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闇の番人  作者: 遊一(Crocotta)
前章 暗黒の光、希望の闇
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17 リターン

 闇の国に足を踏み入れた瞬間、崩れた家々を見てフィセナが唖然とする。

「ひどい有様ね……」

「でも家を作り直すのはそれほど大変じゃない」

 タイダが言った。家は作れば直るが、人の心はそう簡単には治らないだろう。そう考えると、闇の国より光の国の方が、立て直すのはよっぽど大変と考えられる。

「そうね……」

 フィセナは真剣な面持ちで頷いた。そしてその場にしゃがみこみ、すぐに立ち上がる。

「どうしたんだい?」

「……いいえ、何でもないわ。先を急ぎましょう」

 フィセナはにっこりと笑ってタイダたちを促した。



 ウエルが目を覚ますとそこはホールの中で、毛布をかぶって寝かされていた。隣にはラガーの姿が見える。

「……今、どういう状況なんだ?」

 ウエルは毛布をよけ、重たい頭を持ち上げながら言った。あの後タイダはどうなったのだろうか。フルドやカルド、それにフィセナのことも心配だ。

「上手くいったようだ」

 ラガーが簡潔に言った。

「本当か」

 ウエルは上手くいったというセリフに安堵(あんど)した。さらに問いかける。

「黒幕は倒したのか?」

「ああ」

「フィセナは助かったのか?」

「ああ」

「みんな無事なのか?」

「ああ、そのようだ」

 ラガーはゆっくりと言った。

「今回の黒幕であったシャラーとお前以外の大きなけが人報告は、受けていない」

「そうか…」

 ウエルはほっと胸をなでおろす。しかし、すぐに眉を寄せて首をかしげる。

「……今、『今回の』黒幕って言わなかったか?」

「ああ……。そういえばまだ知らないんだったな。しかしそれに関しては……、すぐにタイダが、他の者と共に説明をするはずだ」

 ラガーはそれだけ言うと、するりと闇の中へ溶けていってしまった。突然どうしたのだろうとウエルがきょとんとしていると、じきにタイダにフルドとカルド、それからフィセナがホールの中へ入ってきた。

 タイダを見た瞬間、ウエルはわずかに顔をゆがませた。タイダが無事だと聞いて確かに安心したが、安心した分、怒りも芽生えてきてしまった。

 タイダが一人で黒幕のもとへ行ったことにはそこまで怒りを感じていない。そうした理由はわかるし、ウエルも一人で城に飛び込んでしまったという似たような事実がある。だから、怒っているのはそのことについてではない。問題は、全身麻酔までする必要があったのかということだ。ウエルが後を追ってくるのを事前に予防するためだったのだろうが、それでも腹立たしく思ってしまう。

「けがは大丈夫?」

 フルドがウエルへ、心配そうに問いかける。

「ああ。特に問題なさそうだ」

 ウエルがそう答えると、フルドは心底安心した顔をした。純粋に心配をしてくれていたことが伝わってきて嬉しいのだが、慣れない空気感にいたたまれなくなり、逃げるようにしてフィセナのもとに歩み寄る。

「フィセナ、無事でよかった」

「ありがとう。タイダから話は聞いたわ。わたしのせいでけがをさせてしまったみたいでごめんなさい」

「いや、いいんだ。これはわたしの不注意だから」

 ウエルは慌てて首を横に振った。自分が気を抜いていたのが原因なのだ。断じてフィセナのせいではない。

「刺した奴の顔は見たのか?」

 カルドが聞く。

「見たけど……」

「けど?」

「あえて言わない」

 そう言うと、みんな不思議そうな顔でウエルを見つめた。

「わたしらに襲いかかってきた他の住民に対して、罰を与えたりはしていないんだろう? それでわたしを刺した奴だけ責めるのはフェアじゃないと思って。他の住民は偶然かどうかはわからないけどたまたま剣が当たらなくて、そいつはたまたまわたしに剣が当たった。ただそれだけのことだ。それに襲われたからといっても、わたしたちだって剣を振るったんだ。刺した刺されたで議論したってきりがない。だからわたしは、自分以外誰も責める気はないんだ」

 ウエルはきっぱりと自分の意思を伝えた。タイダもフルドもカルドも、ウエルを刺した本人を見つけてどうするかまでは考えていなかったが、確かにそいつを恨む気持ちはみんな持っていたし、名前を聞けばきっと何かはしようとしただろう。

「……確かにそうね。わかったわ、ウエル。その人も含めた光の住民の今後のことはわたしに任せてちょうだい。精一杯やっていくわ」

 フィセナがにっこりと微笑んで言った。

「それで今回の事件についてなんだけど……」

 フィセナがタイダへ視線を送る。

「おそらくシャラーは操られていただけだろう」

 フィセナの視線を受けて、タイダは慎重に言葉を選びながら会話を引き継いだ。

「操られていた?」

「実は少し前から、番人の様子が急に変化したという話を聞いていた」

 言いながらフィセナを見る。その話というのは全てフィセナから聞いたものだからだ。フィセナは次期番人として、仕事を教わるなどの理由から何かと現番人のそばにいることが多くあった。そこで様子の変化にもいち早く気づき、タイダとこまめに連絡を取るようになったのだ。

 フィセナによると、シャラーはある時期を境に突然人が変わってしまったのだと言う。よく暴言を吐くようになり、激しく闇の国を排除する思想を唱え始めたのだ。

「そこでもしやと思っていたんだ。だから殺さずに内から闇を注入するだけに留めた。その際に中から何かが飛び出すのを見たから、操られていたという線で見て間違いない」

 そこで間を空け、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「そしてここからはただの憶測になるけれど、彼女は多分、自分の能力にコンプレックスを持っていた。きっとその心の弱さに付け込まれ、操られたんだろう」

『タイダ様』

 突然別の声が邪魔をする。ホールの中にいる者の声ではない。しかしその声はホールの中全体にこだました。どうやらそれは門番の声らしかった。

「どうしたんだい」

 タイダが問う。

『住民が……、ウエルを出せと』

 タイダがあからさまに顔をしかめた。ウエルもわけがわからず眉をひそめる。

「どこから情報が()れたんだ……。わかった、すぐに出よう」

 タイダはウエルのもとへ寄り、その手を取った。そして引っ張って立ち上がらせる。

「いろいろ巻き込んでしまって本当にすまない。……歩けるかい?」

「歩ける……けど」

「ウエルは、自分のことだけ考えればいい。君にはそれをする権利があるんだ。あえて自分から厄災に浸かる必要はないし、いつでも逃げればいい」

 そう言ってにっこりと笑う。どこか変だ。フルドとカルドもわずかに視線が泳いでいる。

「……これから何が起こるんだ?」

 タイダはにっこりと笑うだけで何も言わない。

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