4 五つの門
「五つの門っていうのはね、正確には門じゃないんだ」
フルドはやっとでき上がった温かなお茶を飲みながら言った。ウエルもカップに口をつける。カルドもフルドの隣に腰を落ち着け、一緒にお茶を飲んでいる。
「門っていうほうが言いやすいからそう言ってるだけで、実際は五つの扉なんだ。ウエルが気がついてないだけで、来る時にそこを通ったはずだよ」
フルドが言った。扉をくぐってきたということは、ここに来た直後に振り返れば扉を見ることができたのだろうか。フルドはさらに続ける。
「名前の通り扉は全部で五つ。生門、試練の門、転生の門、光門、天門。それぞれにはわかりやすいように色がついているんだ」
フルドは一旦カップをテーブルの上に置いてから口を開いた。
「まず生門。これは淡い緑色をしていて、生界と繋がってる。僕ら闇人や光人が仕事をしに行く時に使うんだ。次は、試練の門。これは赤い色をしているんだけど、霊人が死んだ時に、その人が生界に転生させてもいい人物かどうかを判断する場所に繋がってるんだ。体が急に発光したら試練の門に入ってくださいねってことなんだって」
「発光?」
「うん。光るのが合図なんだ。何回か他の人が光るのを見たけれど、なかなか綺麗だったよ」
「へえ……」
体が急に光るなんてかなり妙な感じがするが、ここではいたって普通のことらしい。
「それで試練の門で転生を許可されたら、今度は一度外に出てから、青色の転生の門をくぐるんだ」
「許可されなかったらどうなるんだ?」
「消滅……かな。でも相当な悪さをしなければ普通に許可されるよ。ただ試練を与えられる期間が長いか短いかの差はあるみたいだけど。試練の門は光の番人が管理しているんだ」
フルドが笑う。しかし今から死後の死後についての話をされてもいまいち実感が湧いてこない。
「光の国に繋がっている光門は淡い桃色で、これはかなり使用頻度が少ない。闇と光の性質が違いすぎるからかもしれないけれど、闇人が光の国へ行っても体が二十分ぐらいしかもたないんだ。長くいすぎると消滅してしまうんだよ。タイダさんは半日くらいもつみたいだけれど、それでも半日だからね」
そこで一旦フルドは言葉を止め、お茶を一口飲んでからまた言った。
「光の国は『光調節機』っていうのが流通していて、各家庭ごとに光の濃度を調節するシステムが一般化されてるって聞いてる。だけどタイダさんが以前、それを使って光の濃度を一番低くしても半日以上はもたないだろうってことを言っていたよ。とにかくお互いの体質が合わないらしいんだ」
そこでフルドが微かに笑う。
「二十分で消滅するなら、そんな扉、誰も使わないんじゃないのか?」
ウエルが不思議に思って聞く。
「うん、住民たちはね。でもウエルみたいに初めてここに来て国を固定してない人は、どの国に行っても消滅しないからさ。例えばウエルが『光の国の住民になりなさい』って言われたとしたら、光門をくぐって光の国に行くんだよ」
フルドは続ける。
「そして天の国に繋がる天門は黄色。天人たちは闇にも光にも属してないから自由に他国に行けるし、逆に僕ら闇人や光人も天の国には自由に行けるんだ」
「二十分経っても消滅しないのか?」
「そうだよ。多分、国を決める時に闇の力も光の力も注入されていないからだと思うんだけど。まあ、その辺りは僕の推測だから気にしないで」
フルドは笑いながら言った。
「他に聞きたいことはある?」
「そうだな……」
ウエルは呟きながら考える。
「ホールで取り出していた笛みたいなやつ、確かピラーとか言ってたけど……、あれは何なんだ?」
「これ?」
フルドが首にかけたピラーを取り出した。
「僕たち闇の住民は、これを使ってタイダさんと連絡を取ることができるんだよ。急な用事の時に役立つんだ。ピラーには三段階あるんだけど、一段階目はほとんど連絡が取れないようになってるんだ。三段階目になるとテレパシーっていうようなのが使えるみたいだね」
「一応三段階に分かれているが、ピラーを持ってる奴はほとんど一段階目みたいだな。だから二段階目に進めてもらえた俺らは珍しいんだ」
ずっと黙ってお茶を飲んでいたカルドが、久々に口を開いて言った。ウエルがピラーを見ながら頷いた。フルドがカルドの方に視線を向ける。
「カルド、さっきから全然笑顔じゃないぞ」
フルドがつまらなそうに言った。
「罰ゲームなんだからちゃんとやらないと。ほら口端上げようよ」
フルドがからかい口調で言った。カルドは心底嫌そうな顔をする。
「うるさい。……それより、ウエル」
カルドが突然、愛想のない顔をさらに引き締めてウエルを見たので、思わずお茶をこぼしそうになってしまう。ウエルはどこにもこぼしていないのを確認し、カルドに向き直った。
「な、何?」
「さっきから気になってたんだが…… お前は女なんだから、言葉ぐらいちゃんとしろよ。それとも何か、男みたいにしなきゃならない理由でもあるのか?」
カルドは話をそらすために軽い気持ちで聞いたのだろうが、ウエルは痛いところを突かれたと思った。
「それは……」
ウエルはうつむいて床を見た。別にわたしの勝手だろ、とこちらも軽く流せばよかったのかもしれないが、なぜかそんな気にはなれなかった。
ウエルは黙ってお茶を置くと、テーブルに両肘をつき、手で顔を覆うようにして、そのまま話をし始めた。