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2 ディルトゥーナの呪縛

 俺の名はレクディオ。レクディオ・ベル・ディルトゥーナ。主に巻物(スクロール)魔道具(マジックツール)といった魔術が込められた商品の販売・流通しているディルトゥーナ魔術商会。そのトップである現会長の息子である。


「お前さん、ディルトゥーナ魔術商会の縁者か何か?」


「……ああ」


 誤魔化し切れるものではないと判断し、俺はスキンヘッドの冒険者の質問に正直に答えた。会話に聞き耳を立てていた他の冒険者が騒めき出す。


「この王国に普及している魔術品の九割はディルトゥーナ魔術商会の商品って聞いたことあるんだが……。それってクッソ金持ちってことだよな!」


「なんでそんな奴が冒険者やってんだ? 金持ちの道楽か?」


「しかもディルトゥーナ家ってあれだろ? 一族全員魔術を極めていて、並大抵の魔物は簡単に倒しちまう奴らばかりって噂だぜ?」


「何だ? あいつは腕試しで来たってか? 冒険者舐めやがって……」


 嫌な方向に話が転がっていきそうだな。いや、半分ほど言っていることは正しいのだが。

 弁解すべきか悩んでいると、不意に後ろから声がかけられた。


「やあ、銅ランクのキミ! 依頼(クエスト)の推奨ランクに達していないなら、僕のパーティに入りませんか?」


 振り返ると、俺と同じくらいの歳の若い好青年が立っていた。その後ろには弓と矢筒を背負いフードを深く被った男と、装飾品を多く身に着け己の身の丈ぐらいの杖を携えた女が訝しげな目を俺に向けていた。


 彼らの首からぶら下がているタグは俺の一つ上の(アイアン)だ。パーティ参加の勧誘を受ければ、俺が受注しようとしていた依頼を受けられるだろう。だが……、


「いや、まだ俺は冒険者として未熟者だ。身の程にあったランクの依頼を受けることにする。他人のパーティに参加するつもりはない」


 俺に仲間は必要ない。俺の素性の一部が明らかになっただけでこの騒ぎだ。これ以上、詮索されたくない。それに「ディルトゥーナ」の名に惹かれたのだろうが、俺は彼らの期待を裏切ってしまうだろう。俺はまずソロで冒険者としての実力を付けなければならないのだ。

 脳内でつらつらと断る理由を挙げているのは、決してパーティに未練があるわけではない。


「何言ってるんですか! 実力のある冒険者と高ランクの依頼をこなした方がいい経験になるでしょ! 未熟者とか謙遜しないでください。誰だって最初は初心者なんですよ?」


 くぅ正論!

 眩しいほど爽やかな反論に心が揺れ動いてしまう。


「なぁにが実力のある冒険者だ! つい最近この街にやって来た余所モンが!」


 驚いたことに、その好青年の言い分に突っかかったのはスキンヘッドの冒険者だった。俺も割と最近この街に来た方なのだが……。彼は俺を押しのけ、爽やかな笑顔を浮かべている好青年の胸倉を掴んだ。


「こいつにゃ、こいつの事情ってもんがあるんだろう? 無理強いするもんじゃあねえぜ!」


「ゾンドさん、落ち着きましょう。僕はただ提案しているだけです。僕のパーティに入るか、最終的に決めるのは彼の判断です」


 ゾンドと呼ばれたスキンヘッドの冒険者に胸倉を掴まれつつも、好青年は笑顔を崩さない。ピリピリした空気が冒険者ギルドに漂う。


「それとも何ですか? 彼が僕のパーティに入って貴方に不都合があるんですか? 例えば……彼の家柄を狙ってるとか?」


「てめぇ……! 俺はてめぇらが││」


「ゾンド! 手を離すのである!」


 俺たちを囲っていた人込みが左右に割れた。ゾンドを制した声の持ち主││ゼノギルがその間から現れた。口ひげを貯えた初老の男で豪華な鎧を身に纏っている。彼はこの冒険者ギルドのギルド長であり、各都市のギルドに一人か二人程度しかいないぐらい取得率が低い(ゴールド)ランクの冒険者であった。


