5月 席替え
次は週末に投稿すると思います。
高校生になって初めての本格的なテスト。
学期の半分ごろに行われるため中間テストと呼ばれるそれが終わって数日後、採点された答案用紙も全て返却され、明日から通常授業に戻るという日のLHRにて
「席替えするぞ~」
担任の先生は唐突にそう宣った。
「そろそろ高校生にも慣れてきただろうし、区切りがいいからな」
「え、いきなりすぎ!」
「まぁまぁそういうなって。テストの結果によって席を選べるっていう特殊な席替えだ」
「はぁ~!?そういうことはテストの前に言っといてよ!」
「毎年、窓側や一番後ろの席が人気なんだよな~」
「いや、文句を聞けよ!無視すんなし!」
クラスの大半から盛大なブーイングを受けながら、担任の川上先生は席替えの説明をした。
いわく、
・クラス成績の上位5名は自由に席を決められる
・成績下位3名は教卓の前がもれなくプレゼントされる
・それ以外は男女ごちゃ混ぜのクジで決める
・次に席替えをするのは後期の中間テストが終わった時
といった内容だった。
ついでに、この学校は前期後期の2学期制。
学期の中間と期末の計4回テストが行われ、テスト後は長期休みが待っている。期末後に席替えをしてもすぐ休みになるため川上先生は中間テスト後に席替えを行うことにしているらしい。他のクラスはまた違う基準で席替えが行われているらしいし、一切席替えを行わないクラスもあるらしい。それはちょっと嫌だな。
クラス中のブーイングをものともせず説明した担任は一枚のプリントと一つの箱を取り出していた。
テスト結果によって好きに席を選べると言うところは特に利点を感じないけれど、男女ごちゃ混ぜって言うのはいいことなのではないだろうか、と僕は思う。
今は廊下側から名前順に男子→女子で座っていて、自分から積極的に行かないと男女の交流は基本ない。
交流があればそこから仲が発展、なんてこともきっとあるはず。だから、これはチャンスかもしれない。
(まぁ、僕は萩谷さんに嫌われているみたいだから男女で交流があろうと関係ないんだけどね…)
嫌われていても近い席になれたら、もしくは女子と交流することができたら嫌われている理由を知ることができるかもだし、誤解を解けるかもしれない。どんな誤解があるのかは甚だ疑問ではあるけどね。
そんなことを考えているうちにクラス内成績が担任によって勝手に発表されていた。
「うちのクラス1位は、永川だ。おめでとう。ほとんど満点か、すごいな~」
「え、あ、ども」
テスト前に起きた嫌な事件を忘れるためにもめちゃくちゃ勉強したし、そもそもテスト範囲が中学校の復習的な内容だったから、さして難しくもなかったというだけなのだが。……あ、これは自慢でないよ。断じて違う。
断じて違うけれど、1番ということが嬉しくないわけはない。
クラス中からの歓声にヘラリと笑って周りを見回すと、窓際一番前に座っている萩谷さんと一瞬目があった。
と思ったら、彼女は苦虫を噛み潰したかのような顔をしてフイと窓の外を向いてしまった。あぁ、残念。
ついでに、2番目は部活動推薦で入学したバスケ部の沖田さん、3番目は学級委員長の崔さん、4番目は以外にもギャル系女子の村田さん、5番目は野球部に入っているらしい武藤くんという結果であった。
「萩谷~惜しかったな。お前は6番目だ。次は頑張れよ~」
『ちょっ、センセなんでバラすの!』
「どうせ明日には廊下に張り出されるんだから気にすんな」
『そういう問題じゃないよ!もう!』
そんなこんなで、成績下位の3人も発表され、上位5名と下位3名が順番に黒板に張り出されている空白の座席表に名前を書いていくことになった。
下位3名はお調子者の浅葱君、部活推薦でテニス部の長谷川さん、いつも寝てる吉野君だったことをここに記しておく。
1番の僕が選ばないと先に進まないのでとりあえず選ぶ。窓側から2列目の一番後ろの席にしようかな。
窓側の一番後ろには掃除用具を入れているロッカーがあって、なんとなくその前は嫌だったからその隣にしてみた。いままではほぼ教室の中心にいたし、やっぱ一番後ろの隅っていいよね。全体を見渡せるって言うのが。
「永川くん頭いいっぽいから近いとこにしたら色々聞けそうじゃんねー!」
「わかる~」
別に頭いいわけではないけれど頼りにされるのは少し嬉しいかもしれないな、とか思っていると沖田さんは僕の右隣を選び沖田さんと仲がいい村田さんがその前の席、僕の前の席は武藤くんで、その左隣に崔さんという席順になった。
「成績上位固まったな~。やぱそこら辺人気だよな〜。よしそれじゃあ他の奴らもクジ引きにこーい」
出席番号順にぞろぞろとクジを引きにいくクラスメートを見ながら、すでに席の決まった僕は机の中の教科書などをカバンに入れ移動の準備を行う。
ガヤガヤザワザワとした教室内で何とは無しにそわそわと落ち着かない。他のみんなと違って僕の周りはほとんど決まってしまっている。
それでも席替えというのはドキドキそわそわするものなのかもしれない。
唯一決まっていない左隣は誰が来るのだろうかね。
「よし、みんな引いたな~。…じゃ、移動開始!」
番号は黒板確認しろよ〜なんて担任の言葉と共にクラス中が一斉に動き出す。
先ほどよりもガヤガヤザワザワと騒がしくなる中、窓側から2列目一番後ろ。僕の席替えはあっさりと終わった。
「永川くん、よろしくね~」
「こちらこそ、よろしく」
「わからないこととかあったら教えてね〜」
「僕にわかる範囲でよければね」
村田さんや沖田さんと会話しているとゴンっと音がして隣に誰かが座った。
誰が座るんだろうとワクワクしながら振り返ると
「月那、なんかすごい音鳴ったけど大丈夫?」
『ねー。やっばい音なった。水筒がぶつかったかな』
隣の席には、なんと幼馴染の萩谷さんが座っていた。
……そんな奇跡、ある?
