13 一日一回限定ガチャ
「おぉ~い! 有り合わせだけど飯できたぞー……ってそれもしかして魔鏡伝か⁉」
ルビアはトレイに乗せた夜食を俺に押し付けるように渡すと、さっきまで使っていた魔鏡伝をかぶりつく勢いでまじまじと覗き込んだ。
「なんか会話する声が聞こえるなーって思ったら魔鏡伝を使ってたのか。あんた宛の届け物ってこれだったのかぁ」
「実家……いや、身内からの贈り物だ。店で自由に使っていいから、ここに置かせてくれないか?」
「いいの⁉ へへっ、仕事の依頼が増えるぜこりゃぁ……」
興奮気味のルビアに魔鏡伝の使い方を教え、俺は自室に戻った。いい加減、腹を満たして休みたかった。トレイに乗った焼きたてのベーコンが鼻腔をくすぐる。ベーコンと一緒に炒めたであろう大きめに切られたニンジンやキノコ、ジャガイモ等が同じ皿に添えられている。実家にいた時は考えられなかったが、見栄えなど全く考慮されていないこの料理を今や心から欲している。
俺は家を出る時にメイド長から貰った食器セットを取り出した。その食器は純銀製でひとつひとつが白く輝いている。
『高そうな食器ですね』
「そうなのか?」
リンカは俺が手に取ったナイフを眺めて、そう呟いた。実家にはこの食器がいくらでもあったから、いまいち価値が分からない。元々俺個人に仕えていたメイド長……今はマカレアの世話を担当している彼女は「有事の際は躊躇せず手放してください。きっと貴方の助けになります」と言っていたから、それなりに高価なものなのだろう、多分。
『レクさんって微妙に周りと価値観がずれてますよね……』
そう言われると、何も反論できない。生まれた時からそういう生活を送っていたんだ。今さら価値観を変えるのは難しくないか? だがそのせいでアキレスたちに目を付けられてしまったんだろう。反省しないと……。
俺はフォークとナイフでベーコンを切り分け、口に運ぶ。濃い味付けが疲れた身体に染み渡る気がして手が止まらなくなる。ふと横を見ると、羨ましそうに見つめるリンカに気付いた。
「……リンカも食べるか?」
『えっ⁉ そんな食べたそうな顔をしていましたか私⁉ この姿になってから食事は必要としなくなったので気にしないでください! ふぃぃ恥ずかしい……』
「この姿になってから」って……女神になる前があったのか? リンカは紅潮した顔を手で仰いでいる。そんな彼女を眺めていると、リンカは気まずさを誤魔化すかのように半透明の板を俺に見せてきた。
『せっかくですし、ガチャについて私が知っている用語をいくつか教えておきましょう。食べながらでいいので聞いてくださいね。因みにこの板は「ウィンドウ」って言います』
リンカはガチャに関係する様々な用語を説明し始めた。例えば、ガチャを使用することを「引く」、連続で引くことを「回す」といった独特な言い回しがあることを知った。
『その他の仕様ですと……同時に召喚できるカムレードは五体まで。それ以上はガチャを回してもスキルしかでません。あと、スキルは十個までキープできて、十一個以上引こうとした場合、古いスキルから自動的に消えていきます』
スキルが消えてしまうのは勿体ないな。たとえその状況で有効ではないスキルだったとしても、それなりの資金を消費しているんだ。何とかして使い道を探りたいものだ。そもそもスキルが飽和するほどガチャを引くことなんてないだろうけど。
「むっ⁉」
ウィンドウを適当に触っていると、とある項目に目を引かれた。
「「一日一回限定ガチャ 魔繋石四個」……だと⁉」
通常ならガチャ一回で魔繋石を五個消費するはずが四個で済む……。現金で換算すると通常銀貨約五十二枚の所を約四十……止めろ、現金換算するな。結局高いのには変わらない!
『わぁ~、お得じゃないですか! しかも一日一回限定って……もう日付変わりますよ?』
くっ……! 無自覚だろうけど、リンカが痛いところを突いてきた! 実際、得なんだ! それに日付が変わる前に引かないと一回分勿体ないのではないか?
「だ、だが……十二時間保つRスキルならまだしも、もしSSRカムレードが来てみろ。せっかく召喚できたのに三分虚無の時間ができるだけだぞ!」
召喚に制限時間があるのなら、ガチャは戦闘直前にのみ引くべきだ。今「引く理由」はない。
『でも、もし今SSR等の高ランクが引けたとしても、そのカムレードやスキルの情報が得られるじゃないですか。事前に知っておけば、戦いの時にまた引いても対応し易くなるのでは?』
お前は「引く理由」を作ろうとするんじゃない! 確かに戦いの最中で初見のカムレードやスキルを引いたら対応に遅れるだろう。だから先に情報があるのは悪くない……。
いや寧ろもっと引いておいてガチャを研究すべきでは? ぐっ……日付が変わる。この機会を逃す方が勿体ないのでは? いや待て、だからと言って石を無駄にするのは……。
『今なら石に余裕ありますし、引いてもいいんじゃないですか?』
気付いたら俺の指は「一日一回限定ガチャ」のボタンを押していた。
「くあぁあ⁉ やっちまったぁあ! せ、せめて初見の! この先の糧になる高ランクの何かが来てくれぇえ!」
手に宿る光はカムレードを示す球となり、俺の周囲を周った後、見覚えのある姿になった。
「N《時の旅人 フラル》再び顕現なのです!」
お前かぁああ~……。
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