「でもよぉ! ゼノギルのダンナぁ!」


「お前の言いたいことも分かるが、揉め事は起こすな」


 ゾンドは「ちっ」と舌打ち交じりに渋々引き下がった。このギルド内で圧倒的実力者かつ

 権力を持っているゼノギルに歯向かうことはできないのだろう。


「レクディオと言ったな。冒険者業は独りだとすぐに限界が来る。ランクの高い依頼なら尚更である。お前は高ランクの依頼をこなし、栄誉が欲しいのであろう?」


 ゼノギルは説教をするように俺に問いかけてきた。彼の言う通りだった。俺には栄誉を求める理由がある。


「これはギルド長命令である。彼らとパーティを組み、依頼を達成してくるのだ」


「よろしく頼みますレクディオさん! で、依頼は……オオトカゲの洞窟の調査ですか。ここからだと半日はかかりますね。早速出発しましょう!」


 こうして俺は強制的に好青年たちとパーティを組まされることになった。冒険者になって初の複数人での冒険が始まった。仲間になるということは、俺は彼らに自身の素性をきちんと話さなければいけないのだろう。話した結果、失望されるという未来が想像できて気が重い……。

 だが、もし失望されなかったら? 俺をそのまま受け入れてくれたら? そんな淡い期待を密かに抱いてしまうのだった。



「道すがら自己紹介しましょ! 僕はアキレス! このパーティのリーダーで剣士です!」

 オオトカゲの洞窟に向かう道中、好青年のアキレスは剣を掲げながら名乗りを上げた。そして自分に続くようにフードの男に顎で促した。


「俺は……バルトロ。弓使い……だ」


「あんたはいつも辛気臭いわねー。私はパロマ。魔術師で専門は回復系(ヒール)よ。基本的な魔術は使えるけど……ディルトゥーナのあんたには敵わないだろうけどね」


 バルトロを押しのけた魔術師のパロマがいたずらっぽく俺に笑いかけた。この流れだと俺も彼らに自分の職業(ジョブ)を明かさなければいけない……か。もう、正直に告白してしまえ。


「レクディオ。……剣士だ」


 俺が告げた職業に三人はキョトンとした表情を浮かべている。そして当然の如く、質問が投げかけられた。


「剣士? 剣を携えているとは思っていましたが……僕と同じじゃないですか!」


「魔術師じゃ……ないのか……?」


「ああ、俺はギルドに剣士として登録している」


 彼らは納得がいかない、といった様子だった。俺が魔術師じゃないのは、とある魔術から説明しなければならないのだが││


「私、知ってるわよ。ディルトゥーナ家には一般人には使えない「固有魔術(ユニークマジック)」なるものがある、という噂を!」


 パロマは興味津々な目を向けてきた。その噂はどこから聞きつけたのやら……。

「固有魔術」とはディルトゥーナ家に代々伝わる魔導書から授かる魔術だ。成人したディルトゥーナの魔術師はその「固有魔術」を授かる権利が得られる。生涯に一度だけ得られるその魔術は、二つとして同じものはなく、巻物や魔道具に込めることもできない。魔導書から受け取った本人のみが使える魔術である。

 そして「固有魔術」は一般に普及している魔術とは比べ物にならない力が秘められている……と、そう聞かされていた。


 彼らには俺の「固有魔術」について説明しなければいけないだろう。俺は立ち止まり、懐から小袋を取り出した。


「今から俺の固有魔術を見せる。この袋には銀貨が十五枚入っている」


 掲げた袋に彼らの期待が込められた視線が集まる。その場に少しばかり緊張が走った。袋を持った手が汗ばんでいるのに気付く。俺は……今から彼らの期待を裏切るぞ!



「『エクスチェンジ』!」


この続きは明日の20時更新!

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