15 四面楚歌
「ここらで一丁、死んどくか?」
「ばか言うな。そんなのごめんだ」
「……だよなあ。じゃあ、もう少し気張ろう」
「ああ」
フルドとカルドはついに剣を鞘からはずし、背中合わせになったまま言った。生界では一時期死ぬことばかりを考えていた自分たちだ。その頃の自分たちが今のセリフを聞いたらどう思うのだろう。
しかも死んだ後に「生きたい」と思う心を見つけるなんて、かなりおかしなことをしているに違いない。
だけど、後悔はない。
生人のうちにそれを見つけておけば……。そんなことは微塵も思わない。確かに見つけるのは遅すぎた。だけど決して意味のないことじゃない。
二人は剣を振るった。じりじりと近づいてくる敵に対し、「間合いの中に入るな」と目で威圧する。そしてそれでも入ってくるものは斬りつける。最初はそれで上手くいったが、数に差がありすぎた。体力の限界は近い。
「あー。綺麗な花と川が見えてきたかもしれない」
「……俺たちとっくにそんなところ越えてるだろう」
「……まあね」
しかし冗談ではなく、本格的にまずい状態になってきた。どちらかというとカルドの方がまずい。フルドと合流する以前から剣を振り続けていたのだから当然のことである。だがカルドが剣を振れなくなれば必然的に二人とも殺されてしまう。一人で、しかもハンデを背負ってまで戦えるような状況ではないからだ。もしかしたら、本格的に死を覚悟しなくてはならないかもしれない。
『――』
「!!」
二人は同時に、同じ一点を見つめた。何か聞こえた。光人の怒鳴るような声に混じって、確かに何かが聞こえた。「タイダさん?」
「タイダ」確かにそう聞こえた。しかし光人たちは誰一人として気づいていないようだった。
「タイダさんが来ているのか?」
カルドが言った。呼んでいたのはおそらくウエルの声だ。なんだか切羽詰ったような声だった。
「まだ来られないはずじゃ……」
カルドが困惑気味に言葉を発する。
「え?」
カルドは事情を知らないフルドに、タイダが昨日の夜から朝にかけて光の国に足を運んでいたため、しばらく休息しなければならないことを手短に説明した。
「それってかなり危険じゃないか! タイダさん、まさか一人で突っ走っちゃったんじゃ……」
フルドが驚き、叫んだ。それは有り得ない話ではなかった。あの人は何でも自分一人で背負い込もうとする癖がある。フィオナさんの件でカルドが質問した時には積極的に助けに行かせようという雰囲気ではなかったが、そもそも初めから自分一人で助けに行くつもりだったのかもしれない。
「……そしたらさ。こんなところで立ち止まってなんか、死んでなんかいられないよね。早く切り抜けて、タイダさんやウエルのところに行かないと」
額に大粒の汗をたらしながら言う。
「……そうだな」
そう、自分たちには死ねない理由ができた。できてしまった。ウエルやタイダだけじゃない。他にもたくさんの大切なものがある。そして自分たちはそれを失わないために、剣を振り続けている。
生界では剣術なんて「所詮子供の遊び」程度にしか思っていなかった。勝てば嬉しく、強くなれば満足感を得る。その他のゲームと何ら変わりのない感情を抱いていた。
人を斬ったことがない。実戦は一度もしていない。まだ小さな子供だった。そう言ってしまえば終わりかもしれない。だけど、自分たちは霊界に来て確かに変わり、そして多くのものを得た。
命の重みも、大切なものも、どうしても剣を振らなくてはならない時が必ずあるということも、全て学んだ。もちろん、今するべきことも。
「……カルド、声の聞こえてきた方向へ一点突破しよう。少しくらい殴られたって、斬られたって、気にするな。死ぬことだけは避けて、そうじゃなければ腕の一本くらいくれてやれ」
フルドは普段の調子を取り戻し、強気に言った。
「ああ」
カルドも力強く答え、一瞬の後に二人で飛び出した。二人の目には今、タイダとウエル以外映ってはいなかった。




