24 ガチャ! ガチャ! ガチャ!
誰の物かも分からない家の中で、レクディオの身体は瓦礫の隙間に転がっていた。ガルドルドの拳によって吹っ飛ばされ、家の壁をぶち破ったのだ。この家の持ち主はすでに避難済みだったのは不幸中の幸いか。
「レク! 嘘だろ……おい! 起きろレクディオ!」
「行くんじゃねえルビア! 見ただろ! もう助からねぇ……」
レクディオに駆け寄ろうとするルビアを制するオリーボ。彼の見解通り、あの速度で壁に激突したのだ。助かる見込みなどあるはずがない。
「このぉおお! ウリャァアアアアだゼぇええ!」
アルドラルは素早く動きながらガルドルドに攻撃を加えていく。しかしガルドルドはその猛攻を軽くいなしながら、ある一点を見つめていた。
「……何をしている。さっさと起き上がれ!」
ガルドルドはレクディオに向けて…………ちっ、バレてたのか。もう少し休ませてくれよ。
俺は無造作に身体を起こした。
「えっ……レクディオ!」
「んな馬鹿な……!」
視界は赤いし、頭がガンガンする。頭からかなりの出血をしているんだろうな。だがすでにスキル《オートヒール》は発動済みだ。時間さえ稼げばそれなりに回復できる。
それに衝撃を和らげるスキル《ショックレジスト》を二つ発動した。同じスキルを続けて発動したら効果も倍増したらしく、かなり威力を減衰できたはずだ。
あと咄嗟に奴の拳が俺の盾に当たる瞬間、跳躍力を向上させるスキル《ジャンプアップ》で後方に自ら跳んだことで、このダメージで済んだのだ。そのせいで手応えに違和感を抱いたガルドルドに俺が生きていることがバレたのだろうが。
「レクディオ! 生きているのか! しっかりしろ!」
ルビアが俺の元まで駆け寄ってきた。目元に涙を浮かべている。
「あー……んー……大丈……あ?」
俺は立ち上がり、ふと左腕に装備した盾を見ると、中心からひしゃげていたのに気付いた。ガルドルドの拳の跡がはっきり残っているが、良く俺を守ってくれたと感謝する。俺は壊れた盾を腕から外そうとするが……。
「ん……この……っ!」
「お、おい! 何して……レク! 止めろ!」
「……あ?」
中々外れない盾を無理やり引き剥がすと、左腕がバッキバキに折れていた。しかし不思議とほとんど痛みはない。ひどい興奮状態で脳内麻薬が出ているのだろう。好都合だ。痛みに構わず、このままガルドルドを倒すためにガチャを再び回すことができる。
「お、運がいい。重ね掛けができるぞ。《オートヒール》」
自動回復のスキルを発動すると、折れた骨が勝手に正しい位置に戻り、骨折が治った。
「ははっ見たかルビア! 骨がボキボキ鳴りながら治ったぞ! 回復魔法でこんな真似できるか? あははは!」
「ほ、本当に大丈夫か?」
やはり同スキルの重複発動は効果が跳ね上がる! 新しい発見だ! もっとだ! もっとガチャを試したい!
「おいレク! しっかりしろ! 目の焦点が合ってねえぞ!」
「あ、ああ? ……すまない」
ルビアの声で我に返る。目的を見失うな。今はガルドルドを倒すことが先決だ。
「……ルビア。オリーボさんと一緒に避難してくれ。俺が時間を稼ぐ」
「何言って……」
「ルビア! ……行くぞ」
いつの間にか傍にいたオリーボはルビアの腕を掴み、街の外へと引っ張っていく。
「父ちゃん! あんたレクを見捨てるのか!」
「男が時間を稼ぐと言ったんだ! 戦いが終わった後、豪炎竜がこの街を見逃すとは限らない……。レクの野郎の覚悟を無駄にすんじゃねぇ!」
「レク……」
オリーボはルビアを連れて離れていく。オリーボからぽつりと「いい武器を打ってやれなくてすまねぇ……」と聞こえた気がした。何を言っているんだ。あんたが打った盾のお陰で俺は生きているんじゃないか。
それに俺は勝つつもりだ!
俺はオリーボに打ってもらった短剣を抜き、ガルドルドに向ける。
「どうやって耐えたのか知らんが……期待していいのだな」
「勝手にしろ!」
自動回復で大体俺の身体の怪我は大体治った。だが奇妙な興奮状態が収まらない。あの拳をスキルの組み合わせで乗り切った事実が俺を高揚させる。組み立てていけ……いつ来るか分からないSSRを待つだけじゃなく、スキルとカムレードで勝機を掴んでやる!
「アルドラル! 一旦ポーションでHPを回復しろ! フラルの元に行け!」
「ゼ⁉ でもそしたらまたパパがレク兄を……!」
「俺に構うな! 二度同じ轍は踏まない! フラル! ポーチからポーションを取り出して、自身もいつでも飲めるようにしておけ!」
「は、はいなのです!」
俺はカムレードの二人にそれぞれ指示を出す。アルドラルのスキルは徐々に自身にダメージを負う。HPがゼロになる前に定期的に回復させなければならない。フラルの「ワン・モア・チャンス」はどんな攻撃もHP1で耐える強力なスキルだ。だがHPが少しでも削れていたら効果が発揮されない。使い時を見誤ってはいけない。
前線を張るアルドラルが回復するまで、俺が時間を稼ぐ。ガチャによって使えそうなスキルも大体引けた。ガチャを回しつつ、スキルでガルドルドを引き付けるんだ!
