23 父と子
「…………パパ?」
今なんて? アルドラルが見つめる先にいるのは豪炎竜ガルドルド。奴が彼女の父親だというのか⁉
「うわーーーー! やっぱりパパなんだゼ! 今と全然雰囲気違うから分からなかったけど、絶対にパパなんだゼー!」
アルドラルはぽてぽてと走り、ガルドルドの足元まで行ってしまった。ガルドルドはそんな彼女を迷惑そうな表情で睨んでいる。
「何だ、この小娘は」
「おれはアルドラル・ウォーガイア! パパの子だゼ! まさか若いパパに会えるとは思ってなかったんだゼ!」
アルドラルは父親が「魔竜大帝」というドラゴンだと聞いていたが、それがあの四天王のガルドルドだったとは……。ということは奴は将来、人間を娶るのか? そんな性格には思えないが……。
「貴様は……確かに竜種の血が混ざっているようだが、我に子はいない。でたらめを言うな」
「ほ、本当なんだゼ! 俺は未来から召喚されて来たんだゼ!」
「未来から召喚……? くはっ、突拍子もないことを言いおって。貴様の言い分を信じる訳ではないが、尚更考えられないな。我が人間との子を成すなどありえない!」
「で、でも……」
「いい加減黙れ。貴様は我の子ではない! 弱者は去れ!」
「っ……!」
ガルドルドの怒号に固まり動かなくなってしまうアルドラル。不意に思い出す。かつて俺がディルトゥーナから追放された光景を。父親から拒絶された気持ちを。
俺はアルドラルの隣に立ち、宣言した。
「俺の名はレクディオ・ベル・ディルトゥーナ。貴様が探していたレクディオだ! そしてお前を倒す……魔術師の名だ!」
「貴様がレクディオ……ふっ、貴様のような弱者にギランドを倒せるとは思えないが……モニカめ、でたらめを報告しおって……」
ぶつぶつと愚痴るガルドルドを無視し、アルドラルと視線を合わせるように片膝を付く。
「レ、レクお兄ちゃん……」
アルドラルは今にも泣き出しそうだった。無理もない。実の父親から自分の存在を否定されたのだ。その気持ちは強く分かる。
「お前は父親を超えるのが夢なんだろ? 今超えるチャンスじゃないか?」
「で、でも、俺はまだ弱くて……パパにも、わかっ、分かってもらえ、なくて……」
アルドラルは表情を見せないようにフードをより深く被る。それでも零れる水滴が地面を濡らしていた。
ガルドルドにとっては見知らぬ人間から己の子だと突然告白されたようなもので、信じることはできなかったのだろう。だからってその子を傷つけていいはずがない。俺はアルドラルのフードに手を添えた。
「だったら認めさせてやろうじゃないか。お前のパパをぶっ飛ばしてさ」
「そ、そんな、こと……」
「私たちがついているのです。何だってやれる気がしませんか?」
隣にはアルドラルに手を伸ばすもう一人の少女、フラルの姿があった。アルドラルは強く頷き、フラルの手を取った。俺たち三人はガルドルドに向き直した。
「……何だ、貴様らは」
「待たせたな。これがお前を討伐する俺のパーティだ!」
ガルドルドは訝しげな目で俺たちひとりひとりを眺め、腹を抱えて笑い出した。
「がっはっはっはっはっはっは! 何を言い出すと思えば、その子供も戦うというのか? くくくっ、冗談はやめてくれ。どこに幼子を戦場に出す男がいる?」
「幼子じゃありません! 私たちはカムレード! レクさんに召喚された未来の仲間なのです! とぉ~っても強いのですよ!」
フラルの本気の言葉にガルドルドは目を丸くしてきょとんとしている。だったら俺は虚勢を張っとこうか。俺はガルドルドを指差し、挑発した。
「四天王ガルドルド。ひとつ言っておく。こいつらはお前よりも、ずっと強い!」
少なくとも俺よりは!
「……強さを語るか。……いいだろう。纏めてねじ伏せてやる! 我が名は豪炎竜ガルドルド・ウォーガイア! 我が炎で貴様らを焼き尽くしてやろう!」
ガルドルドは両の拳を打ち鳴らし、咆哮を上げた。
魔王軍の四天王とNランクのカムレード二人、そして銅ランクの冒険者一人による最弱パーティによる戦いが今始まった!
