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6月 学園祭準備

学園祭って当日より準備の方が楽しかったりしますよね。・・・・・・あれ?そうでもない?



 6月最初の月曜日


 月初めの一限目は月に一度行われる全校集会だ。

 朝学習の時間は無しで、SHRの時間には廊下に整列させられ、全生徒が体育館に集められて壇上の人の話を聞く、という「小学生かよ!」と思わずツッコミを入れてしまいたくなるような無駄な集会。

 一見無駄極まりない集会ではあるけれど、僕は少しだけこの時が楽しみだったりする。


「ほら、スカート下ろせ。短い。あ、お前ワックスつけてんな。水かぶってこいバカタレ。お前は化粧してんな落としてこい!おばか。こらそこ、靴ちゃんと履け!お前、腰パンすんな!全校集会だけはちゃんとしろって言ってるだろこのおたんこなすどもが!!」


 出席番号順に廊下に並ぶ生徒一人一人を確認しながら、担任が列の前の方から歩いてくる。

 他人の邪魔をしなければ比較的自由にさせてくれる僕のクラスの担任は学年の生徒指導担当であるらしく、こういった全校集会などでの服装チェックが厳しい。

 それをわかっているクラスメートたちではあるが、なんだかんだ担任大好きなみんなはあえて注意されるような行動を取っているんじゃないかと僕は思っている。わからないけど。みんな笑顔だし、そうかなって。


「普段はそこまで口うるさく言わないかわりに、こういう時にはちゃんとしろって言ってるだろ!今できないとこれから先お前たちが困るんだから、今のうちに習慣づけろっての!!」

『だって先生、”ちゃんと”ってよくわからんくない?抽象的すぎるってかさ』

「”ちゃんと”つったらあれだ!時と場面に合わせた服装をしろってことだ!!TPО!」

『うるっさ。そんな大声出さんでも聞こえてるし~』


 僕の左斜め前で廊下の壁に背を預け、両手をブレザーのポケットに入れた萩谷さんは少しばかり余計なことを言いすぎるのが玉に瑕。通り過ぎていた担任がわざわざ戻って来たかと思うとニコニコ笑顔で頭を(はた)かれていた。大して力が入っているようには見えないが角度が良かったのか、スパンッといい音が廊下に響く。

 あちこちからクスクスと笑い声が聞こえ、たくさんの視線がそちらに向きその中に僕も紛れ込む。


『いったーい!暴力はんたーい!体罰じゃん!きょーいくいーんかいに訴えてやるー!』

「うるさい!お前は早くスカートの下のピンク脱いでこい!」

『え?見えてる?マジ?はっず』


 たくさんの視線に気づいてないのか気にしないのか彼女はおもむろにスカートを持ち上げその中を露わにさせた。


「ちょ、バッッッww/////」

「ちょっと!月那!wwww」

「まっっっwwwwww」


 咄嗟に視線を逸らしはしたがしっかりとそれは目に入ってしまって、一気に赤面してしまったこれは仕方ない。


『え?あ、ごめーん。今脱ぐからちょっとしつれ〜い』

「…はぁ。萩谷、お前はもう少し恥じらいを持て」


 周りのことなんか全く気にした様子もない彼女はその場でごそごそと()()を脱ぐ。

 そんな彼女に呆れたように担任はその場を離れていった。


『寝間着置いてくる〜』

「萩ちゃんwまじヤバいよw」

『え?だって下にスパッツ履いてるし、問題なくない?見る?』


 自分の行動に何の疑問も持っていない彼女はふんふん鼻唄を歌いながらピンクのそれを振り回し、教室の中へと消えていった。

 きっと萩谷さんに思春期なんてものは存在しないのかもしれない。自分にないものを理解しようとするのは難しいから仕方ない。うん。そう思うのが心の平穏を保てるよね。

 彼女が教室に消えた途端、女子側からは笑い声、男子側からは下品な会話が多く聞こえてきた。きっとこの中には肯定的な意見も否定的な意見も混在しているんだろうなと思いながら僕は少し火照った顔を冷やしていた。


 さて、僕がなぜこの無駄な集会が少し好きかと言うと、もう察しているかもしれないけれど。そう。萩谷さんがすぐそこにいるから。

 男女出席番号順に一列に並ぶと、萩谷さんは13番目、僕は15番目。そして、体格の違いなのか女子という人種はくっつきたがりなのか、ほとんど隣と言っても過言ではない距離に彼女がいるのだ。

 無駄だとしか思わない全校集会だけれど、僕は毎月少しだけこの時間が楽しみなのだ。

 ……うそ。少しじゃない。結構好き。




 あ、教室では隣の席じゃんとかいう?

