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闇の番人  作者: 遊一(Crocotta)
前章 暗黒の光、希望の闇
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   リミット(2)

「ちくしょう……」

 カルドは柄にもなくいらついていた。時間はわずか三分しか残っていない。それなのに自分はまだ城にすら辿り着いていないのだ。先ほど別れたウエルの方も心配だが、自分が住民をあらかた殴って進んでいるから特に心配しなくても大丈夫だろう。それより問題はフルドの方だ。

 時間は待つことを知らず、後ろからどんなに必死で追いかけようと、どんどん先に進んでいってしまう。

「百六十五、百六十四、百六十三――」

 無意識に時間を計り、その度にいらついていた。

 前に進みたいのに、どんどん住民の波が押し寄せてきて、なかなか前に進めないもどかしさ。時間はほとんど残っていないのに、目的地は目の前に迫っているのに、そばまで近づけない焦燥感(しょうそうかん)。ずっと剣を振り続けていたことによる腕の痛み。そして腰につけた対になっている剣の片割れの重み。自分の無力さ。その全てに、いらついていた。

 城はすぐそこなのに。目の前にあるのに。

「ちくしょう!!」

 カルドは無我夢中で剣を振った。腕が痛い。それ以外はほとんど何もわからなかった。自分の叫び声がぼんやりと頭に響く。そしてそれにつられるようにして一斉に叫び出す光人たちの声。そんな中でもなぜだか時計の針の音だけは、頭の中に大きくこだましていた。

 百十三、百十二、百十――

 もう二分もない。

 百十、百九、百八――

「相手は一人だ、やっちまえ!」

 周囲に集まった光人たちのリーダーらしき人物が声を張り上げる。それに応えて、周りも一斉に声を上げた。

「おおおおおお――」

 拳を上げ、(なた)やら鎌やらフライパンやら様々な武器を持った光人たちが、カルドに向かって一斉に飛びかかる。

「――九十九」

 ついに、二桁になってしまった。

「ちくしょうっ!!」

 一気に数十人もの光人をなぎ払い、城へ一直線に向かっていく。頭の中にはフルドが消えてしまう姿が幾度となくちらついていた。

 まだ、消えてない。消えてないんだ。

 何とか自分に言い聞かせるが、なかなか映像は消えてくれない。カルドは時計の音と消えない映像の中で、何とか剣を振るっていた。周りはもはやぼんやりとしか見えなかった。

 しかし城の扉が目の前に来た瞬間、カルドの意識は瞬時に回復した。目の前には門番が待ち構えている。門番は(やり)を構え、カルドの急所を狙って迷いなく突き出してきた。

 門番に()くぐらいなのだからそれなりの腕を持っているのだろう。先ほどまでのカルドだったら危なかったかもしれないが、意識のはっきりとしている今は、一本の槍くらいカルドの敵ではい。

 カルドは勢いよく突き出された槍の先をよけ、その槍を左手でつかみながら剣を横に振り払った。門番はまだ抵抗しようとしたが、槍は一度間合いに入られると異様にもろい。カルドは相手の槍を取り上げ、遠くに投げ放った。そして素早く城の扉に手をかける。しかし……。

 カチッ。

 時計がその場には不釣合いな軽快な音を鳴らした。やけに近くでその音が鳴った気がする。

 ……時間切れだった。

 扉を開けた直後、まさに足を踏み入れた瞬間に、時計が最後の時を刻んだ。十五分という制限時間の終了の音。時計はこの状況をせせら笑うように、軽快に音を鳴らしてみせた。

 カルドの頭の中ではその音だけががんがんと鳴り響き、目には先ほどのフルドが消えていく映像がさらに色濃く映し出されていた。

「そんな……」

 カルドはがっくりと膝をつく。

(ここまで来たのに……)

 いや、正確にはここまでしか来られなかったのか。

 城まで来たとはいってもまだ門前。最上階はまだまだ先である。

「フルド……」

 カルドは小さく呟いた。タイダから連絡が来ないということは、おそらくウエルの方も進展がなかったと取っていいだろう。

「くっ……」

 カルドはよろよろと立ち上がった。万が一、万が一(、、、)、フルドが助からなかったとしても、まだウエルがここにいる。ウエルだけでも助けなくてはならない。

 カルドは昔から、心の奥底で無意識のうちに、自分とフルドは同じ時期に同じように死ぬのだろうとずっと思っていた。実際、ここに来るに至っては本当にそうなった。いや、そうした。だからここに来てからも、一緒に死ぬものだと思っていた。転生するにしても魂ごと消えるにしても、一緒に死ぬものだと、どこかでそう思っていた。だけど今ここで自分が死ねば、ウエルの生存の可能性はぐんと減る。それだけは避けたい。避けなくてはならない。

 つまり、もしフルドがもう消滅していたとしても、死んでいたとしても、

「まだ、死ねないな……」

 そう、まだ死ねない。



「駄目だった……のか?」

 タイダは闇の中で唸るように言った。

「僕が夜中にフィセナのところに行かなければ、もしかしたら……。いや、それはないか」

 タイダは苦笑した。いくらなんでも自分のことを過大評価しすぎだ。自分にはそんな大きな力はない。ウエルに言われた通り、仮に光の国へ共に行っていたとしても、おそらく結果は何も変わらなかっただろう。

「僕は昔から何も変わってないな……。いつも無力で、小さくて」

 顔の前に持ってきた右の手のひらを見つめ、ぐっと握る。

「お前は、よくがんばった」

 見かねたラガーがそばに寄り、タイダのだらりと垂れた左手の甲に、自分の顔をすり寄せて言う。

「よくがんばった……」

 ラガーは繰り返し呟いた。

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