「よ、よろしくね。萩谷さん」
『…チッ』
さっきまでのにこやか笑顔は何処へやら、無表情で小さく舌打ちした萩谷さんは僕の言葉を無視するかのようにフイと窓の外を眺めてしまった。
嬉しいような悲しいような、なんとも言えない気持ちの僕は曖昧な笑顔のまま前を向き残りのHRは聞き流した。
◇◆◇◆◇◆◇
8時17分
教室に入ると僕の席に誰かが座っていた。
「あ、永川くんおはよー」
「…はよ」
(そうか、昨日席替えしたんだったか。)
廊下側一番前の扉の前。昨日まで浅葱君が座っていたその席にいた吉田さんへ挨拶を返しながらそんなことを思い出す。
昨日までは前側の席だったから教室の前から入ってきたけれど、そう言えば今僕の席は一番後ろになったんだった。これからは後ろのドアから入ったほうがいいな。
そんなことを考えながら僕の席だったそこを通り越し、新しい自分の席へと座る。
「永川、おはよ」
「おはよう、武藤君」
「英語の宿題やった?難しくてわかんないところあったから教えて欲しくて」
「あ、うんやったよ。いいよ。問2のやつでしょ。僕もわからなくて姉貴に聞いちゃった」
「え、永川くんおねーちゃんいるんだ!いいなぁ!」
既に登校してきていた武藤君や村田さんたちと会話しながら朝の時間を過ごす。
左隣の席はまだ空席のままだ。
そういえば、な話がある。
他の高校に通ったことがないからわからないけど、僕の通うこの高校には【朝学習】という時間が設けられている。8時30~40分の10分間課題プリントか読書を自席で行う謎時間。
出欠確認のSHRはこの時間が終わったら行われるから、必ずしも出席しなければいけない時間ではない。(特進科と進学科は絶対出席でこの時間も出席取られるらしい。一般科でよかった。)
運動部など朝練のある部活生は少し遅れてきても問題ない、少し緩い自習時間。それが【朝学習】。
現在時刻8時35分。ちょうどその朝学習の時間なわけだけれど、左隣の席は相変わらず空席のまま。
そして、8時40分
SHRが始まる時間を知らせるチャイムが鳴る中、少しガヤガヤしだす教室内にそれは聞こえる。
『っしゃ、セーフ!!』
「アウトだボケ。はよ入れ」
ガラッと大きな音で教室のドアを開け、そう騒ぐのは今日から隣の席になった萩谷さん。
後に続く様に入ってくる担任に小突かれながら朝から元気な萩谷さんは『おはよう』『おはよう』と通り過ぎるみんなに挨拶しながら昨日までの席へ行こうとしていた。すぐに数名の女子から席替えしたよとからかわれつつこちらに歩いてくる。
週に何度か、彼女はこうやってギリギリの時間に教室へと入ってくる。
早朝バイトをこなしてから登校しているからだといった噂があるけれど、残念ながらそれは定かではない。所属している部活の朝練かもしれないけれど、彼女と同じ吹奏楽部はこの教室にいないので真実はわからない。
とりあえず、この朝の風景はクラス中にとって結構見慣れたものであるということは確か。
『…チッ』
「・・・。」
僕に聞こえるぐらいに小さく舌打ちした彼女はどさりと床に荷物を置くと席に座った。
別にヘタレとかではない僕だけど、そんな彼女に声を掛ける勇気なんかなく、静かにSHRに参加することにした。
彼女はずっと頬杖をついて窓の外を眺めていた。
こうして僕と萩野さんの隣の席生活が始まったのだ。
少しわかりにくいかと思ったので座席表
↑黒板はこっち↑
窓 崔 武藤 村田 →廊
萩谷 永川 沖田 →下
掃除具入 ロッカー→ 側