 あのね。それはそれ、これはこれ。ってやつだよ。





 ◇◆◇◆◇◆◇





 その日の最後の授業LHR


「てことで、学祭実行委員を選出する」


 LHRが始まってすぐ、担任の川上先生はそう宣った。

 なにが「てこと」なのかちゃんと説明してほしいです。



 この高校では7月の下旬、夏休み直前に学祭があるらしい。

 一学期が終わるのは9月でシルバーウィークを挟んで二学期が始まるため、期末テストはその頃。夏休み前にはっちゃけてそのまま長期休みを楽しめってことなんだろうか?

 真意はわからないけれど、あとひと月半後には学祭があるのは確定事項。

 中学校でも学祭自体はあったけど、義務教育とそうじゃないのとでは出来ることも格段に変わってくるじゃないですか。てことで、高校の学祭。楽しみだな。とても。




「学祭実行委員やりたいやついるか〜?詳しいことはプリントに書いてあるから見てくれな」


 生活指導のくせに適当な担任はそう言って残りの進行を崔さんにふった。

 委員会はやりたくないな。めんどくさそうだし。やりたい人がやればいいよ。


「えっと、今日決めるのは、実行委員とやりたい模擬店内容みたいだね。

実行委員会は基本放課後あるみたいなんだけど、、、てことは部活ある人は厳しいね。やりたい人いるかな?男女一名ずつ選出しないといけないみたいなんだけど……。女子は私でもいいけど男子誰かやってくれないかな?」

「あー、俺やってもいいよ。帰宅部だし」

「え、まじー?富田ないすー!」

「とみーアザッ!ダルそうだったからマジ助かる」

「いーよこれぐらい気にすんな」

「じゃあ実行委員は私と富田くんで決定ね。今日の放課後早速あるみたいだからよろしく」

「おっけー」


 あっさりと決まった。

 いいことだ。誰もやりたくないから寝てる人とかに押し付け合う、とかになったら大変なことになるところだったよ。……主に、隣の席で寝てる萩谷さんが、だけどね。まぁ、寝てるのが悪いんだけどさ。


「次はクラスでやりたい模擬店か。……なんかやりたいのある人いる?」


 崔さんの問いかけに一気にクラス中はざわざわと騒がしくなる。

 いつの間にか富田くんが板書を始めており、あちこちからあがる“やりたいこと”が次々と書かれていく。

 あー、いいね。なんかわかんないけど学祭っぽい。ワクワクする。


 お化け屋敷、メイド喫茶、浴衣喫茶、コスプレ喫茶、フリーマーケット、射的輪投げ、ピンボール、駄菓子屋さん、金魚すくい、ヨーヨー釣り、型抜き、演劇、ポテト、唐揚げ、たこ焼き、焼きそば、くじ引き……etc.


「んー、いろいろ出たね。どうやって決めようか?」


 どれも学祭っぽくてやりたいからどれかに決めるのは大変そうだ。かくいう僕も出店系やりたいけど喫茶店系もやりたいなって思う。

 ざわざわがやがやあちこちでそれぞれが相談する教室内はとても賑やか。

 きっと他のクラスも似たようなもので、開いてる窓からは時折お〜と言う声やパチパチと拍手の音が聞こえてきたりする。

 流石に賑やかだったからか、隣の席でぐっすり寝てた萩谷さんがむくりと起きた。いや、本当は寝てる方がおかしいんだけれど。寝てるのが普通になりすぎて「あ、うるさすぎて起きちゃったか〜」とか思ったけど。寝ちゃダメだよ。授業中だよ。


『……?今、何してんの?非常にうるさいんだが?』

「学祭でやりたい模擬店内容決めてるところだよ。寝ちゃダメだよ」

『……ほ〜ん』


 最近わかったことなんだけれど。

 寝起きの萩谷さんは寝ぼけていることが多いのか、僕が話しかけても時折返事をしてくれる。

 ググッとかたまった身体をほぐすように伸びるとぐしぐし猫のように顔をこすり大きなあくびを一つ。彼女のいつもの寝起きの動作をひっそり眺める。本当に野良猫みたいで非常に可愛い。……絶対口や態度に出さないけれど。だって、寝起きをいつも観察してるとかちょっとキモいじゃんね?隣の席特権ってことで許してもらえると嬉しいです。はい。


