リターン(2)
ホールの外に出ると、おそらく闇人全ての住民がそこにいた。全ての住民がウエルのことを穴が空くほど見つめている。そのうちの数人が声を上げた。
「間違いない、この人だ。この人がそうなんだ」
それに伴い、みんなが声を上げる。
「新しい番人だ! 新しい番人だ!」
「ちょっと待て!」
ウエルがたまらず声を上げるが、周りの声ですっかりかき消されてしまう。ウエルはさらに声を荒らげてフルドへ聞く。
「新しい番人って何!!」
「ウエルは、正式な番人候補なんだよ!」
フルドも声を張り上げて、ウエルの問いに答える。
「え!?」
「僕らの仕事とクリスタルの話を前にしただろう!? ウエルの場合、どんなに酷な試練を与えてもクリスタルが赤くならなかったんだ! それだけじゃない、他の人に与えられたはずの試練までウエルが引き受けてしまうことだってある。そういった出来事はどれも闇の番人の証拠なんだ!!」
「でもタイダがいるじゃないか!!」
「僕らだって疑問に思ったさ!でもどうしようもないことだろう!? 僕らが闇の番人を作り出す
わけじゃないんだから!!」
「でも、何でわたしが……」
それこそ言ってもしょうがないことだった。誰が決めたのではない。たまたま印が出ていたから、選ばれたのだ。
「もしわたしが番人になったとして、タイダはどうなるんだ!?」
ウエルが叫んだ。
「番、人!番、人!」
周りではまだ番人コールが続いている。そのせいで声が聞こえづらく、先ほどからフルドはなるべくウエルのそばに寄りながら、なおかつ声を張り上げている。
「番人を……降りなきゃならないだろうね」
「降りる?」
ウエルは眉をひそめた。今まで国のために尽くしてきたのに、新しい番人が来たとたんお役御免だなんて、やけに冷たすぎやしないだろうか。
「それでわたしが番人に?」
「そうなるね」
「わたしも降りることはできるんだよな?」
「……わからない。現番人が生きている間、次期番人はあくまで待機っていうのが通例ではあるんだけど、でもこの様子だと多分……」
フルドは後になるにつれて声を落とし、しまいには口ごもってしまった。
「多分、無理だっていうのか?」
「う、ん……」
フルドはあいまいに頷いた。
「多分、タイダさんは正式な番人じゃないから……」
フルドが悲しそうな表情をして言った。隣を見るとカルドも微妙に顔をゆがめている。
「……」
正式かそうじゃないかに、それほど大きな差があるというのだろうか。タイダは番人としての能力を十分に持っていると思うし、それをよく使いこなしているとフルドが言っていた。それでも正式じゃないからというたった一つの理由だけで、番人を降ろされなくてはならないのだろうか。
そもそもタイダは番人になるために無理やりこちらに連れてこられたというのに、これではただの埋め合わせとして使われたことにしかならない。ウエルはそれが一番癪に障った。
「番、人!番、人!」
「……」
「番、人!番、人!」
「うるさい!!!!」
ウエルは怒りをあらわにして声を張り上げた。
最初のうちは近くを取り巻いていた住民たちのみが、はっとして声を飲み込んだが、後ろの方は気づかず、まだ声がやまなかった。しかし次第にウエルのただ事ではない様子に気づき、少しのざわめきが起こった後、やがて静寂が訪れた。
「わたしは番人になる気なんてない、勝手に騒ぐな!」
ウエルが額に青筋を立てながら言った。
「でも、あなたは正式に選ばれたんですから……」
住民の一人が恐る恐る言う。
「正式とか正式じゃないとか選ばれたとか選ばれていないとか、そんなことは関係ない。わたしが
言いたいことはただ一つだ。わたしは番人になる気はない」
「でも……」
「タイダじゃ不満なのか?」
ウエルがぎろりと睨みを利かせて質問すると、住民がしどろもどろに返事を返してくる。
「いえ……、ただその……、タイダ様は正式な番人ではありませんので……」
ウエルはその言葉にカチンと来た。タイダが番人を続けたいのかどうかはわからないが、それでもこの扱いはひどい。
「お前ら――」
今まさに怒りを爆発させようという時、タイダがウエルの肩をたたいた。
「いいんだよ、ウエル。僕だってこうなるだろうってことは、とっくに知っていたんだから。覚悟はできているんだ」
「……番人を、続けたくないのか?」
ウエルは聞いた。聞いた瞬間すぐにわかった。タイダは番人をやめたいとは思っていない。返事はしなかったが、確かにそういう顔をしていた。
「わたしがやらないって言ってるんだ。続けたいなら一生続けろよ」
ウエルが言った。しかしタイダはちゃかすように笑う。
「僕らはすでに死んでるんだから、一生じゃ変だろう」
ウエルは真面目に話をしているのに、タイダはどうしてもこの話題を早く切り上げたいらしい。この様子では、どうあっても「番人を続けたい」とは言わなそうである。




