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闇の番人  作者: 遊一(Crocotta)
前章 暗黒の光、希望の闇
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3 仕事

「霊界の生活って、生界のものとあまり大差がないのか?」

 ウエルはフルドとカルドの家の中を見回しながら聞く。台所があれば寝室もあって、時計や本や日用品の数々など、生きていた時に見ていたものと変わらない物がたくさんある。ただ、生界では一部の地域を除いてまだオイルランプが主流なので、当たり前のように電気がついていることには驚いた。

「ああ、うん」

 テーブルの向かいの席に座っているフルドが答えた。

「仕事の形態は違うけど、後はあんまり変わらないかな」

「仕事? ここにも仕事があるのか?」

 ウエルが驚いて聞き返す。

「さすがにタダでご飯は食べられないからね。あ、晩ご飯はどうする?」

 フルドが思い出したように言った。ウエルは首を横に振る。

「いいよ、腹は減ってない」

「そう? じゃあ霊界での仕事の話でもしようかな」

 フルドは微笑(ほほえ)み、軽く小首をかたむけた。

「それぞれの国で仕事内容は違うんだけど、とりあえず僕ら闇人の仕事について話をするね」

 ウエルは頷いた。

「闇人の仕事は『生人に試練を与えること』なんだ。後でまた説明するけど、霊界には『五つの門』といわれているものがあって、闇人たちはそれをくぐって生界に行き、仕事をしているんだ。僕たちは生人の記憶の中にあるその人の行いを見て、それぞれ適したレベルの試練を与えているんだよ。僕たちは近日分の記憶しか見ることができないんだけど、タイダさんは生まれてから死ぬまで、その人の全ての出来事を見ることができるんだって」

 フルドは嬉々(きき)とした表情で語る。

「へえ……」

「タイダさんの仕事はその人の行いを見て、その人がどの国の住民になるかを決めることだからね。一生分の行いで、ちゃんと総合的に判断できるようになってるんだよ」

「……タイダって、何者なんだ? 偉いのか?」

「それは番人だし、当たり前だよ。霊界にやって来た人間の住まうべき国を決める、なんていう重要な仕事を任されているぐらいなんだから。生まれてから死ぬまでほとんど全ての記憶を覗ける能力は、闇の番人だけに許された特権なんだ」

 フルドはいささか熱っぽく言った。相当タイダを尊敬しているらしい。

「闇の番人?」

「ああ、うん。それぞれの国には一人ずつ番人がいて、国を管理しているんだ。そしてそれぞれが特別な業務をこなしてる。闇の番人に関してはさっき言った通り、生界から来た人を三つの国に振り分けるっていう作業をしてる。天の国に行く人物については毎回一覧(リスト)が送られてくるみたいだから、天人はタイダさんが決めているわけじゃないみたいだけどね」

「何で天の国だけ?」

 ウエルがフルドの説明の合間をぬって遠慮がちに聞く。フルドは考えるようにしながら、その質問に答える。

「天の国は、例えば剣の腕が特別(すぐ)れているだとか、料理を作らせたら右に出る人はいないだとか、とにかく何か一つでも“人より優れた能力を持っている人”が行くんだ。だから天の番人が事前に選別してるんじゃないのかな」

「へえ……」

 自分とは縁遠そうな制度システムだ。

「闇の番人の仕事でまだ説明してないのは……、後は空の調整かな。闇人はなぜか空の色が暗すぎても明るすぎても駄目なんだ。だから闇の国の空は常に灰色で、その調整は歴代の闇の番人たちが行っているんだよ。体の弱い人はすぐに具合が悪くなっちゃうから、細かな調整が必要で、本当に難しいらしいんだ。でもタイダさんはすごいよ。まだ一人も体調不良者を出したことがないんだから」

 フルドがやはり熱っぽく言う。ウエルは黙って聞いていたが、フルドは自分の話題がそれつつあることに気づいたようだ。少しばかり決まりが悪そうにしながら慌てて軌道を修正した。

「次は、五つの門についての説明に入るね」

 決まりの悪さをごまかすように笑った後、フルドが時計に視線をやりつつ「長くなるけど大丈夫?」とウエルに確認を取る。ウエルも続いて壁にかかった機械式時計に目をやった。時刻はまだ二十二時過ぎ。夜更かしは得意な方ではないが、あと一時間ぐらいなら問題ない。ウエルは静かに頷いた。

「じゃあとりあえず……」

 フルドはそう言いながら台所の方に体を向けた。

「カルドー、お茶」

 フルドは待ちくたびれた様子で呼びかける。

「今お湯が沸いたところだ」

 台所に立っているカルドは不服そうに返事をした。



「いらっしゃい」

 光の国では、タイダに勝るとも劣らない美しい金髪をたずさえた女性がタイダを出迎えた。二十代前半であると見える長い髪の女性は、タイダに抱きついて喜びの意を示す。

「久しぶりね。元気にしてた?」

「元気だよ。少なくとも風邪は引いてない」

「またそんなこと言って……」

 女性は唇を(とが)らせて言うが、すぐににこやかな笑みをたたえて言った。

「まあいいわ、上がってちょうだい」

 タイダはその言葉に従い、女性の家へと上がっていった。

 夜遅く、タイダがわざわざ光の国へ出向いて何をしているのか、誰も知る人はいない。

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