12 フィセナ
――数十分前、闇の国。
「うわっ、何!」
フルドは崩れた家々を確認しているさなか、突然三人の男たちに取り囲まれた。男たちがフルドに襲いかかる。
「放せ! 放せって!!」
フルドが叫んだ。剣でも持っていれば余裕で勝てたのだろうが、あいにく格闘は得意ではない。
それなりに体は鍛えられているはずだし格闘技もできないわけではないが、相手が三人で、しかもその全員が肉体派とくれば、さすがのフルドも敵わなかった。フルドはあっさりと右手と左手を一人ずつに固定された上、足も抱え上げられてしまって、かなり恥ずかしい状態だった。
「このっ」
必死に手足をばたつかせるが、そうこうしている間に光門を通り抜け、光の国に連れ去られてしまった。フルドはあ然とした。
「お前ら光の国の……!?」
これは大問題だった。光の国では二十分程度しか生存できない。本格的にまずい状況だった。
「少しは静かにしてろ」
光人たちが自分たちの安全領域に入ったのをいいことに、どこからかロープを取り出してフルドの手足を固定した。その上、さるぐつわまで噛まされる。
「む――」
フルドはなおも抵抗するが、ほとんど身動きの取れないこの状況では全く意味がなさそうだった。
「ねえ」
唐突に女性の声が聞こえてくる。
「その子、わたしがもらってもいいかしら?」
声に反応し、フルドを抱えた三人が振り返る。
「フィセナ様!!」
光人たちが三人ほぼ同時に叫んだ。
(フィセナ……、確か次期番人の? )
フルドは思わず抵抗を止めてフィセナの顔を見上げた。美しい金髪をなびかせ、にこやかに微笑んでいる。確かに微笑んでいるのだが、この状況ではそれが何となく恐ろしかった。
「これはシャラー様のご命令ですので、いくらフィセナ様でも……」
光人の一人がしどろもどろに言う。シャラーは現番人だ。位でいえばシャラーの方が権威が高いに決まっている。
「この子がここに来た時点で闇の番人がおびき出されることはもう確定したし、仕事は終わったんでしょう? それなら構わないじゃない」
「でも危険分子に変わりはないから、『二十分間光の国に留めて殺せ』、との命も下っていますので……。しかしその……、どうしてそのようなことを?」
光人たちは不思議そうな顔をする。この場で引き取りたいということは、フルドを生かす気があるということなのでは、とその場の誰もが考えたからである。その場合はフルドを殺してしまえという命令に反することになるので、いくら次期番人の命令とはいえ、聞くことはできないのだろう。
「理由を、聞きたいの?」
フィセナはわざと焦らすように言った。光人三人は無言で頷く。
「そう。聞きたいの」
フィセナはやはり焦らすように言った。
「理由は簡単よ。ただ、見たいから」
フルドが顔をしかめる。フィセナがにっこりと笑った。
「ただ、消える瞬間を見たいから」
そう言ったフィセナの顔は確かに笑顔を浮かべているはずなのに、どこから見ても冷酷そのものだった。




