32 加勢
「どうやら生きてはいるみたいだな、レクディオ」
絶体絶命の危機に俺を救ったのは、元仲間のアキレス。俺を裏切り、殺そうとした男だった。
「なんっ……で、てめぇが……!」
こいつに感謝すべき状況なのだろうが、それ以上に二度と関わって欲しくなかったという感情が湧いてしまう。しかしアキレスは俺の敵意を軽く受け流す。
「ふっ、キミが言ったんだろう? そのために助太刀に来たのさ!」
「何のことだ……! 助太刀って……敵うわけないだろ!」
「僕が一人だと思ったのかい? 皆さん! お願いします!」
アキレスが剣先をガルドルドに向けると、後方から大勢の魔術を発動させる声が響き渡った。
「巻物『衝撃波』!」
「巻物『風刃』!」
「巻物『大地の怒り』!」
「巻物『輝光弾』!」
「巻物『氷結砕槍』!」
「巻物『火球』!」
「巻物『斬撃波』!」
「巻物『犀利たる霰』!」
「巻物『粉砕波』!」
「巻物『毒散弾』!」
「巻物『猛る炎の飛刃鳥』!」
「巻物『爆動』!」
「グギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアア!」
次々と巻物に込められた様々な魔術が放たれ、ガルドルドに着弾する。んなっ⁉ 今一般魔術に紛れて、超高等魔術が飛んでいなかったか⁉ めちゃくちゃレアな巻物を持っているなんて一体誰だ⁉
「おう、レクディオ! 元気そうじゃねぇか!」
使用済みの巻物を手に持ち、俺の前に現れたのはスキンヘッドの冒険者、ゾンドだった。彼の後ろにはこの街の冒険者が勢揃いしている。彼らが一斉に巻物を発動させたのか!
ゾンドは焼け焦げた俺の右腕を一瞥し、前へと歩き出た。
「……よく、耐えてくれた。後は俺たちに任せろ。誰よりも早く逃げていた魔術商人を捕まえて、巻物を手あたり次第買ってきたんだよ。勿論ツケでなぁ!」
がっはっは、と高笑いし、ゾンドは他の冒険者を引き連れ、ガルドルドへと挑んでいった。
「行くぞてめぇら! ありゃあただのデカいオオトカゲだ! そうだろ?」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」」」」
冒険者たちは各々持った巻物を解き、魔術を発動してく。紅蓮の竜鱗で強靭な耐久力があるガルドルドといえど、強力な魔術の連撃に苦しんでいそうだった。
「なん……で……?」
「何でって、そりゃあ彼らは自分の街を守るために決まってるだろ。物理の効き目が悪かったから、一度退いて魔術に頼ることにしたのは脳筋の彼らにしてはいい作戦だと思わないかい? あんな大きくなってるとは思わなかったけど」
肩を竦めるアキレス。だったらこの街出身じゃないお前はどうなんだ……?
「頭がまともな魔術師たちは四天王が来た途端逃げ出しやがった。戦力としては痛いな」
「それってあたしをおかしい奴って言いたい訳?」
アキレスの仲間である魔術師のパロマも来ていたのか……。彼女はアキレスと軽口を言い合い、倒れている俺の横に屈んだ。
「ひ……ひどい……。あなた……この怪我でよく生きていたわね。すぅ……『治癒』!」
パロマの回復魔法が発動する。緑の温かい光に包まれ、少し身体が楽になった気がする。
「パロマはここでレクディオの回復を頼む。俺は彼らに加勢するから、動けるようになったら避難してくれ!」
そう言ってアキレスはガルドルドと戦っている冒険者たちの元へと駆けていった。あいつ……あんな自己犠牲をするようなタイプだったのか……?
「……何でお前たちは俺を……助けてくれるんだ?」
「別に……本当は街を出て行こうと思ってたんだけど、オリーボ鍛冶店のルビアさんに頼まれてね。あんたが一人で四天王を足止めしてるから手助けしてくれってね。まさか生きてるとは思ってなかったけど」
「ルビアが……?」
「私はあの人に恩があるからね。まあアキレスの奴は別の理由なんだろうけど……ふぅ……ある程度治癒させたけど……ごめん、その右腕は治せない……。私の「治癒」は自然治癒力を高める魔術だから……」
俺の右腕はすでに治癒力を失っているらしく「治癒」による効果を受け付けなかった。黒く焦げた指先がボロボロと崩れていくのをただ眺めることしかできない。
「疲労回復や痛みを和らげる魔術も掛けたから、動くことはできると思うけど……」
「……感謝する。……もう一人「治癒」を掛けて欲しい相手がいるんだが頼めるか?」
「あ、あぁ~~~! レクさんレクさぁん! こっちですー!」
パロマを連れてアルドラルが突っ込んだ建物に入る。その上層階で半泣きのフラルと合流した。その奥でアルドラルが気絶しているのが見えた。
「な、何こいつら? あんたの仲間?」
「ああ、あの倒れている子が死にかけているんだ。「治癒」を頼む」
「え、ええ。見たところ目立った外傷はないけど……『治癒』!」
パロマが魔術を唱えるとアルドラルの身体が緑の光に包まれ、ぎりぎりだったHPが回復していった。だが一度に過度なダメージを負ったせいか、目を覚ます気配がなかった。
「レクさん、SSRの私は召喚できそうですか?」
「いや……分からん」
「召喚……? そういえばあんたドラゴンを倒せるぐらい強い使い魔を召喚してたじゃん! あれまた喚び出してよ!」
「くっ……、前に教えただろ! 俺の固有魔術はランダムだって! 洞窟の時は偶然召喚できたんだ……」
身体が動くようになってからガチャを回し続けているが、まだSSRフラルは引けていない。スキルの確保上限数を超えるたびに古いスキルが消えていくのが心苦しい。それでもガルドルドを救うためにはガチャを回し続けるしかないのだ。
「何であんたの魔術はそんな不安定なのよ……」
俺が訊きてえよ……。
「あの……気絶するほどアルドちゃんが大ダメージを受けてしまって……でも、もうポーションがなくて……瓦礫をどかすしかできなくて……あ、あの、えと……レクさん、私何をすれば……」
目に涙を浮かべながらフラルは縋るように俺に尋ねてくる。負傷したアルドラルを前にして何もできずに独りでいた時間が心細かったのだろう。
「ねえちょっと! この人なんか透けてるんだけど!」
「⁉」
パロマに回復魔術を掛けてもらっているアルドラルの身体が半透明になっていた。カムレードが帰還する場合とは異なる事態が起こっている気がした。
「これは……アルドちゃんの存在が消えかかっているのです!」
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