「やるゼやるゼやったるゼぇええええ! スキル《クイックアップ》!」
初めて召喚した時のようにテンションがぶち上がったアルドラルは、仕込んでいた両手の鉄爪の展開と同時にスキルを発動させた。目にも止まらぬ速度でアルドラルはガルドルドに突っ込んで行き、その鉄爪を振り上げた。
「ほう、その歳にしては中々のスピードだな」
「チィッ!」
しかしアルドラルの攻撃はガルドルドの片手の手甲によって簡単に防がれた。アルドラルは一旦距離を取って、助走をつけるようにガルドルドの周囲を駆け回る。
脚力を向上させるクイックアップによりアルドラルの速度が一時的に上昇する。だが、その反動で彼女は徐々にダメージを受け、HPが減っていく。スピードを見切られたり、防御が固い相手だったりする場合は相性が悪い。
どちらにせよアルドラルは短期決戦型なのだ。彼女のサポートをする必要がある。
「フラル! アルドラルの援護射撃を! できるだけ時間を稼いでくれ!」
その間に俺はガチャを回す! 使えそうなスキルを片っ端からキープしつつ、SSRを狙う! 俺はガチャを起動し、スキルを引いていく。溜まっていた魔繋石がみるみる減る。ええい! 勿体なさを感じるな! この時、引かなくていつ引くんだ!
「私思ったのですが、別に時間稼ぎしなくても、倒してしまってもいいんですよね?」
不敵な笑みを浮かべながら銃をくるくると回しているフラルが問いかけてきた。
「まさか……!」
「そのまさかです! こんなこともあろうかと事前に充填完了しています!」
フラルの次元銃はすでに充填済みを示すかのように光り輝いていた。そしてフラルは銃口をガルドルドに向けた。
「アルドちゃん離れてください! パパさん、しばらく別次元で大人しくしてもらうのです!」
「なにっ?」
「『虚空砲』発射‼」
アルドラルがガルドルドから離れた瞬間、次元銃から巨大な紫色の光球が飛び出した。その光球は、周囲の塵を吸い込みながらゆっくりとガルドルドに近づいていく。ガルドルドも以前飲み込んだリザードマンやスライムのように吸い込まれ……吸い込ま……。
「…………」
ガルドルドは微動だにしなかった。
クソッ! 体幹が良すぎる! その立ち姿はまるで地面に根っこを生やした大木のようだ。虚空砲の吸引力じゃ吸えるはずがない!
「すぅ……ハァッ!」
ガルドルドは深く息を吸い込むと、気合が入った一喝により虚空砲の光球は跡形もなくかき消されてしまった。
「ふん、奇妙な魔術だ。だがこの程度で相殺できるなら大したことはない」
「そ、そんな……私の虚空砲が……アイデンティティが……」
がっくしと膝を付いているフラル。勝ち筋がひとつ潰れたのは痛いが、落ち込んでいる暇はないぞ! 俺は腰のポーチを外し、フラルに預けた。
「フラル、ポーションで魔力を回復しておくんだ。まだ虚空砲は活用できる。いつでも発射できるように充填しておけ」
「は、はい!」
「アルドラル! お前はスピードでかく乱しつつ、狙っていけ!」
「……! おう! いくゼいくゼいゼぇえええ! 《クイックアップ》!」
俺は自身の左腕を抑えながらアルドラルに指示を出す。その意図を察した彼女はスキルを掛け直し、速度を上げながら再びガルドルドの周囲を駆け回る。
ガルドルドは厚い鎧を着こんでいる。だが頭部と左腕だけは露出していた。その左腕はゼノギルが魔術剣によって斬った手甲があった部位だ。そこを狙えばダメージを与えられるはず!
「狙いたければ、狙うがいい」
「⁉」
ガルドルドはむき出しになった左腕をまるで捧げるように掲げた。瞬間、アルドラルはその左腕を斬りつけた。ガキィン! と金属音が鳴った。アルドラルの攻撃は直撃したが、その左腕には傷一つ付かなかった。
それどころか逆に斬りつけた鉄爪が粉々に砕け散った。
「ゼ……ゼゼゼぇ⁉」
「ふんっ、我の鱗を甘く見るな。この鱗は我が鎧よりも固いのだ! 尤もその細腕じゃ鎧さえも斬り裂けないだろうがな」
くっ……だったらそんな鎧必要ないだろ! 裸で来い!
「今、鎧の必要性を問いたか? 我が勇姿の引き立てるために決まっているだろう!」
要するに格好いいから着てんだろ! 畜生! 実際、格好いいから腹立つなあ!
「しかし……つまらん」
ガルドルドはため息を吐くと、俺を呆れたような目で眺めてきた。
「ゼノギルを倒した者がいると期待してみれば、そいつは幼子に前線を張らせ、己は口出しのみ。……もう飽いたわ。終わらすとしよう」
「まだ鉄爪は片方残っている……ゼぇ⁉」
クイックアップが発動中のアルドラルの跳びかかりよりも早く、ガルドルドが俺の目の前に接近した。すでに腕を大きく振りかぶっている。俺は咄嗟に盾を構えた。
駄目だ、防ぎ切れない。
直感で察する。奴の拳の威力は盾で防いだとしても一撃で俺を死に追いやる。
「さらばだ」
だったらスキルを――――
一瞬、振り上げたガルドルドの腕が消えた。次の瞬間には全身に衝撃が走った。
視界がぶれる。高速でガルドルドが離れていく。いや、俺が奴の拳で飛ばされたんだ。
俺の身体は地面に一度も触れずに、遠くの家の壁に激突した。
この続きは明日の20時更新!




