抗いながら、泳いで脱出する事は難しい。脱出するには船か(いかだ)は絶対に必要だ。

しかし一体どうすれば良いのか?

センチネル族に見つからないよう、この島で物資を調達するのは至難の技だろう。何しろこの島の情報は、現代でも何も知られていないのだ。


「とりあえず生き残る事を考えよう」


まずは飲料水。

センチネル族とはいえ、人間が暮らしているのだから、真水は確実に存在する。だがそれが何処にあるか。川や水辺があるとすれば、その近くの場所にセンチネル族もテリトリーを築いているはずだ。となると容易に手に入らない可能性もある。

とりあえず飲み水の確保が重要課題だった。


「雨でも降ってくれれば、雨水を溜めるんだが・・・」


秋元の持ち物は全て鞄にしまってあったのだが、海に落ちた時に手放してしまった。

あの鞄もこの島の何処かに流れ着いていてくれたらと秋元は思った。

鞄の中にはケータイの他に、折り畳み傘やペットボトル等、雨水を溜められそうな物が揃っていた。

海水から真水を作る方法をレクチャーした動画を、秋元は見たことがあったが、それだとあまりにも時間がかかる上に、量も多くは得られない。


「一体どうすれば・・・」


今自分が置かれている特殊な状況を、考えれば考える程、生存率は低いように思えてくる。


しかし、とりあえず秋元は、疲労困憊だったので、体を休める為に必要な今夜の寝床の場所を決めようと思った。

このままでは明日の朝には見つかる可能性が高い。もう少し岩や倒木等があり、身を隠せる場所が多い所に、移動するしかないだろう。


ゆっくりと立ち上がろうとしたが、それは危険な事に気がつく。いくら日が暮れて暗くなってきているとはいえ、森の中から弓矢で狙われる可能性もゼロではない為、秋元は匍匐前進(ほふくぜんしん)で移動する事にした。

ゆっくりと体を動かし、必死で砂浜を進む。全身砂まみれになりながら、数十分かけてようやく先程よりも安全そうな場所へと移動した。

左右に大きな岩があり、身を隠すにはうってつけの場所だ。だが逆に言えば、相手の接近に気づかない恐れもある場所だった。だがこの付近に良さそうな場所は、他にありそうもなかった。


「ひとまず今夜はここで休もう」


秋元は岩の隙間に潜り込み、体を横たえた。

夜空には見た事もない程の満天の星が瞬いていた。







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