表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の番人  作者: 遊一(Crocotta)
前章 暗黒の光、希望の闇
8/34

5 死の淵で

「何を言っても、言い訳にしかならないけど……」

 ウエルはぽつりぽつりと言葉を発する。

「わたしは昔っから運がなくて、特にタイダに会った日は最低の日で、家族が殺されて……」

 ウエルはゆっりと息を吐いた。

「それでその日から強くならないとと思っていたら、いつの間にかこんな風になっていたんだ……。その日からはずいぶんましになっていたけど、わたしに運がないのは、ちゃんと闇人たちを見ておかなかったタイダのせいだって、今も、恨んでる部分がある。だけど、幼いわたしの記憶には、やっぱりわたしを助けてくれたヒーローというイメージの方が、強かったんだろうな……」

 額に手を当てたまま、目を閉じる。

「さっきも弱気なことを言ってしまった……。恨んでいた、はずなのに……」

 動揺しているせいか支離滅裂(しりめつれつ)な上、話のほとんどがタイダについてだった。

 カルドとフルドは顔を見合わせ、交互に言う。

「嫌なこと思い出させたみたいで、悪かった」

「今日はもう休んだ方がいいかもね。向こうにベッドがあるから、それを使うといいよ。明日になったらここのこと、またいろいろ教えてあげるからさ」

 ウエルは静かに頷いた。

 ウエルが寝室へ入っていくと、フルドとカルドが声をひそめて話し始める。

「カルド……、もしかしたらウエルは……」

「ああ。十中八九そうだろうな」

 カルドが確信した様子で言う。

「でも、タイダさんがいる間は出てくるはずないんだけど……」

「確かに今までだったら有り得ない話だったが、最近はおかしなことがいくつか起こっているからな。これから何が起こったとしても、おかしくないような状態なんだと思う」

「そんな……。タイダさんは大丈夫なのかな……」

 フルドが不安そうに言った。カルドが軽く肩をすくめる。

「さぁな」

「……カルドもタイダさんのこと、かなり気に入ってるよね」

「まあ、最初あれだけよくしてもらえばな。それに歴代の番人についてのいろいろな書物を読んでみても、タイダさんほどの番人は過去にいないじゃないか」

「うん、そうだね」


 ――十年前、霊界にて。

「おい、どこだよここは。フルド、知ってるか?」

「いや、全く。気づいたらここにいたって感じだよ。どうやってここに来たのか、記憶もなし。それ以前のことは、はっきり覚えてるんだけどね」

「……お前もか」

 二人は辺りを見回すが、何もない七色の空間が続くばかりであった。

「ここじゃやり直すこともできないし、とにかく別の場所を探してみないと……」

「何を、やり直すんだい?」

 突如(とつじょ)後ろの方から、幼さの残る少年の声が響いた。フルドとカルドは驚きのあまりものすごいスピードで声の主を振り返る。そこには金髪で薄いグレーのTシャツに半ズボン姿の、十歳ほどの少年が立っていた。

「やぁ、こんにちは」

 少年はにっこりと微笑んだ。

 いつの間にこれほど近くに来たのだろうか。全く気づかなかった。

「僕はタイダ。一体何をやり直すつもりだったんだい」

 タイダは同じ質問を繰り返して言った。しかしフルドとカルドは何も答えない。まだ状況がつかみきれていないのだ。

「……困ったな。何か言ってくれなきゃ話が進まない」

 タイダはいかにも困った風に頭をかいてみせた。

「じゃあ、仕方ないから僕の方から話しちゃうけど、君たち死ぬつもりなんだよね。というより、ちゃんと死んだつもりだったのに、なぜかここに来てしまったと……。だから『やり直す』ね」

「! 何でそれを……」

「そりゃ、わかるからさ」

 タイダは特に難しいことでもなさそうに言った。

「残念ながら君たち上手く死ねてるよ。ここは死後の世界さ。ただちょっと迷子になりつつあるというか、まさに迷子の真っただ中って感じなんだけど」

「死ねてる? 意識があるのに?」

 カルドが驚いて言った。

「そうさ。死んだら意識ごとなくなると思ってた? 死後の世界でも生前の世界と同じように、仕事をしながら暮らしていかなきゃならないよ」

「そんな……」

 フルドが思わず(なげ)いた。

「君たちはとても優れた剣術を誇っていた。けれど周りの人たちはだんだんとそれを(ねた)むようになり、ついにいじめが繰り広げられた。そして、最後の救いだと思っていた両親も病気で数年前に他界し、耐えられなくなって自殺に及んだと……」

 その通りだった。フルドとカルドは小さい頃から剣術に優れていて、最初の方こそみんなに「すごい」、「天才だ」、なんて言われてもてはやされたりもしたが、だんだんと周りの友達が二人を妬むようになってきて、大人たちからもたいして構われないようになってしまっていた。気づけば友達から受ける視線は、とても冷えたものとなっていた。

「もったいないね。その剣術があれば、後に素晴らしい世界が待っていただろうに……。君たちは一人じゃないんだから、兄弟で力を合わせればもうちょっと何かできていたはずなのにね。例えば隣の国のミリー伯母(おば)さんに助けを求めるとかさ。きっとあの人は優しいから家に入れてくれたと思うよ。それから君らのその素晴らしい剣術を思う存分発揮できる場所も、紹介してくれただろうね」

 タイダが淡々と語っていくと、フルドが苦しまぎれに言う。

「それじゃあ、逃げることになるじゃないか」

「死んだって同じことだろう」

 タイダが突然語気を強めた。

「むしろ伯母さんの家に行くことよりも死ぬことの方が逃げることになると僕は思うんだけど、違うのかい?」

 重い沈黙が訪れる。

「……確かに、そうかもしれない」

 しばらくしてカルドが言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