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1 魔術に染まったこの世界で

 街を闊歩する冒険者パーティを横目に、同じく冒険者である俺は目的地に向けて歩を進めていた。

 ここは城塞都市ラピス。魔王とその四天王が納める地に隣接し、激化する魔物との戦いの最前線であるここは、冒険者業が盛んだった。数々の依頼をこなしながら、誰しも魔王討伐の栄誉を夢見ていた。


 パーティを組んだ方が効率良いのは分かっている。分かってはいるが……。


 他人と仲間になる場合、己の素性を明かさなければならないだろう。それ自体に抵抗はないが、俺の家系から変に期待を抱かせ、失望させてしまうのを恐れているのだ。

 だから、仲間なんて必要ない。俺をそのまま受け入れてくれる人物が現れることなど期待していない。別に、仲良さそうにパーティを組んでいる奴らを羨ましがってなんていない。


「よぉ兄ちゃん! いい魔術仕入れてるよ!」


 悶々とした気持ちを抱えていると、露店のおじさんが声をかけてきた。「魔術」という単語に惹かれた俺は、地べたにずらっと並べられた魔術由来の商品に目を見張った。込められた魔術によって己の魔力の有無関係なしに魔術を一度行使できる巻物(スクロール)や、生活で使えるような簡単な魔術を複数回使用できる魔道具(マジックツール)が並べられていた。


「これなんかどうだい? 火球(ファイアボール)の魔術の巻物だ。本来銀貨一枚の所、銅貨九枚でいいぜ! しかも今なら特別に同じ巻物をもう一巻付けてやるよ!」


 お得!

 低級の巻物とはいえ、本来の相場なら銀貨三枚は下らないはずだ。しかもおまけにもう一巻付いてくる。怪しさを感じるほど安いな。……いや、普通に怪しいぞ。


「……手に取ってもいいですか?」


「封を解くと魔術が発動しちまうから気を付けな……いや、ちょっと待て。あんた魔術師だろ? きょ、今日はもう店仕舞いだよ!」


 そう言って露店のおじさんはそそくさと商品を纏めて、どこかに行ってしまった。おそらくあの巻物は質の低い魔術が込められた粗悪品だったのだろう。例の魔術商会の商品じゃなかったしな。だが本物だったら惜しかった……いや、無駄遣いする余裕などないだろうに。

 それにしても彼は何故俺を魔術師だと思ったんだ? やはり実家から持ってきたこのローブが魔術師ぽいからか? まあ仕方ないと言えばそうだが……。

 俺はもう魔術師ではなくなったというのに。



 目的地である冒険者ギルドの扉を開くと、そこはいつも通り賑やかで慌ただしかった。ギルドは酒場も兼任しているため、依頼(クエスト)終わりの冒険者が酒を呑みながら疲れを癒している。

 魔術で加工されたカラフルに輝く酒を給仕人であるメイドゴーレムが人込みをすいすいと避けながら運んでいる。上空では伝書蝶と呼ばれる蝶の形に折り畳まれた文書が各部署を飛び回っている一方、ギルドの受付嬢が依頼書をダーツのように次々と掲示板に放ち、依頼書が派手な音と光を出しながら展開されていった。

 待機していた冒険者はその光景を見て湧き上がる。それがここでの日常。魔術は俺たちの生活に深く入り込み、彩りを与えてくれていた。


 流石、例の魔術商会の魔術だな。悔しいがユーモアがある。


 現在、あらゆる魔術を身近な商品として販売、流通しているとある魔術商会がほぼ市場を独占していた。普通に生活していたらその商会の魔術を見ない日はないというくらいに。

 俺も色んな魔術品を使ってみたい……魔道具があれば冒険者業ももっと楽になるだろうし……いや、それよりも金を稼がなければ何も始まらない……!


 俺は依頼掲示板の前で群がる人込みの隙間から、自分に合った依頼がないか確認をする。俺はまだ駆け出しの冒険者でランクも最低の(カッパー)である。銅ランクだと受けられる依頼も限られるし、報酬も少ない。首からぶら下がっている自分の名前が入った銅のタグがなんとも頼りない。


 俺はさっと掲示板から依頼書を剥ぎ取り、受付へと持って行った。早く依頼をこなし、ランクを昇格しなければ……。と、内心焦っていた所、受付嬢が依頼書と俺を見比べながらなにやら戸惑っている様子だった。不思議がっていると、背後から野太い男性の怒号が飛んできた。


「おぉい! 何やってんだオメー!」


 振り向くとそこにはそれなりに歳を重ねていそうだが、まさに力でのし上がってきた風のスキンヘッドの冒険者が仁王立ちしていた。首から下がっているタグは(シルバー)。俺の二つ上のランクだった。それに彼以外の視線も俺に集まっているのが分かる。


「何の御用ですか?」


 冒険者界隈は縦社会。揉め事を起こしたくない俺はなるべく穏便に済ませようとした。しかし、スキンヘッドの冒険者は余計声を荒げ、胸倉を掴みかかってきた。


「なぁに銅のひよっこが適正ランク外の依頼を受けようとしてるんだぁ?」


 俺が受けようとしていた依頼の推奨ランクは(アイアン)。俺の一つ上のランクだ。だが、俺でも受けられるはずだ。


「冒険者ギルドの規定で、推奨ランクの一つ下までなら依頼は受注できますよね?」


「あ、あのー……それはパーティに推奨ランクの冒険者が加わっている場合のみ認められるんです……」


 俺たちの口論を戸惑いながら見守っていた受付嬢が恐る恐る教えてくれた。えっ、俺が間違ってたんじゃん。


「がっはっはっは! やっぱり分かってなかったのか! 若い芽が摘ままれなくて良かったぜ!」


「す、すみません……」


「いいってことよ! 冒険者は助け合いだぜ!」


 このスキンヘッドの冒険者はただ柄が悪いだけで親切な人だった。彼の心遣いは感謝するが、いい加減胸倉を掴んでいるその腕を離してくれないものか。


「新人ちゃんに俺の長年の冒険者道を伝授してやろう! うぃ~っと、テメエの名前は……ん~最近老眼が来ちまってな……」


 彼はピントを合わせるように腕を動かして、俺のタグの名前を読もうとしている。

 ちょ、待て! せめて苗字は││



「お~……『レクディオ・ベル・ディルトゥーナ』 ……ディルトゥーナ? ディルトゥーナって、あのあらゆる魔術品を統べる『ディルトゥーナ魔術商会』か⁉」 



 冒険者ギルド中の視線が俺に集まった。その視線は今までの新人冒険者に向ける視線とは異なり、驚愕とどこか期待が込められていた。


 ああ、今から俺はこれらを全部裏切らなければいけないのか。


この続きは明日の20時更新!

毎日一話ずつ20時頃に投稿していく予定ですので、よろしくお願いします!!

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