27 SR
SRスキル《属性付与》――それは自身の所有物に属性魔術を後乗せできるスキル。魔術剣を始めとした魔装具のように魔力を込めるとその属性魔術を強化できる。
そしてこのスキルの属性の「焔」はガルドルドの火球さえも斬る威力が備わっている。
「ば、馬鹿な、オレの……我の新魔術が……うおぉおおおお!」
ガルドルドは動揺しつつも続けざまに残りの火球を次々と放った。俺は迫る火球を燃える刀身に乗せるように添え、一気にスキルに魔力を込める。爆発的に燃え盛る俺の剣は、火球を飲み込むように焼き斬った。
「はぁぁぁああああああああああああああああ‼」
一つ、二つ、と火球を斬っていく。
もっとだ! もっと魔力を込めろ!
今までのスキルは魔力を必要としなかった。だが、このスキルは例外だ。魔力を込めるほど強くなる! 余り余っていた俺の魔力を注ぎ込み、さらに火力を上がることで四つ目の火球は斬るまでもなく、逆に己の炎へと取り込むまでに至った。
「残り一つ! これで終わりだぁああああああああああ!」
俺はガルドルドの傍で浮く最後の火球を斬ろうと、残りの魔力を全て込める勢いで《属性付与・焔》強化する。刀身から巻き上がる炎が天に届くほど勢いで噴き出した。
これなら火球ごと奴を斬れる!
そう確信した。しかし、俺は間違っていた。俺の剣は魔術剣のように属性魔術が付与されることを想定して作られていない。
俺の剣は炎の魔術に耐え切れずに、粉々に砕け散った。
「えっ……」
「がははははははは! 終わるのは貴様だぁあああ!」
ガルドルドの最後の火球が放たれた。剣に付与されていた炎が霧散する。だがまだ《属性付与・焔》の効果時間はほんの少し残っている。別の武器に付与すればスキルを再起動できるが、何に付与すれば奴に一撃を加えられる……?
そう悩んでいる暇もなく火球は俺に迫る。すでに炎が付与された後のような武器があるじゃないか。俺の迷いは一瞬で吹き飛んだ。
「俺の拳だぁぁぁぁああああああああああああ‼」
「なにぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいい⁉」
火傷で赤く染まり、指先は黒く焦げた右腕に業火が宿る。その右拳で殴った火球は爆発することなく右腕の業火に呑み込まれる。そして勢いを増した俺の真っ赤に燃える拳はガルドルドの左目を殴り抜いた。
「グオオォオオオォオォオォォォオォォオオオオオオオ!」
ガルドルドは数歩後ずさり、左目を抑えながら痛みに悶えている。だが右目は俺を捉え続け、憤怒に満ち溢れていた。
「こ、このぉおおぉおオレのぉおおお! オレの魔術を貴様のような弱者が打ち破ったなどぉおお! あってはならねぇぇえええええんだよぉおおおおおお!」
俺が奴に傷を負わせたことよりも、自身の魔術を破られたことの方がプライドを傷つけたようだ。四天王の風格が崩れ、まるで子供のように負け惜しみを言っている。それが同じく本性を隠していた元仲間の剣士の男と重なって、無性に腹が立った。
「それがてめぇの本性だ。他人を弱者だと舐め、見下している。てめぇはその弱者に何回してやられたんだ?」
「黙れ黙れ黙れだまれぇぇぇェェェエエエエエエエエエエエエエエエエ‼」
ガルドルドは激昂し、咆哮を上げる。すると奴の頭がバキバキと音を立て、鱗がさらに輝きながら肥大化し始めた。そして天を仰ぎつつ、物凄い勢いで空気を吸い始めた。
この光景を見たことがある。オオトカゲの洞窟で見た白いドラゴンの「炎の息吹」の予備動作だ。このままだとこのラピスの大広場一面が火の海になるに違いなかった。
だが、どんな危機でも乗り越えられる! 俺のガチャなら絶対――
パキン、と音が聞こえた。音がした方を見ると、すでに《属性付与》のスキルの効果時間が終わり、炎が消えた右腕の親指と人差し指が地面に落ちていた。
既に焦げるほど損傷していた指が《属性付与》による後押しによって、完全に燃え尽きてしまったのだろう。他の指も所々崩れており、手首まで真っ黒に染まったいた。
ああ、もう限界だったんだな。
指が落ちた音と共に、心までも折れてしまったような気がした。けれど俺は頑張ったんじゃないか? 慣れないスキルを組み合わせ、四天王に一矢……いや、アルドラルの分も含めて二矢も報いることができたんだ。もう充分なんじゃないか。
「『豪炎竜の息吹』」
肥大化したガルドルドの口から業火が放たれた。その炎は大広場を一瞬で呑み込み、俺の身体を炭さえも残さずに燃やし尽くすだろう。俺は全てを諦め、瞳を閉じ――、
「レクさん!」
一人の少女が俺の目の前に飛び込んできた。俺を守ろうとしている少女――フラルは手を広げて俺の盾になろうとしているが、どうしたって庇いきれる規模の炎ではない。
スキルで彼女は助かるだろう。今まで何度も彼女を身代わりにしてきた。死んでも未来に帰還するだけだ。
なのに何故だろうか。
俺は彼女を庇うように抱え、手を伸ばしていた。
「⁉ レクさん、どうして……」
自分でも分からない。彼女を守りたい。そう思ってしまったんだ。
ガチャよ。頼む――応えてくれ。
「いいやつ、来ぃいい!」
手から現れるのはカムレードを示す光球。それは金色に輝いていた。
◆◆◆
「ハアァ……ハアァ……ハアァ……」
ガルドルドは口から炎を吐き出すのを止め、肩から息をしていた。ラピスの大広場や建物のあちこちに自分が放った炎が燃えていた。そして、炎が通った後には己の敵の姿はどこにもなかった。
「は……はは……がははははははは! ざまぁみろ! オレに生意気な口を利くからだ! がっはっはっはっはっは!」
「随分機嫌が良さそうだな。クソ親父」
ガルドルドは声がした方をはっと見る。大広場に沿って建てられた家の屋上に、そいつは脚を掛けて見下ろしていた。
「SR《豪迅竜姫 アルドラル・ウォーガイア》ここに顕現だゼ!」
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