「……来い。貴様の力をこの我に見せてみろ!」
「運が良かったらな!」
俺は剣先をガルドルドに向けつつ、水平に構えた。そしてスキルを唱えた。
「Rスキル!《ロングスロー》!」
「はぁ⁉」
ガチャで確認できている数少ない攻撃系の投擲スキル《ロングスロー》により、放たれた剣は物凄い勢いでガルドルドに向けて一直線に飛んで行く。
搦め手、騙し討ち上等! 敵の虚を突くなら何だってやってやる!
俺はさらにスキルを発動した。
「Rスキル《クイックアップ》!」
脚力を向上させるスキルで飛ぶ剣を追いかける。アルドラルほどの速度は出ないが、普通の人間以上の速さで迫る俺に驚いているだろう。さあ、飛来する剣か、急接近する俺。突然の二択に戸惑え!
正解は――空中の剣をキャッチし、その勢いのまま斬りつける俺だ!
俺はスキルで速くなった脚で、飛んで行く剣に追いつき……追い……追いつかねぇ!
想定以上に投げた剣が速く、先にガルドルドに到達してしまった。剣はあっさり弾かれ、あらぬ方向に飛んで行く。
いや、好都合だ! 不意打ちにもってこいのスキルがある!
「《ミドルアトラクト》!」
俺は宙で回転している剣と俺の間にガルドルドが挟まるように移動する。スキルより剣は一直線に俺に引き寄せられる。間にいるガルドルドを斬り裂きながらなあ!
「むっ!」
ガルドルドの背後から飛来する剣は勘付かれ、振り向くことなく避けられてしまった。当然、引き寄せられた剣は俺の肩を斬り裂くこととなった。
「ぎゃあ⁉」
「何がしたいんだ貴様は⁉」
うるせぇ! 必死なんだよこっちは! くそぉ、分かっていたのに反応できなかった……。
い、いてぇ……。脳内麻薬が切れてやがる……。
しかしオートヒールの効果はまだ残っていたらしく、肩の切り傷はすぐに回復した。俺の奇天烈な行動に戸惑い、様子見をしているガルドルドに手を向ける。
「《アンポインズンバブル》!」
「これは……?」
手から解毒作用のある泡を大量に放出するスキルだ! つまりこの状況でその効果は発揮されないが、目くらましにはなる! 俺はその隙に剣を拾い、立て続けにスキルを発動する。
「Rスキル《シャイニング》!」
「なにぃ! 光が……何の魔術だ⁉」
「お前を倒す魔術だぁあああ!」
輝いていた、俺の身体が。ただそれだけのスキル。バフなどあるはずがなく、すぐに光は消える。だが奴を怯ませるならそれでいい。俺は輝く身体で剣を真上から振り下ろす。
「固ぇえ⁉」
ガルドルドの手甲に弾かれる。俺の剣技じゃ、鎧を斬ることさえできないのか!
「馬鹿か貴様はぁあ!」
隙だらけの俺に拳を浴びせようとガルドルドは思いっきり振りかぶる。俺はそれよりも早くスキルを発動した。
「Rスキル《スポーン・ザ・スティンク》!」
「は……? くっさぁ⁉」
「うわっ! 臭ぇ!」
俺の手の先から放たれたのは、悪臭がある煙だった。賭けで初見のスキルを発動したが、こんな癖があるスキルもあるのか。嗅覚を強化するスキル「スメルアップ」を発動してなくて良かった。
「貴様ぁああ! ふざけてるのかぁあ!」
ガルドルドの怒号が飛んでくる。至って真面目にガチャを引いてんだよ! 文句言うんじゃねえ! 襲い掛かってくるガルドルドを前に俺はガチャを引き、出たスキルを発動する。
「Rスキル《スポーン・ザ・スモーク》!」
「なっ! 煙幕か!」
俺とガルドルドをすっぽり覆う白い煙が展開された。全く周りが見えなくなり、警戒したのかガルドルドの動きが止まった気配がする。こっちからは奴から発する悪臭で場所が分かる。このチャンスを逃す訳にはいかない!
しかし、使えそうなスキルは今手元にはない。俺はガチャを回す。
来い……来い! 奴に有効なスキル……来やがれ!
「何を狙っているか待ってみたが……貴様、まさか何も手が無いのか?」
突然強風が吹き、漂う煙幕は一瞬でかき消された。晴れた煙の中から現れたガルドルドの背中には大きな翼が生えていた。それを羽ばたかせ煙幕を吹き飛ばしたのか!
「貴様……多様な魔術を使うが、その魔術に振り回されているように見える。もしや使いこなせていないのか、己の魔術を」
ぐっ……痛いとこ突きやがる。
ガルドルドは翼を折りたたみ、背中に収納しながら俺の魔術の分析をしている。
「さらに言えば、貴様の魔術は一貫性がない。まるで数ある魔術から適当に選んでいるようにも感じる。いや、選ばされていると言うべきか」
うっ、正解だよ畜生! この少ないやり取りでここまで見抜くとは、流石は四天王と言ったところか。
「貴様は戦いを侮辱しているのか?」
気温が上がった。ガルドルドから熱気が伝わっている。俺の戦い方を本気で怒ってやがる。
「俺は……俺はいつだって本気だ! これが俺の魔術なんだ!」
俺はガチャを引く。青い光球が出現した。これはNランクのカムレード召喚の印!
「よ、よし! 行けぇえ!」
光球はガルドルドに向けて飛んで行った。そして奴の足元に着陸したと同時に、情報が頭に飛び込んできた。今召喚されたカムレードの名は――
「え、Nランク《アクアスライム》……」
こぶし大のスライムが召喚された。
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