6月 転入生の話=閑話休題=
明日も更新します。多分。
犬養正志 16歳。最近親の都合で転校した。
6月の中旬、新生活が始まって結構経ってしまっているため友達を作るのが大変かもな、と思っていたけれどそんなことはなく、それなりに友達もできた。
クラスメートは面白い奴、うるさい奴、学年1位の奴、お馬鹿な奴、色々いるけれど、その中でも人一倍目立って変な奴が一人いる。
「萩谷いるー?」
休み時間、違うクラスの男子が教室を覗いてソイツを呼ぶ。
「萩ちゃんならトイレだよ~、ほら」
「あ、ホントだ。ありがと~戻ってくるの待つわ」
ドアの近くにいた女子が教室の入り口を指差し答えると、男子生徒も足元を見、納得したように頷く。小さな綿埃があるだけの何の変哲もない廊下。彼らが何を確認しているかというと、靴を確認しているのだけれど。
正面玄関入ってすぐ広がる下駄箱で外靴から学校指定の上履きへと毎朝履き替えている。上靴は学年ごとにそれぞれ赤緑青のラインが入っていて、履き間違いのないようにどこかに名前を記入する決まりになっている。
俺たちの学年は緑。みんな大体かかとの所に名前を書いている。
別のクラスの男子が待っている入り口に誰かが近づいてくると思ったら、例のアイツで、手には上靴をぶら下げていて……。
「お、萩谷。今日の部活休みだって」
『え~、またー??さんきゅー』
手にぶら下げていた上靴を入り口横の壁へ邪魔にならないようにたて掛けたソイツ、クラスメートの萩谷は当たり前かのように靴下で歩き教室へと入ってきた。
もう見慣れた光景すぎてなのか、言っても無駄だからなのか誰も何も言わないが、当たり前のように靴下姿で廊下を歩く彼女は明らかに変だ。
なんでも、体温調節が得意じゃないらしい彼女は靴を履いて生活していると数時間で熱中症になってしまうのだとか。だから熱がこもらない様に、春から秋にかけては靴を履かずに生活する、らしい。
よくわからない。わからないけれど先生が許可しているし、見慣れてしまったため突っ込むこともなくなったが、とにかく、変だ。
◇◆◇◆◇◆◇
萩谷は、やたらと荷物が多い。
リュックに教科書類を入れて、学校指定のスクールカバンに弁当や部活用具を入れている。という生徒がいないわけではないし、運動部系の生徒は部活道具が多くて鞄が二つになるの言うのもわかる。だが、大体の生徒は学校指定のスクール鞄のみで事足りている。俺もそうだ。
なのに、アイツは大きく膨らんだ学校指定のスクールカバンが2つに犬のカバンを持って登校してきている。
犬のカバン、だ。犬柄のカバンではなく犬型のカバン(あれはダックスフントというのだったか)である。
スクールカバンが2つの時点でおかしいのだが、犬のカバン……。果たしてあれはなんなのだろうか。誰も聞かないが、みんなは疑問に思わないのだろうか?編入してきたばかりの俺には謎でしかない。
やたらと荷物が多い萩谷だが、彼女の机周りも非常に物が多い。
この学校の窓の桟は謎に10センチ程幅があり、窓際の席の人はそこに肘をついたり物を置いておくことができ、ちょっとしたVIP感がある。……と、個人的に思っている。
そんなみんなに羨ましがられる(?)窓際の席だが、彼女の周りは「もしかしたらあそこは萩谷の部屋なのかも…?」と錯覚してしまうぐらい物がたくさん置かれていたりする。
よくあるのが、枕。そう、枕。
なぜ、枕が教室内に持ち込まれているのか。どうして誰も突っ込まないのか。
使い道は当然、睡眠用。授業中だろうが休み時間だろうが彼女はよく寝ている。そして先生に怒られている。当たり前だ。枕持ち込みで寝るとか、何しに学校に来ているんだ。
次によくあるのが、太陽光発電の充電器。
授業中に音を鳴らさなければ特に持ち込みを禁止されていないケータイではあるが、授業中に使っていいわけではない。先生によっては見つかると没収される場合もある。
にも関わらず、彼女はよくケータイをいじっている。そして件の充電器で充電しているのをたまに見かける。
クラスの上位カーストの生徒たちの大半が彼女の充電器のお世話になってるのではなかろうか。
あと、少し前に先生も借りに来ているのを見てしまって、なんとも言えない気持ちになった。
聞くところによると、電池タイプの充電器もコンセントの充電器もカバンの中に入っているらしい。ケータイ1台しかないのにそんなにいるのか?とも思うが、知らない方がいいことも世の中にはたくさんあるからな。うん。
そのほか置かれているものはお菓子、惣菜パンや菓子パン(よく早弁している)、なんかよくわからないトレーニング器具(肺活量を鍛えるためのもの?らしい)、小さなゴミ箱(お菓子やパンのゴミを入れる用だと思う)、大量のペンが入っている筆箱、なんでも出てくる謎のポーチ、制汗剤や汗拭きシートにワックスにヘアアイロンなんかまで……。
放課後にはそれらのものは綺麗さっぱりなくなっているからそりゃ大きく膨らんだカバンを2つ毎日持ち歩いてるよね、となんだか感心しちゃう。あのかばんは絶対凶器。
きっと、彼女の部屋は俗にいう汚部屋なんじゃないかと俺は密かに思っている。
毎日放課後には片付いてるってことは整理整頓できるけど物で溢れかえってる部屋、かも?
とりあえず、新しいクラスメートの萩野は少し他人と違う変な奴だ。
ずっと寝てケータイをいじって、授業中に読書したり、早弁して昼に弁当食べて、HR前にも何か食べてたりして、学校に何しに来てるかちょっとよくわからない奴ではあるが、テストの成績は上位、部活もバイトもしているタフで変な奴である。
犬型のかばんは楽器ケースです。
中学生の頃から吹奏楽部所属なので(?)、自分の楽器を持っていました。
部活は毎日あるし、高価なもの(楽器2台計90万ぐらい)だから学校に置いておけず毎日持ち歩いてました。