死の淵で(2)
「カルド?」
「だって……、考えてみろよ。死ぬのは簡単だけど、死なずに生き抜くってことは、きっと死ぬよりも難しい。実際そうだっただろ? 生きるのが辛くなったから、俺たちは死んだんだよ。二つ物事があって簡単な方を選ぶのが逃げることと言うなら、やっぱり俺たちは逃げたんだ」
「……」
フルドはもはや何も言わなかった。タイダは二人へ静かに語りかける。
「生前に戻ることはもうできないけれど、死後の世界で、今度こそ第二の寿命が尽きるまで懸命に生きてみようと思わないかい?かつては君たちが死に希望を抱いたように、死後の世界はそれほど悪いところじゃないよ。本当は死なんかに希望を抱いちゃ、いけないんだけどね」
タイダはくすりと笑う。
「第二の、寿命」
「うん。君たちはあと約百年の間、死後の世界で生活することになるよ。大丈夫。君たちをどうこう言う人間はいないし、もしいたら僕が全力で解決するよ。僕じゃ頼りないかもしれないけど」
肩をすくめ、タイダが微笑む。フルドも遠慮気味に笑った。カルドも微かに口端を上げる。
「そんなことはないですよ。……今度は逃げずに、がんばってみます。新しい場所で」
フルドはそう言ってカルドと視線を合わせ、緩やかに笑う。カルドもわずかに微笑を返し、頷くかわりに眉を片方上げてみせた。
「一人じゃないし、ね」
「あ」
タイダが呟いた。
「ほら二人とも見なよ、あそこに扉が」
タイダが指を差す。その先には確かに淡い水色をした扉が存在した。
「さっきまで何もなかったのに……」
「君たちが生きようって気になったから出てきたんだ。生きる気がない人の一部が、ごくまれにここに迷い込んでしまうみたいなんだよ」
タイダはそう言って扉に手をかけた。
「さあ行こうか、新しい世界へ」
タイダが扉を開け、フルドとカルドを振り返りながら促すようにそう言った。
「おかしいな……。リストに名前がない……」
七色の空間からホールに戻るや否や、タイダは薄っぺらい紙切れを何度も見直していた。
「天の国に住まわせるほどじゃないということだろう」
どこからか聞こえてくる別の声が指摘した。
「でも、前に見た時はちゃんと名前が載ってたと思ったんだ……。それにあれだけ剣の腕が優れているのに天の国に行けないはずはないよ」
「あの……」
タイダの困惑した様子に、フルドが思わず声をかける。タイダが紙から視線をはずす。
「どうかしたんですか?」
「うん……、いや、ごめんね、心配させちゃって」
タイダは苦笑して、しばらく考えてから言った。
「君たちはここ闇の国か、それとも光の国か天の国か、三つの国のどこかで生活してもらうことになるんだ。僕は天の国に行くべきだと思うんだけど、ちょっと問題があってね。でも君たちが天の国に行きたいということなら、すぐに連絡を取ってみるよ。僕もそれが一番いいと思うしね」
タイダはそれぞれの国の解説をして二人が天の国に行くことを勧めたが、フルドとカルドはそれを断った。
「闇の国がいいです」
「でもせめて光の国を見学してから決めた方がいいと思うけど……」
タイダが心配そうに言う。しかしフルドとカルドの意志は固かった。
「いいんです。闇の国に住みたいんです」
二人はもう一度、きっぱりとそう言った。