19 いざ新しい依頼へ
「ここが近境の沼地か……」
「わぁあ~、水でいっぱいなのです!」
俺とフラルは依頼の指定先である沼地に来ていた。木々が生い茂り、地面のあちこちに沼が広がっていた。依頼内容はこの沼地に群生している薬草である「沼野草」五十本の採取だ。主に沼野草は沼の中に多く原生しているため、浅いとはいえ水に浸からなければならないのが大変そうだ。
「では、手分けして沼野草を探しましょう! 私はあちらの方に行ってみますね!」
「ああ、それほど深くはないが、泥に脚を捕らわれないように気をつけてな」
「はーい! ごばはぁッ⁉」
忠告虚しく、フラルは直ぐにこけて顔面から沼に突っ込んだ。
「お、おい! 大丈夫か!」
「げほっごほっ! うえぇ~口に入ったのです……」
沼に沈みかけていたフラルを拾い上げる。そもそも小柄なフラルがこの沼地に入ると、場所によっては身体が半分以上、泥に埋まってしまいそうだ。
「水を持ってきたから、これで口をゆすげ。飲み込まないようにな」
「すみません、ありがとうなのです……うぇ~」
「フラルは沼に入らないように沼野草を探してくれ。沼の外にも生えてないことはないから」
「分かったのです……」
出鼻を挫かれたせいか、若干気落ちしているな。人には適材適所というものがあるから、落ち込まなくていいのに。俺はフラルを沼の外に降ろして、沼野草の探索を再開した。
「よし、またもう一本見つけた」
沼の底を漁ると意外と簡単に沼野草を見つけることができた。これで鉄ランクの依頼である「オオトカゲの洞窟の調査」の報酬とほとんど変わらない。しかも今回はパーティではないから報酬を分配する必要はなく総取りできるため、かなり破格の依頼である。こんなにも楽で報酬がいい依頼を受注できて運が良かった。
「さて休憩も兼ねて、フラルと合流するか」
一度どれぐらい集まったか、フラルの分と合わせておきたい。あの子のことが心配ってのもあるが。沼から出ようとした時、不自然に水面が揺らめき始めた
。
「ん? ……こいつはまさか!」
沼から水と泥の塊がいくつもそそり立った。湿地帯に多く生息する水溶性の魔物、スライムである。この依頼でスライムに遭遇することは予想できたが、余りにも数が多い。
「ちっ、余り相手にしたくないんだがな……」
冒険者にとってスライムは倒しても追加報酬が見込めないため、忌避される存在だ。なぜなら倒した証拠として身体の一部を剥ぎ取っても、スライムは溶けてしまうので数を正確に数えるのが難しいからだ。よって冒険者ギルドは魔物を討伐した際の追加報酬対象からスライムを除外している。スライム討伐の依頼があってもわざわざ受ける冒険者は少ない。
「うん? 身体にいくつか沼野草を取り込んでいるな……餌のひとつだったりするのか?」
スライムの足元にも沼野草が生えているのが見える。スライムを倒さなきゃ確保は難しいか……。待てよ、今回の依頼内容にしては異様に高額な報酬……不自然な前金制といい、もしかしてこの依頼はスライム討伐も含まれている……⁉
追加報酬は見込めないけど、できるだけスライムを狩ってきてください、って訳か?
「そういう裏があるなら教えてくれよ!」
受付嬢やルビアにこの依頼を見せた時に変な反応をしたのはこのせいか! 俺は短剣を抜き、戦闘態勢に入る。だが意識を戦いに切り替えるのが遅かった。スライムはすでに俺の背後にも忍び寄っていた。水面から伸びるスライムの触手に剣を持つ右手が掴まれる。
「いっ⁉ は、放せ!」
絡まった触手を払おうと剣を振るが、右手がぴりぴりと痺れていく。
「麻痺毒か!」
スライムから毒を打ち込まれたことに気付いた時には、すでに剣を握る程の握力さえも失い、沼に剣を落としてしまう。
「ああ⁉ 買ったばかりの短剣がぁ⁉」
ずぷずぷと沼の底に沈んでいく短剣に動揺してしまい、正面から襲い掛かるスライムに反応できなかった。多数のスライムが俺に纏わりつきながら合体し、俺の身体を持ち上げ始めた。
「し、しまっ、た……みうご、き、が……!」
麻痺毒により呂律が回らなくなってくる。必死に抜け出そうとするも、スライムの触手が俺の身体から離れない。このままだといずれ麻痺毒で全身が動けなくなってしまう。
「レクさん⁉ 今助けるのです!」
「! く、るな……!」
フラルが俺の危機に気付いてくれた。フラルは次元銃を構え、勢いよく沼に飛び込んだ。
「てぇええーい! ごぼぉあ⁉ たっ、助けてくださぁああーい!」
何してんだ⁉ フラルは沼の底の泥に脚を捕らわれ、動けなくなってしまった。暴れれば暴れるほど徐々に沈んでいっている。俺たちは完全に手も足も出せなくなってしまった。
――こんなところで全滅してたまるか……! ガチャ起動!
俺は最終手段の運に頼った。この状況の打開に繋がる何かを願って。
ガチャの起動と共に発生した光は水色の光球となり、俺の周囲を旋回し始めた。この予兆はNランクのカムレードか! 光球は旋回するスピードを上げ、俺に纏わりついていたスライムを切り裂いた。
「うおっ!」
スライムから解放され、唐突な浮遊感に襲われた瞬間、光球が俺に激突し、沼の外の陸地まで吹っ飛ばされた。
「ぐはぁっ⁉」
スライムの麻痺毒で受け身も取れずに転がる。痛みに悶えながら目を開けると、目の前にフラルと同じくらいの少女が立っていた。
「N《竜の子 アルドラル》ここに顕現なんだゼ! イヤッハァアー!」
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