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16 嘲笑

 城塞都市ラピスに帰還してから次の日の朝、俺は冒険者ギルドに来ていた。いつものように依頼書が飛び交い、自分に合った依頼を求めている冒険者たちで賑わっていた。

 因みにフラルは俺が寝ている間にルビアと意気投合したらしく、オリーボ鍛冶店に残って女子トークを楽しんでいる。まあ依頼の時だけ手伝ってくれればいいから、何も言わないが……。


 ギルドの受付嬢に先日受けた依頼の完了報告と、オオトカゲ討伐の追加報酬を申請する。精査を待っている間、スキンヘッドの冒険者、ゾンドが話しかけてきた。


「おう、ディルトゥーナの坊ちゃん。無事帰って来られたようじゃねえか。……で、だ。ドラゴンを討伐したってのは本当か?」


 アキレスか……。先に帰還しているアキレスたちがドラゴンのことを報告しているのは当然か。俺も報告しようとしていたが、如何せん腑に落ちない。

 怪訝な表情をしていた俺にゾンドは顎でしゃくるように俺の後ろを指した。振り返るとアキレスたちが二階に続く階段の手すりにもたれ掛かっているのが見えた。


「ゾンドさん、本当です。レクディオはドラゴンを倒しました!」


 アキレスの訴えるような声で騒いでいたギルドの冒険者たちが一瞬で静まり、一斉に視線が俺に向けられた。アキレスは階段を駆け下りて、興奮気味に近寄ってきた。「俺に関わるな」と約束したのに簡単に反故しやがって。近づかれるだけでも嫌悪感で腹がむかむかするが、今回のことは当事者だからしょうがないか。


「レクディオが召喚した使い魔がドラゴンを一刀両断したんです。そうだよなパロマ!」


 アキレスの後ろで控えていたパロマが緊張した面持ちで首を縦に振った。そのさらに後ろのバルトロは何かを諦めてかのように静観していた。それもそのはず、ギルドの冒険者たちはアキレスの話をまるで信じていなさそうだった。


「オオトカゲの洞窟にドラゴンがいたんです! 疑うなら行ってみるといいですよ! 洞窟の奥にドラゴンの死体が転がっていますから!」


「あ……死体はもう、ないんだ」


「……は?」


 俺がガチャの「売却」で消してしまった。戦いの跡ぐらいは残っているだろうが、果たしてそれがドラゴンを倒した証拠になるだろうか?


「「「がっはっはっはっはっはっは!」」」


「⁉」


 ギルド内に大勢の笑い声が轟く。聞き耳を立てていた冒険者たちのその笑い声は俺たちを明らかに馬鹿にしていた。しまったな、俺の発言が彼らの疑惑を確信に変えてしまったらしい。


「おいレクディオ! どういうことだ!」


 困惑している様子のアキレスに胸倉を掴まれる。触んなや。


「……あのドラゴン、急に現れただろ? 奴の図体じゃ出入りすることができない広場に」


 ぽかんとしているアキレスを無視し、話を続ける。


「憶測だが、奴を手引きした者がいる。お前たちが去った後、「モニカ」という魔王軍の戦略コンサルタントと名乗った人間が何もない空間から現れ、消えてったんだ」


「そ、そいつがドラゴンの死体を消し去ったというのか……?」


 消したのは俺だけど。それ言ったら余計話が拗れるし、「ドラゴンを倒した証明をしろ」とか言われてSSRを引くまで耐久させられるのはごめんだ。


「な、なんだよそれ……そんなこと信じられるわけ……」


「はっ、今の俺たちみたいだな」


「ぐっ……」


 自分たちでさえ実際に見なきゃ信じられないことばかり起きているというのに、それを他の冒険者たちに信じてもらえるだろうか。アキレスは俺の胸倉から手を離し、受付嬢に詰め寄った。


