20 再会
今回は迎えの住民がいなかった。自分としてはまたフルドとカルドが迎えに来るとばかり思っていたのだが、もしかしたら一度来ている場所だから一人でも迷わずホールへ行けるだろうと考えたのかもしれない。
死んだ者たちは生門をくぐり、闇の国へと辿り着く。ウエルが以前ここへ来た時もそうだったらしい。その時は後ろに扉があったことには気づきもしなかったが、今見てみると背後には確かに扉が存在していた。
今となっては遠い昔のことだが、当時のことははっきりと覚えている。前回ここへ来た時は、肩に置かれた手を撥ね退けてしまったことで両腕をがっしりと固定されてしまい、わたしはその状態から必死に逃げ出そうとした。突然のことで驚いたとはいえ、フルドとカルドには迷惑をかけてしまったなと申し訳なく思う。
「懐かしいねえ」
闇の国はすっかり元の落ち着きを取り戻していた。相変わらず朝なのか夜なのかよくわからない灰色の空。その下には茶一色で統一された家々が独特な存在感を放ちながら、均等に並べられどっしりと腰を下ろしている。さらに、嫌味ったらしく色付けられた水色の家までもが昔のままに建っていた。全てが元の、初めてここへ訪れたころのままだった。生界に帰る前、ぐちゃぐちゃに崩されていたはずの国は、何一つ違えることなく元通りとなっていた。
「ウエル様ですかっ」
ばたばたと足音が聞こえ、十五歳くらいの少女が駆けてくる。
「ええ」
ウエルは声の主に答えた。
「お迎えが遅れてしまってすみません。案内役のソルトです」
丁寧な口調でソルトと名乗った少女は、ぺこりと頭を下げた。
「よろしく」
ウエルは短い挨拶の言葉を口にしてからにっこりと笑った。ソルトもにっこりと笑う。
「よろしくお願いします。それでは案内させていただきますね」
ウエルはソルトの後ろを歩きながら、闇の国の全てを懐かしむ。どこも同じ風景の繰り返しではあるけれど、それでも周囲の景色ひとつひとつをゆっくりと眺めながら歩いていった。
ホールにはあっという間に到着した。そこには緑色をした門番二人が立っていて、ソルトとウエルが近づくと無言で入り口を開け始めた。ホールの全ては出さず、黒い入り口だけそこに呼び出しているのはわたしがすでにここの住民だと認めている証なのか、力の節約なのか、仕事に忠実そうな門番二人の真摯な表情からは読み取れない。
「わたしはここで失礼しますね」
ソルトがそう言って礼をする。
ウエルはありがとう、と一言返してからホールへ足を踏み入れた。入り口を越えた途端、視界は一気に暗い空間へと変化する。中には五つ目の番獣と、十六、七歳の金髪の少年が立っていた。
「おかえり、ウエル」
「ただいま、タイダ」
二人はお互いに歩みより、強く抱きしめあった。
「ずいぶん大きくなったのね」
ウエルが驚きつつ声を発する。身長もだいぶ伸び、今ではタイダの方が幾分高い。いや、幾分どころではない。もしかしたら百八十センチメートルはあるかもしれなかった。加齢で多少縮んだウエルの身長と比べると、かなりの差がある。
「ほんの五歳くらい成長しただけさ。でもこれで終わりなんだ。もう成長しない。……それよりウエル、ずいぶんと女の子らしくなったみたいだね」
タイダは数歩下がり、ウエルを視界に収めながら言った。前と違うのは言葉遣いだけではない。洋服についても今はスカートをはき、シャツだって女性向けのものを身に着けている。
「女の子だなんて……。嬉しいけど、わたしはもうこんなお婆さんになってしまったわ」
ウエルは寂しそうに言った。しかしタイダは「それなら大丈夫」とさらりと言う。
「三日もあれば若返るよ。僕の予想だと、以前ここに来た時ぐらいの年齢に落ち着くんじゃないかな」
「若返るの?」
ウエルがびっくりして聞き返す。
「ああ。赤ん坊や老人の姿でここに来た人は、みんな一番活発だった年代に若返ったり歳を取ったりするんだ。体が上手く動かせなくて仕事ができないと困るからね、上手い具合になっているなといつも思うよ」
「そういえば前に『その後手に入れるはずだった能力は自然と身についているものなんだ』って」
ウエルが過去の記憶を懸命に引っ張り出しながら呟く。タイダは頷いた。
「体が変化しない人も、知能やその他の技術はちゃんと一番いい状態に変わっていくようになっているんだ。そしてその技術が人並み以上優れている人が天の国に行く。依頼をすればけがを治してくれたり、バイオリンを弾いてくれたり、いろいろしてくれるよ」
「ふぅん。便利にできてるのね。このしわくちゃな体が三日もしたらつるつるになるだなんて不思議」
腕をひっくり返してまじまじと見ながら呟く。自分の体と能力が、未来や過去の自分に合わせて変化すると言われれば誰でも驚く。しかも三日だなんて、ますます想像がつかない。
「……でも、タイダは成長の期間が長かったわよね」
ウエルはふと思いついたことを軽い気持ちで口にした。けれど、タイダが表情をわずかに曇らせたのを見て「しまった」と思った。思えば、初めてここに来た時も容姿のことを口にした途端タイダの言葉が妙に詰まっていた気がする。
「僕は特殊な方法でここに来たからね。……予想外な出来事が多いんだ」
タイダが答え、ウエルは静かに頷いた。
「そうね。変なことを聞いてしまってごめんなさい」
ウエルは素直に謝罪する。
「ねえ、ウエル」
タイダがウエルの顔をじっと見つめる。「何?」と問い返すと、タイダはゆっくりと口を動かした。
「確かにその言葉遣い、女の子らしくていいとは思うけれど……やっぱりウエルらしくないよ」