 プリントを読み、黒板に書かれていることをザッと見た萩谷さんはさっきまで寝てたなんて感じさせない顔つきでピッと手を挙げた。……残念なことに、頬には制服の縫い目の跡がくっきり赤くついてるけれどね。


「あ。月那、起きたんだね。どした?なんか意見ある?」

『あれ?寝てたのバレてる?』

「うん。みんな知ってるよ、大丈夫」

『えー、まじか』


 うん。みんな知ってるよ。もしかしてバレてないとでも思ってたのかな?クラスメートだけじゃなく、ほとんどの先生にばれてるよ。気づいてない先生も数人いるけど。


『まぁ、そんなことはおいといて、私はやるなら“休憩所”がいいな~』


 全然そんなことじゃないけれど、マイペースな彼女はゆるく立ち上り自分の考えを言う。そういうところいいと思うよ。


『1年生の模擬店って自分たちの教室でやるみたいじゃん?ココ校舎の外れだし、うちのクラスって部活入ってる人多いでしょ?先輩に聞いたんだけどさぁ、各部活でも出し物するから1年生はめっちゃ忙しいらしいんだよねぇ~。クラスの出し物に部活の出し物にステージの有志発表に、、、ってそんなんじゃ学祭回って楽しむ時間取れなさそうじゃない?とかおもうわけよ。

 だから、ココ校舎の端っこだし、休憩所にでもして、分別用ゴミ箱置いといて机と椅子並べときゃ良いんじゃない?って思うんだけど、どーう?座って食べるところってあんま無いらしいからさ。もうちょっと学祭っぽい準備とかしたいならキッズスペースとか?フォトスポットとかでも作ってみればいいんじゃないかな。知らんけど』


 この学校の校舎は4階建で南北に縦長いコの字型をしており1階は保健室、視聴覚室、進路指導室、多目的室などがあり、2階には職員室と3年生の教室、3階は図書館と2年生の教室、そして4階に1年生の教室がある。南側のコの字の先から渡り廊下の先に体育館やプール、道場などが入ったいわゆる部活棟と呼ばれる建物が建っている。ついでに部活棟の一階は売店と食堂になっている。

 南側から順にA組B組……なので僕たちH組は北のはずれ。この先は自習室と各階に理科室、PC室、美術室、音楽室、学科棟と呼ばれる建物があるだけ。プリントによると学祭当日、H組より先の学科塔は立ち入り禁止らしい。危険な薬品とか高価なパソコンや楽器とかあるからかな。

 その前の階段までが当日解放される場所という事だから、人通りが全くないという事はないだろうけどハズレと言えばそうな立地かもしれない。


 萩谷さんの提案にクラス全体がざわざわとしだす。当人は窓の桟の所に凭れて大きなあくびを一つ。寝起きというのを一切隠さないのが彼女のいいところだよ。


「月那、部活の出し物忙しいってマジ?」

『一年って下っ端なんだし、そうなんじゃね?』

「学祭周りたいから忙しいの嫌だな~」

「俺有志のバンド出る予定なんだけど」

「あー、先輩も出るって言ってた。見に行きたい~」

『吹部も何人か出るらしいね~』

「えー、マジ??月那は?」

「フルートバンドがあるなら出るけど」


 流石にそれはないと思う。


 ガヤガヤざわざわ各々が好き勝手に話す、混沌とした教室内。

 どうする?忙しいのはやだ。私は模擬店したい。忙しいからこそ学祭じゃん。何でもいい。ねむ~。スペシャルゲスト誰かな? etc......


「あー、はい!ちゅうもーく!!」


 収拾がつかなくなった騒がしさに、担任が仲裁に入ろうとしたとき黒板前にいた崔さんが大きな声を出す。

 それを聞いたみんなはそれぞれ自由にしていた話を中断し前を向く。

 さすがだね。素直に人の話を聞けるクラスメートたちが自慢だよ。


「とりあえず、どういう方向で模擬店をするか決めちゃおう!メイド喫茶とかポテトとかの飲食店関係か、演劇とかフリマとかの出し物系か、駄菓子とか射的とかの出店系か、月那の言ってた休憩所か。

 まずはこの4つの中から多数決を取りたいと思います!」






 多数決の結果、19票を獲得して僕のクラスの出し物は休憩所となりました。


 ……僕?飲食関係に投票したよ。メイド姿とか学祭っぽいと思ったんだけどな。






今度学校の見取り図書いておきます。あくまでも実際に通ってた学校をモデルに作った空想の校舎なので多少のファンタジーは許容してください。

本州と北海道で設備配置がこんなに違うなんて知らなかったです。。。

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