「冒険者ギルドを挙げての洞窟の再調査を申請します!」


「そう言われましても、急には……」


「魔の手はこの瞬間にも忍び寄っているかもしれないんですよ!」


 受付嬢は戸惑い、ギルドの冒険者たちは冷めた目でアキレスを見つめていた。アキレスは彼らに馬鹿にされたのが許せないのか、諦めず食い下がっている。俺だってドラゴンを倒した名誉が欲しくない訳ではないが、この状況が覆るとは思えなかった。


「ディルトゥーナの坊ちゃん。ちょっと来い」


 俺たちのやり取りを腕を組んで黙ってみていたゾンドに呼ばれ、ギルドの端の依頼掲示板の前に移動した。


「……「坊ちゃん」はやめてください。レクディオでお願いします」


「おお、悪いレクディオ」


 ゾンドは頭をぽりぽりと掻きながら謝った。悪気はないんのだろうが、態度からつい誤解してしまうな。彼は大きな体を丸めるように屈み、小声で話しかけてきた。


「お前、アキレスたちに脅されてねえか? あいつらこの街に来る前、自分よりも低いランクの冒険者の弱みを握って、報酬を不平等に割り振ってたって噂だ。今回のドラゴンのことも脅されて口裏を合わせるように言われてるんじゃねえのか?」


 どうやらあいつらは前にも同じようなことをしていたらしく、その悪い噂はこの街に広まっていたようだ。ドラゴンの証拠もなければ信用もない。これ以上、言い争っても不毛なんじゃないか?


「いい加減にしないかアキレス!」


「で、ですがギルド長!」


 受付嬢にしつこく説得を続けるアキレスを制したのは、このギルドのトップであるゼノギルだった。


「冒険者ギルドは慈善団体じゃない。依頼が無ければ動くことはない。それとも何か? お前が依頼を出すか? ドラゴンに関する依頼ならば依頼料は高くつくであるぞ」


「ぐっ……」


 ゼノギルの正論にアキレスは口ごもる。そんな彼に畳みかけるようにゼノギルはアキレスの肩に手を乗せ、周りの冒険者に聞こえるぐらいの声量で宣言した。


「たとえドラゴンが存在していても案ずるな。この街唯一の金ランクである吾輩がいるのである。それにそろそろ吾輩の力を何倍にしてくれる武器が届くはずである。だからそのドラゴンを連れてきてもいいんだぞ? おっと少し大きいオオトカゲはなしであるぞ?」


 ゼノギルの人を小馬鹿にした冗談は、周りの冒険者にウケてギルドが爆笑の渦に包まれた。アキレスは顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。やがて耐え切れなくなったアキレスはギルドを出て行った。彼の仲間が慌ててアキレスを追いかけていく。……いい気分じゃないな。


「ゼノギルの旦那はなあ、実際実力は大したもんなんだ。昔はドラゴンキラーなんて呼ばれていて、ワイバーンなんかは一人で狩っちまうんだよ」


「ゾンド。昔の話じゃない、今だって吾輩はドラゴンキラーである」


「おっと、聞きかれちまってたか」


 一仕事終えたような雰囲気を醸し出しながらゼノギルがやってきた。今見ると、身に着けている豪華な鎧が仰々しく見えるな。


「レクディオ。奴らには手を焼いただろう。だがこれでまともなプライドがあったら、この街に居られまい。吾輩の街の平和は保たれた訳であるな」


 やっぱりゼノギルもアキレスたちの悪い噂を知っていたか。……いや、待てよ。知っていた上で俺をアキレスたちと組ませたのか? ……俺を出しに使ったのか。アキレスたちの悪行の裏を取るために……。


「……すみません。俺、新しい依頼を受けるので、失礼します」


「ふむ。冒険者業に熱心なのはいいことである」


 俺はすぐにこの場を離れたくなり、依頼掲示板から銅ランクで受けられる依頼書を取って、受付に持って行った。ソロで受けようとしていたからか、受付嬢が若干困惑しつつも依頼受注の手続きを行ってくれた。待っている間、今までのやり取りを思い返す。


 金ランクは俺の目標の一つだが、それがあいつのような男なのは残念だな。だが、実力は確かなのだろう。たとえドラゴンが急に襲ってきても返り討ちにできるぐらいに。


この続きは明日の20時更新!

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